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肯定と楽観の対応を(後編)

「困っていません」を乗り越える

 2018年度、私は「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が厚労省の助成金を得て実施した3つの研究のひとつ「保健所等における「ひきこもり相談支援の状況」調査事業のメンバーに選ばれ、ほかの有識者の先生方とともに保健所のひきこもり支援状況の調査や冊子『保健師さんのためのひきこもり支援実践ハンドブック』の執筆にたずさわりました。

 以下、そこに書いた内容から引用します。

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 ひきこもり本人を問題視して本人や家族を変えようとするのではなく、現在の生活を尊重しながら、そこに “良いこと” をひとつひとつ加えようとする姿勢と、そういう目的を丁寧に説明することが大切です。

 「困っているはずなのに」ではなく「困っていないのは良しとして、もっと生活が良くなるためにしてほしいことは何ですか」という、相手本位(筆者注:本人本位)の視点に立つことです。

 支援を受けることを自明の課題だとして提案するのではなく、現在のひきこもり生活をより良く(もっと楽に、もっと楽しく)していくにはどうしたら良いかを一緒に考える姿勢が求められます。

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 いかがでしょうか。これは保健師さんによるひきこもり対応への提案ですので、ご家族の方はこれを家族による不登校/ひきこもり対応に読み換えると理解していただけるのではないかと思います。

 このように、本人へは「このままではダメだ」といった<悲観的な予測>や「今の生活を変えなければならない」といった<否定的な説得>ではなく「こうしたらこんなに楽になれるのでは?」といった<楽観的な予測>や「今の生活のままで、さらに楽しくなるために何をしたい?」といった<肯定的な意思確認>を積み重ねていきたいものです。

 以上 “心の岩盤” を掘って穴を貫通させるための考え方や対応のあり方についてお話ししてきました。ただ、相手は固い岩盤です。 “心の鑿(のみ)” や  “実践の鑿” を気長に振るい続けていきたいものです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第237号(2019年8月28日)

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※「<願い>と<思い>の統合」についての詳述から「 “心の岩盤” の成り立ちと対応」へと移っていく流れで書いていた文章の最後です。今回の文章に書いたことは、家族はもとより家庭訪問している関係者にも適用できる理念であり、研修講師をつとめる際にも盛り込んでいます。先日もケアマネジャー研修会での講演でお伝えして、ご好評をいただきました。

※このメルマガバックナンバー掲載文、前編で挙げた169号をはじめ拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

※この文章でメルマガ『ごかいの部屋』を読みたくなられた方は、こちらの配信サイトのページで読者登録をお願いいたします。登録読者数は、これを書いているきのう(3月1日)時点でちょうど900人です。

※昨夜、私たちが作成した「ひきこもり人権宣言」が初めてネット番組に取り上げられました。わずか30分の間に当事者ふたりのVTRと人権宣言作成班の木村ナオヒロ共同代表兼執筆責任者を交えての討論という内容でしたので消化不良の感は否めませんが、ご関心の方は見逃し配信をご覧ください(パソコンならすぐ見られます)。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。