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まずは規則正しい生活から?(後編)

家族との関係や生活ぶりをどう見るか

 まず家族との距離のとり方については、お話ししたとおり本人が心のありようによってそれぞれの家族との距離を無意識のうちに決めていることですので、心のありようが変わればそれぞれの家族との距離も変わります。したがって、本人との距離を無理に縮めようとせず、本人の心のありようが変わるのを待つ姿勢が求められます。

 実際、わが子と話ができなくなっていた親御さんが、じっくりかまえてわが子を見守っているうち、だんだん話してくれるようになったというケースがあります。

 次に本人の生活については、前述のように現在のエネルギー量に応じたスタイルですので、それ以上の行動や努力を求めれば、エネルギーの消耗を招いてあとあと生活が逆戻りしてしまう恐れがあります。

 言い換えれば、生活スタイルはエネルギー量が増加するにつれて進展します(入浴の回数が増える、やっていたかったことを始める、など)ので、そのつど「今のエネルギー量ではそういう生活スタイルが適しているんだな」と理解し、今の生活スタイルを尊重することが大切です。

生活課題をクリアする順番

 さて、不登校/ひきこもり状態において、ご家族が意識している課題は、前に挙げた「入浴の回数が増える」「ゲームが短時間でも満足できるようになる」「規則正しく生活できるようになる」「外出できるようになる」といったことのほかにも「勉強するようになる」「床屋に行けるようになる」など、人によってさまざまです。そして、それらをクリアするのに必要なエネルギー量もまた、人によってさまざまです。

 そこで、本人は少ないエネルギーでできることから順にクリアしていきますから、大量のエネルギーを要する課題ほど後回しになります。

 今挙げたなかで最もエネルギーを要するものは「規則正しい生活」ということは多くの本人に共通しているようです。ただし、それ以外のことをクリアするために必要なエネルギー量は人によって違うため、クリアする順番も人によって異なります。

 実際「最初のころに課題と感じていたことを本人が順次クリアしていき、今はすっかり元気になったが、生活リズムの乱れは直っていない」という話をよく聞きます。それどころか、生活リズムの乱れが直らないまま、進路や利用する支援機関を決めて動き出した人もいるのです。

規則正しい生活には膨大なエネルギーが必要

 ところが、少なからぬ専門家や相談員は「まず規則正しい生活をさせて」と指示するようです。確かに、規則正しい生活ができれば心も体も調子が良くなりますし、行動する意欲もわいてくるでしょう。

 しかし、寮生活でもないかぎり「まず生活が規則正しくなり、そのおかげでほかの課題をクリアしていった」という話を私はほとんど聞きません。「規則正しい生活をさせるよう指示されたので本人にやらせようとしているけど、一向に改善しない」とか「生活リズムが乱れたまま趣味の集まりに行った」などという話なら数多く聞いています。後者の場合、生活リズムを直すことより趣味の集まりに行くことのほうが少ないエネルギーでできる行動だった、と考えられるわけです。

 このように、課題をクリアする順番は人それぞれですから、今のエネルギー量では実現困難な「規則正しい生活」や「外出」より実現可能な行動を応援していくほうが、現実的な対応ではないでしょうか。

 本人の生活への理解と対応のお話、次回も続けます。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第221号(2016年12月15日)

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※私が相談や家族会を通じて気づいたなかで、最も重要だと感じた点のひとつです。私はこの「エネルギーが増えるにつれてできることやクリアする課題が増えていく」という気づきから考案した「心のビーカー」という図を相談や家族会、講演や研修で活用し本人理解にお役立ていただいています。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

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