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ドミノをたくさん置こう(後編)

ルーティンが失われた生活

 私たちが<規則正しい生活>や<外出>ができているのは「学校に行く」「通勤する」「家事や子育てをする」などといった<毎日決まった用事(ルーティン)>があるからではないでしょうか。

 ところが「学校/社会に出られない」状態になった本人は、それが失われています。しかも、多くの場合それは外出をともないますから<外出>する用事もなくなっているわけです。このように<ルーティン>がなく<外出>する用事もないままで、本人は<規則正しい生活>を送ることができ<外出>する動機を持てるでしょうか。

 趣味や家事など「毎日楽しくあるいは充実感を持ってやれること」が生まれ「それが日中にしかできないこと」だったり「その一環として行く場所」が生まれたりして、初めて本人は「早く起きよう」と思えるようになったり<外出>できるようになったりするのではないでしょうか。

 だとしたら<外出>や<規則正しい生活>にこだわらず、本人ができることを認めたり応援したりしていれば、本人はいずれ自然に外出したり早起きしたりできるようになるでしょう。

趣味を楽しめるようになると

 「いや、本人はテレビを観て笑っている」「ゲームに熱中しているから楽しいはずだ」などと反論なさる方がおられると思います。

 何度かお話ししているように、本人の多くはテレビやゲームなどを楽しいからやっているのではありません。「学校/社会復帰のことを考えたくない」「何もしていない生活の空白を埋める」ということだからなので、じゅうぶんには楽しめていない人が多いようです。

 10月13日に転載したメルマガ212号でお話ししたように、今やっていることが楽しくなり趣味としてできるようになると、のめり込む必要がなくなりますし別の楽しみを探し始めることもあります。あるいは「ゲームに熱中していたが飽きて別の趣味を始めた」という話もときどき聞きます。

 インターネットをやっていて同じ趣味の友だちができ、オフ会に参加するため出かけていくようになった人もいます。

ドミノをたくさん置くとは

 「ドミノ倒し」をご存知だと思います。

 テレビ番組で、たくさんのドミノを全部倒すことをめざして並べている場面を観ていると、ドミノを狭い間隔で置いていることに気づきます。

 これを「本人がやっていない/できていないことが、やるようになる/できるようになるプロセス」にたとえますと、前述のとおり親御さんなど周囲の方々は<勉強><読書><外出><規則正しい生活>というドミノは置きます(=望ましい行動として想定します)が<インターネット><ゲーム><テレビ>などのドミノは置きません(=望ましい行動として想定しません)。ところが、本人にとってそれらのドミノの間隔は広すぎるわけです。そのため「ドミノがひとつも倒れない(=実行できない)」ということになってしまいかねません。

 しかし、それらの前や間に<インターネット><ゲーム><テレビ>など、とにかく本人ができること(=ドミノ)をすべて置けば、ドミノの間隔が狭くなるので「ひとつまたひとつと倒れていく(=実行できていく)」ということになりやすくなるわけです。

 本人の生活に、たくさんのドミノ(=できそうなこと)を置いて(=想定して)いけばいくほど、本人の気持ちは楽になっていくのです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第223号(2017年4月5日)

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※相談や家族会をやっていて、本人の行動を望ましいものと望ましくないものとに分けてとらえている親御さんが多いことに気づいて以来、私は講演等も含めて「本人の行動は等価値である」という自説をお伝えするようにしています。

※今年もご愛読くださいましてありがとうございました。フォロワー様が140人を超え感謝しております。この転載企画もいよいよ来年最初の3か月を残すのみとなります。来年もよろしくお願いいたします。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

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