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「教育」を外側から見る(後編)

現代日本の教育状況

 さて、現代のわが国における、教育に関係するシステム、おとなの意識と言動、子どもの意識などの主流(多数派)は、〔表〕で見ると左(教育的)の欄に集中していることにお気づきと思う。
 たとえば「⑵子どもと向かい合う(指導する―される)関係と、子どもと同じ方向を一緒に見つめる(横並び)関係」では、どちらが教育上好ましいかと質問したら、前者が多数派になるであろう。
 ほかのテーマに関しても、より一般的な教育の姿や意識は左側のほうであり、右側は現代のわが国ではまだまだ一般的な風潮・傾向とはなっていない。

 このことが意味しているのは、現代のわが国では、社会全体が教育的であり、したがって学校も家族も教育的であるため、おとなと子どもの関係が教育に偏っている――子どもに教育的に関わることが多く、非教育的(前述)な関わりが少ない――ということである。
 先に挙げた教育の要件を見れば、教育には「意図性・非日常性」「否定性」などの要素がある。そこで、おとなと子どもとの関係が教育に偏っているということは、それだけ子どもが自然体で生きることを妨げられ、子どもの基本的欲求である「存在の肯定」も満たされにくい状況である、ということになるのである。

 むろん筆者は、反教育論者ではない。学校も教育もあっていい。しかし、現代のわが国は、明らかに “教育過剰状態” である。

「子どもと教育の関係」という視点

 本稿で述べたものを「教育」と認識すれば、教育とは本来、自明視して無条件に推進できる万能な営みではなく「功罪両面があるもの」「光と影があるもの」と考えられるであろう。
 つまり子どもにしてみれば、教育から良い影響を受けることができたときはよいが、教育が自分に合わなかったときは、それから逃れたり身を守ったりする術が与えられていない。だから、どんなに愛情を持って熱心に教育してもらっても、それが自分の個性や感性に反する内容や方法だったら、その教育は自分への重圧と化し、しかも受け身でいる限り、そのなかで生きるしかない。

 もはや子どもは、教育の功罪の「功」(光と影の「光」)の部分を避けるような、教育への上手な対応をするしかない。これは、子ども自身が教育に対して受け身でいることをやめ(=主体性を獲得し)、自分に合った “教育の受け方” を、自ら考え判断することで可能になる。
 ただしそのためには、おとなも「視点を教育の中から外へ移して “子どもと教育の間=子どもと教育の関係” に置くこと」すなわち、教育の推進――良い(正しい)教育の追求――ではなく、子どもがどんな教育を受けても大丈夫なように、子どもと教育の関係を柔軟な、着脱可能なものに変えていくことに、力を注がなければならない。

初出:教育対策研究所機関誌『おしえる そだてる いきる なやむ ~不登校?過保護?指導法?~』第2号(2001年7月25日)

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※1999年度から始めた個人事務所「教育対策研究所」3年目の目玉業務として自費出版した機関誌の第2号に掲載した論説記事『「教育対策」という発想 教育の枠の外から教育をみる思考』の一部を抜粋編集して転載しました。

※先月と今月の2回にわたって、不登校やひきこもりと直接関係ない文章を転載したわけですが、私が話したり書いたりしているものを多く見聞きしている方には、その意図がおわかりいただけたと思います。特に今回転載した部分には、私がメールマガジンに書いたり講演で話したりしている内容がいくつも見られます。すなわち、私にとって「教育対策」は不登校・ひきこもりへの理解と対応にもつながる思考法であり、私独自の “体験的不登校・ひきこもり論” の源流とも位置づけられる理念であるわけです。

※私がやっている不登校・ひきこもり相談室「ヒューマン・スタジオ」(ヒュースタ)が3か月に1度開催している家族会「しゃべるの会」、今月23日(土)に「ひきこもり編」を、31日(日)に「不登校編」を、それぞれ会場とZOOMの併用で開催します。それぞれ ↓ の公式ブログ記事をご覧のうえ、よろしければご参加またはご紹介をお願いいたします。

※ヒュースタの新しい看板業務として、先月5年目を開講した不登校・ひきこもり連続講座「ヒュースタゼミナール」の第2回を、23日(土)の夜に実施するにあたり、この回だけの単発受講者を募集しています。対象は原則として不登校/ひきこもり状態への家族支援(相談・家族会)の関係者や志望者、または関心ある一般の方です。こちらもご関心の方は ↓ の公式ブログ記事をご覧のうえ、ご受講またはご紹介をお願いいたします。


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