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順番を並べ替えよう(後編)

間違っている優先順位

 私がここで話しているように、親御さんなど周囲の方や関係者の方の多くは、学校/社会に出ている人たちと今の本人を比較しておられますから、学校/社会復帰につながる行動が実現することを優先順位の上位に置いておられるでしょう。

 たとえば、先週転載した文章に書いたように「外出するようになる」や「規則正しく生活できるようになる」は優先順位が高いわけですね。

 それに比べて、学校/社会復帰につながらない行動、たとえば「家事を手伝う」は「どっちでもいいこと」ですし「ゲームをやる」は「学校/社会に戻ってから好きなだけやればいいこと」だと。つまり優先順位が低いわけですね。

 ところが、前回もお話ししたように「外出」や「規則正しい生活」が実現するのは、多くの場合エネルギーがかなり回復してからであり、ましてや――インタビュー部分にあったように――「本人が学校/社会のことに向き合うのはいちばん最後」という順番が最も安全確実な場合が多いと感じているのです。

人と比較するなら生活の部分を

 そのため私は、通学/就労していることを除いた部分の生活が自分なりにできている人、すなわち「それなりに楽な気持ちで生活でき、そのなかで自分の楽しみを持っている人」と今の本人を比較しますから「楽な気持ちで生活できるようになる」「趣味を楽しめるようになる」といったことを優先順位の上位に置いています。

 本人の状態や言動をさらに細かく見ていると「荒れていたのが穏やかになる」「笑顔が増える」「食欲が回復してくる」などといった<心と体>の要素と「入浴の回数が増える」「家族旅行についてくる」「趣味のイベントに行く」などといった<私生活>の要素が挙げられます。

 さらにインタビュー部分には「早寝早起きができる」「朝食をとって歯を磨く」「テレビを観たりゲームをしたりして楽しむ」「一家食卓を囲む」などといった要素が挙がっています。

 それらが、前回お話ししたとおり人それぞれの順番でひとつひとつ自然に実現していくよう対応を積み重ねることが大切なわけです。

何を目的とするかが大切

 ここで「丸山が挙げていることのなかに外出や規則正しい生活に含まれる要素が入っているではないか」というご指摘があろうかと思います。

 しかし、私は学校/社会復帰のためではなく、あくまで「本人の生活が楽で楽しみのあるものになる」ことの要素として「外出」や「規則正しい生活」を挙げていることをご理解いただきたいのです。

 つまり「外出は楽しい」「朝起きられたら気持ちいい」という日常的な感覚です。決して「外出や規則正しい生活ができると学校/社会復帰に近づく」という意味で順番を考えているわけではないのです。

 本人にとって、この違いは天地ほど大きいのですから「どんな生活を築いていくか」という観点から本人の歩みを見守っていきたいものです。

 次回は、その順番を着実に踏めるようになるために必要な見方考え方についてお話しします。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第222号(2017年2月10日)

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※わが子の学校/社会復帰のためにと熱意を注ぐ親御さんが多いなか、私は相談や家族会で「その熱意をお子さんの生活に向けて」と伝えています。そのことをこの文章では「生活課題の優先順位」という観点から訴えています。次回はまた別の観点からお得意のたとえ話を使って訴えます。

※文中で引用した『本人を変えるのではなく、周りを変えていく支援』(インタビューサイト・ユーフォニアム)の全文をお読みになりたい方は、 ↓ をクリックしてください(お話ししたことを無編集で掲載してあるため長いです)。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

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※来たる12月19日(日)と来年1月10日(月祝)、私が「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」主催のひきこもり研修会(基礎編)で講師のひとりをつとめます。両日とも同内容ですので、都合のよいほうをお選びいただけます。ただし、12月はきょうが申し込み締め切りですので、ご都合のよろしい方は ↓ の公式ブログ記事の末尾にリンクした開催&申込要項を早急にご覧ください(このところお知らせが1週間ずつ遅くなっていることをお詫び申し上げます)。


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