まどろみの中で目指した村

まどろみの中でもちょっとした夢を見る。
今日は、電車に揺られて遠くの村に行く夢を見た。

聞いたことのない地名で、おそらく現実にはない場所だったけど、夢の中の自分は、そこがどんな場所か知っている。
夢の中の自分の知識ではそこはとんでもない田舎だった。
とんでもない田舎を目指して、大きなリュックを背負って電車に揺られていた。
その村は、ローカル線の端の端の駅で、五文字の地名だった気がするけど、目が覚めた今となっては、もう思い出せない。

でも、その村は確かに夢の中にはあった。

乗っていた電車も、路線図も、現実にはないものだった。
電車を乗り換える為に、その五文字の地名の駅までの切符を握って、乗り換えの駅の階段を上っていつところで目が覚めたので、その村に、その駅に着く事はなかった。

でも、夢の中の自分は、そこに行くのは3回目だった。
なので、夢の中の自分の記憶の中にはその村のイメージはある。

夢を見ている時間には、その村には行ってないので、その村の景色は夢の中では見ていない。
が、夢の中の自分の記憶の中にある村の景色は覚えている。

もちろんその村には住人がいて、その村の生活があった。
山があって田んぼがあって、家があって店があった。
そんな村へと運ぶ電車があった。

その全ては、目が覚めた瞬間に全て消えて無くなったんだろうか。

僕が起きてしまうことによって、あの村の住人や、あの村の生活、生き物たちも全て、消えてしまったんだろうか？

僕が眠る前に夢の中の自分は、いつ二回もあの村に行ったんだろうか？

そんな事を考えたらなんだか怖くなってしまった。
夢から覚めることで、村を消してしまった罪悪感が、チクリと刺さり、そしてなんだか寂しくなった。
夢の中の記憶で会った村人たちには、もう二度と会えないだろう。
もう、顔も思い出せない。

あの村はなんだったのだろうか。

現実にそんな村に行った記憶もないので、夢の中で勝手に作り上げただけなんだと思う。

それでも、まどろみの中のあの場所には確かに生活とその村の息遣いがあった。

全てが消えたわけじゃなくて、今もどこかにあの村がある気がしてならない。
絶対にたどり着けない場所に。

あの村の存在を忘れる事も簡単だ。
今までも、夢の中で行った場所や会った人の事なんて、目が覚めて仕舞えば、「なんだ夢か」の一言で、その景色は気化してきた。

だけど、あの村の存在だけはわざと覚えておこう。
自分だけが知っている村。

そうすれば、あの村が消える事も無い。
これを書いている今も、明日も来年も、あの村ではこの世界にいない人たちが生活を続けていく。

今回の村に限らず、夢の中にしかない場所はたくさんあるし、夢で変なところに行ったけど、そんな場所、現実にはないのにって事は皆さんにもあると思う。

僕はふと、その「夢で見た場所」は地続きなんじゃないかと思った。

夢の世界には、実はこの世界と違うもう１つの大きな地図があって、毎回の夢で行く違う場所も、全部その地図の中にあるんじゃないかと。

そして、あなたが夢の中で見た景色も、僕が夢の中で乗っていた電車で、行けるかもしれない。

全員が、夢の中で同じ地図の上にいるのだ。

そして、まだまだその地図には行った事ない場所がたくさんある。
あなたが昨日夢の中で行った場所に、僕は今日行くかもしれないし、僕が行こうとしていたあの村に、あなたは幼い頃に見た夢の中で行ってるかもしれないのだ。

あなたが夢の中で会った知らない人は、僕の夢の中で会った知らない人と兄弟かもしれない。

そう考えると、夢の中での世界もめちゃくちゃ広いし、夢の中の世界は僕が起きている時も動いている。

なぜなら、この瞬間も誰かは寝てるわけで、夢を見ているわけだ。
つまり、誰かはあの夢の中の地図のどこかにいるはずで、そこで街の人に出会っている。

もし、あの村に行くことがあったら、僕がよろしくと言っていたと伝えて欲しい。

夢の中の白地図を塗り潰していこう。

#エッセイ #コラム #随筆 #夢