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「教育」を外側から見る(前編)

※一昨年度と昨年度の2年間、2002年10月に創刊したメールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』のバックナンバーから厳選した100本の掲載文を転載してきました(字句や一文など小幅な修正をしている場合があります)。

※昨年度の最後にお伝えしたように、今年度からはメールマガジン(メルマガ)にかぎらず過去に書いた文章を毎月1本、時系列に転載することによって私の自称 “体験的不登校・ひきこもり論” の進展をたどりながら理解と対応の参考にしていただけるよう進めていきたいと考えています。

※先月は、前編でひきこもり時代の思考プロセスを説明したうえで、動き出して2年目の22年前に自費出版した雑誌『おしえる そだてる いきる なやむ』に掲載した「創刊のことば」を転載しました。続く今月は、21年前に自費出版した同誌の第2号に掲載した論説の一部を抜粋編集して転載します。カバー画像に写っている表を参照しながらお読みください。

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教育は当たり前か

 教育やカウンセリングを受けた子ども時代の体験を、疑問を感じつつ振り返っていくうち「良くも悪くも、教育は日々行われている。良い教育を主張するより、子どもが教育にどう対応するかを考えるほうが現実的だ」と思うようになり、また同じころ、教育を自明視せず “教育” それ自体の存在意義を問う「教育の枠の外での視点」からの言説*にも出会うようになった。

 「教育」というと、制度、学校のシステム、教師の行為、などをひっくるめた社会の一分野とされ、心理臨床の分野における子どもへの心理治療(カウンセリング)や福祉の分野における子どもへの援助、さらには児童精神医療や親の子育てなどとは区別されているが、これらの営みはすべて「子どもへの働きかけ」であることには違いがない。そのうえ、目的(子どもの健全育成)と働きかける意識(子どもの変化や成長を願う)はおおむね共通しているほか、細かく見ていけばさまざまな共通点を発見することができる。
 このことから、教育から医療にいたるまで、子どもに関わるあらゆる営みには、立場に関係なく似通った意識や実践を生み出す構造=共通する要素があることが推測される。

 結局、教育の枠の中での視点は、受ける側の子どもをカヤの外に置く “教育を推進するおとなの論理” に過ぎないのではないか。

教育の新たな定義

(1)教育のシステムの面から(転載者注:佐々木賢氏の定義の引用です)
①教える専門家がいる
②カリキュラムがある
③教科書がある
④最後に評価し、序列をつけ、資格を与える

(2)現代人の意識と行為の面から(転載者注:私が考える要件です)
⑤非対称性・権力性――非対称関係かつ権力関係のもとに行う(のが当然だ)
⑥安全性・効率性――子どもの問題を防止する(べきだ)
⑦意図性・非日常性――意図的かつ非日常的である(べきだ)
⑧教導主義――教えることが柱である(と思う)
⑨専門性・結果志向――技術や効果を重視する(べきだ)
⑩上昇志向・否定性――「発達」「変化」「向上」など、現状の改善を目的とする(べきだ) 

教育と非教育の違い

 これまでの内容をもとに、教育に関係するシステム、おとなの意識と言動、子どもの意識などについて思いつくままにテーマを挙げ、それぞれに対して教育的な考えを左の欄に、非教育的な考えを右の欄に分類する表を作成してみた(⇒〔表〕)。(転載者注:カバー画像に写っている表です)
 テーマごとに左の欄に記載したのは「教育的な○○」で、右の欄に記載したのは「非教育的な○○」(いずれも○○にはテーマ名が入る)と呼べるものである。

 すべてのテーマについて言及する字数がないので、一例として、旬のテーマ(転載者注:21年前に議論されていたテーマ)である⑹を説明したい。
 これは、学校がボランティアを授業のなかで強制するという発想は教育的であるが、たとえば近所の施設が募集していることを生徒に伝えて橋渡しするような、日常に生じた必要性を満たすための行為は、非教育的なボランティア教育だ――という意味である。
 このようなイメージで、ほかのテーマも見ていただきたい。

 さらに、テーマごとに自分の考えや言動がどちらに近いか確認してみることを勧めたい。おそらく教育熱心を自認している人は、全体に左寄りになるであろう(その意味ではこの表は「あなたの教育熱心度テスト」と題して使えるかも)。

                           <後編に続く>

*当時筆者が共鳴した、あるいは影響を受けた言説の発信者はおもに次の5人。崎尾英子氏(転載者注:故人)、佐々木賢氏、島内知子氏、平井雷太氏、山下英三郎氏。(50音順)

不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。