コラム8 処置で子どもを泣かせない!
子どもが注射で泣くのは当たり前…なんて思っていませんか?
違います。
特に日本は「子どもに痛みを感じさせないようにする」取り組みが遅れている国と言われています。
そんなこと言われても…
子どもって病院に連れて行ったり、診察室・処置室に入ったりするだけで泣くじゃん…と思うかもしれません。
はい。それはすでに、赤ちゃんの頃から痛い処置を何度も受け、「病院や診察室=痛いところ」というイメージが染みついてしまったからです。
すでに失敗した結果ということですね。
ちなみに「赤ちゃんは痛みを感じにくい」とおっしゃる方もいます。
大昔は僕もそう習いました。
赤ちゃんと成人では痛みを感じる神経のサプレッション(抑制)の回路が異なるとされています。
なので、昔は「赤ちゃんは痛みを感じる神経の働きが弱い」と考えられていたんですね。
でも最近では昔と完全に逆で、「赤ちゃんはが痛みを感じる神経の抑制が弱い」ことが分かっています。
つまり、赤ちゃんの方が痛みを感じやすいんです。
昔習ったことが正しいとは限らない。
お医者さんは生涯勉強が大事です。
そして、痛みというのは記憶として強く残り、一生影響します。
最近話題の「痛みの記憶」というやつですね。
実際に、Lancetという超有名な雑誌に1997年に発表された論文で
Effect of neonatal circumcision on pain response during subsequent routine vaccination. Taddio A, Katz J, Ilersich AL, Koren G.Lancet. 1997 Mar 1;349(9052):599-603.
というものがあり、産まれた後に無麻酔で割礼(おちんちんの皮の切除)をされた子どもは、予防接種において他の子どもより痛み刺激に弱くなっているというデータがあります。
衝撃ですね。
じゃあどうするのよ?という話ですが、
子どもを痛みから守る方法には大きく分けて2種類あります。
①実際に痛みを弱くする方法
と
②恐怖を取り除く方法(ディストラクション)
です。
①実際に痛みを弱くする。
これは麻酔と、技術がありますね。
外国では、「注射(主に予防接種)に行くよ」と言われた子どもが、自分からよく「Magic cream please!(魔法のクリーム塗って~!)」と要求します。
エムラクリームのことです。
皮膚面に塗っておけば麻酔され、痛くなくなるこのクリームですが、アメリカとかだと薬局で売っています。
注射を受ける30分くらい前に塗っておけば、劇的に痛みがなくなります。
日本でも薬局で売り出されるといいですね。
…と他人事のように書いてすいませんが、こればっかりは時間がかかるんですよ。
まあ、ないものねだりをしても仕方がありません。
医療従事者の技術も大事です。
みなさん、採血の時にベテランの看護師さんと新人の看護師さんがいたら、どっちの列に並びます?
全力でベテランさんですよね。
なんなら列が超長くなっててもそっち行きます。
痛くないですから。
…すいません、ちょっと偏見入ってますね。
新人さんでも上手な人いますよー。
でも実際に、採血や注射ってものすごくコツがあって、痛い人と痛くなくしてくれる人はいます。
痛いのは主に皮膚表面ですから、うまく皮膚にテンションをかけ(これ超大事)、針を素早くスッと入れる。そして痛点を刺激しないようにすると、痛みは劇的に減ります。
ぐぐぐっとされる感じがなくなるので。
また、ゲートコントロール説といいまして、1965年にScience誌というこれまたとてもすごい雑誌に載った理論なのですが
まあ簡単に言うと、「他のところが痛かったり刺激があったりすると、注射をされても痛くない説」ですね。
なんか〇曜日のダウンタウンみたい(失礼)。
言われてみれば「あるある!」と思いますよね。
注射が上手な人は、こういうテクニックも併せ持ってやっています。
②恐怖を取り除く方法(ディストラクション)
痛みの大半は恐怖を伴い、記憶として残ることで次の痛み(恐怖)を引き起こします。
トラウマというやつですね。
それに対し、恐怖を取り除くという意味の、ディストラクションが行われます。
日本でも昔からよくされていました。
誰もが一度は聞いたことがある、「痛いの痛いの飛んでいけ(Pain, pain, go away.)」もこれに入ります。
あ、突然うさん臭くなりましたけど、ちゃんと効果があることは実証されていますからね。
処置の最中に気をそらせたり、報酬を与えることで気を前向きにさせたり…といった工夫もこちらに入るでしょうか。
目を逸らしたり、隠したりというのが良いかどうかは子どもによると思います。
ただ1つ、「痛くないからね」とウソをつくのだけは絶対にダメとされています。
ウソをつかれて「痛かった…!」と思った子どもは、次により警戒して、痛みに過敏になります。
お気を付けください。
僕が普段よく使っているディストラクションの方法ですが、子どもの年齢によってもちろん違います。
ちょっと年齢層上の子とかは、手品がウケます。
一瞬で色塗りできる手品の本とか、ちょっと練習がいるけど、手の中でボールが増えるマジックとか。
ぽかん…としているうちに採血が終わります。
1歳~幼稚園児くらいは、お絵かきしてあげるととてもいいですね。
僕は外科医なので、絵が得意です。
採血の後で貼るテープに、目の前で即興で数十秒程度で絵を書いてあげて、「頑張れたらこれ貼ろうね」と言ってあげると、泣かない子が多いです。
がんばったねシール(直筆/今2枚30秒くらいで描きました)
とまあ、原始的な方法をとることが多いわけですが…。
世界ではどうなのかと言いますと、日本よりぐっと進んでいます。
今はもはやVRの時代!
VRソフトを使いVRを見せながら処置をすることで、子供たちの痛みや不安が軽減できるという報告が世界中から盛りだくさん。
VRって単なる画面と違って、完全に世界に没入するから、めちゃくちゃ効果が高いんですね。
うーん、すごい時代…
日本でも
こんな風景が普通になる日がやってくる…かもしれませんね。
余談ですが、広島大学病院 小児外科ではこのようなVRによる小児への治療効果を期待して、小児がんVRゲーム制作プロジェクトを行っています。
世界的な、VRゲームで小児の治療を行っていこうというという流れにのっかって、世界初の小児がんの治療ゲームをVRで作ろうという取り組みです。
VRゲームの中で遊びながらがんについて学んでもらったり、抗がん剤の助けを借りて、がん細胞(擬人化)をやっつけることで、治療の意義を理解したりモチベーションをアップし、副作用を軽減していこう!というものです。
これも広い意味では「ディストラクション」ということになるのだと思います。
(ついこの前まで、広島大学病院をあげて、病院のHPでVRゲーム制作のための寄付金を募集していました)
こどもに優しい治療というのは、技術、心など様々な面で、まだまだ進めていけると考えます。
これからも広島大学病院小児外科の取り組みに注目・応援していただければと思います。
参考
講演のスライドなど
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