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コラム7 子どもの異物誤飲のお話 小児外科専門医の視点から 前編 ―リチウム電池は危ないよ!! 

今日は子どもの異物誤飲のお話。
特にリチウム電池の誤飲が危険!というお話は、お子さんのいるご家庭では一度は聞いたことがあるかもしれません。
僕は昔からそういう患者さんに出会うことがちらほらとあったので、報告をしてきたり、時にはテレビに出演したりして、注意喚起を続けてきました。


テレビ出演(写メなので画質悪い)

そして、ちょうど今年に入って経験した電池誤飲のお子さんがいましたので、国民生活センターに連絡しました。
するととても丁寧に対応していただき、つい先日(令和6年7月31日)立派な注意喚起のデータファイルを作っていただき、HP上での告知をしていただきました。

子どものボタン電池の誤飲事故に気をつけましょう!-電池の放電によるアルカリで消化管が損傷します-(発表情報)_国民生活センター (kokusen.go.jp)

https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20240731_4.html

ということで、ここのHPに行けば終了なのですが、それではあんまりですので、僕が学生さんに講義で使用しているスライドから抜き出しながら、異物誤飲に関してお話をしていきます。

お子さんのいる人ならわかると思いますが、子どもの異物誤飲を完璧に防ぐのはムリです。
ある報告では、「1歳以下の子供を持つ保護者の80%以上が子供の異物誤飲を経験する」とされています。
まあ、ほぼ全員と思っていただいていいです。
だってみなさんも子どもの頃を思い出してみてもらうと、変なものを口に入れて遊んでいた思い出の1つや2つあると思うんですよ。
僕もありますよー。好奇心の塊のような子供だったんで。
BB弾(懐かしい…)を口に入れて、吹いて的当てしてみたり、
余った花火をカッターで割いて火薬を出して舐めてみたり。(絶っっっ対に真似しないこと!)
昭和生まれの人なら、小学校の帰り道にツツジの蜜とか吸ってたはずです。
あ、また話が脱線してますね。

つまり僕が言いたいのは、子どもが異物を口に入れるのを防ぐのはムリなので、「これだけは危ない」というモノは認識しておきましょうということなんです。
本職小児外科医の言う「これだけは危ないモノ」というのは、死亡するか、死亡しなくても一生に関わる後遺症を残す危険性のあるものです。


講義のスライドより

医師国家試験でも出題されることがあるので、講義でもきちんと教えています。
頻度、危険度ともに圧倒的No1で危険なのがリチウム電池!!
No2が複数個の磁石!
そして、No3が鋭利なもの…としていますが、これは頻度からNo3にあげており、最近ではもっと危険なものがわらわらと出てきていますから、最後に紹介します。

まずはリチウム電池。
何がそんなに危険なんでしょう。

その原因は、「圧倒的な起電力の高さ」と、「形状」にあります。

電池って昔からあります。
僕が子どもの頃にも小さな電池入りのおもちゃが流行り、電池を入れ替えては遊んでいました。


こんなやつ

今でもあって、これを飲んでくる赤ちゃんもいます。
でも、それを診ても僕らは全然慌てません。
放置してウンチと一緒に出るのを待つこともしばしばです。
なぜならこれは、マンガン電池やニッケル電池であり、更に形から排泄されやすいのです。

しかし!リチウム電池は違います。
軽く、薄い形状で、圧倒的な電力を発生させることができる。
だからこそ世界中に革命的発展をもたらし、開発した吉野先生はノーベル賞に輝いているわけです。
でも、薄型で使いやすくなったがゆえに、残念なことに子どもにとってはとても危険なモノになってしまいました。
薄くて口の中に入れやすくなった上に、少し幅広になったことで、ちょうど子供の食道に引っ掛かりやすい大きさになってしまったんです。


電池が食道にひっかかって止まっている…!

食道というのは口から胃をつないでいるとても薄い組織の臓器です。
胃や小腸、大腸よりも弱いのです。
そしてあまり知られていませんが、生理的に(生まれつき)狭い部分というのが3か所存在しています。
喉のところと、気管が二股に分かれるところ(気管分岐部)、胃に入るところ(噴門)です。
なので、電池はその上の部分でぴたっと止まってしまうんです。

するとどうなるか!


国民生活センターの資料より

数十分のうちに、じゅうじゅうと焼けてしまうんですね。
Youtubeの動画とかだともっとショッキングなものがのっています。

胃とかに入ってしまうと、臓器と電池がずっと同じ場所で接しているわけではないので、そう簡単には臓器は痛まないのですが…
食道という弱い臓器で、ちょうどはまりやすい小児の大きさの、生理的に食道の狭い部分にぴったりはまりこむ。
そういう不幸が重なることで、あっという間に


電池で腐食した食道

食道がボロボロになってしまうんですね。
恐ろしい。
食道の真裏の、ちょうどこの電池がぴたっとはまってしまう部分に大動脈が接しています。
内視鏡でみると、拍動しているのが分かったりします。
なので、食道が腐食して動脈まで達すると、「食道大動脈瘻」となり、大量に吐血して即死します。(食道がんの末期とかである病態ですね)
また、即死しなかったとしても、一生食道が狭くなってしまったり、気管とつながったりすることで一生肺炎に苦しめられたりします。食道は手術がとても難しい臓器なので治療に難渋します。
そのように小児外科の専門としては、単に「危ないよ。命が危険だよ」だけではなく、「命が助かっても一生苦しみ続ける危険があるよ」という意味でとても注意してほしいのがこのボタン電池の誤飲なのです。

このようなボタン電池誤飲の危険性が知られるようになり、大きく2つの変革がありました。

①ボタン電池入りのおもちゃは、簡単に電池が取り出せない作りにする決まりができた


JIS規格

「子供用のおもちゃ」では、必ず電池はネジ回しなどがなければ開けて取り出せないようになっています。

②電池工業会の取り組み


ハサミでないと開けられないパッケージ

コンビニなどのお店でリチウム電池を買った経験がみなさんあると思いますが、絶対に(なかやまきんにくんでも)手では開けられません。
これも簡単に乳幼児が手にできないようにする取り組みですね。

しかし!
まだまだ足りないんです!

「子供用のおもちゃ」では確かに決まりがあって、電池が簡単には取り出せません。
しかし、単なるキーホルダーとして売っているもの。「玩具」の分野ではないものではこの決まりは徹底されていません。

今回僕が経験した電池誤飲の症例では


光るストラップ

この光るストラップは子どもが比較的簡単に電池を取り出せる構造になっていました。

また、僕たち医師の間で急速に導入が増えている「Dr JOY」というビーコンで医師の位置を全て把握するシステムに用いられている発信器は
指でぱかっと割ると簡単にリチウム電池を取り出すことができ、「病院にいない時は家に持ち帰ってください」という危険な通達まで出ている始末です。小さな子供が家にいる医師はどうするんだ…!?


リチウム電池が簡単に取り出せる発信器

ちなみに当該の会社にも「危険だと思いますよ」と連絡はしたのですが、対応はしてくれませんでした。

危険な電池誤飲から子どもを守るためには、親の注意に頼っていてはダメです。
全ての製品においてリチウム電池は簡単には取り出せないようにする決まりにすることが必須であると思います。

ということで、異物誤飲全般をお話しようと思ったら
ボタン電池だけでかなりの文章量になってしまいましたね。
自分のおしゃべりすきを甘く見ていました。
ここは素直に前後編にわけて
後編でボタン電池以外の危険な異物を紹介していくことにしましょう。

参考
・テレビ出演
2018年 フジテレビ TSSプライムニュース 「乳児のボタン電池誤飲に対する注意喚起」
令和6年7月31日 独立行政法人国民生活センター
「子どものボタン電池の誤飲事故に気をつけましょう! -電池の放電によるアルカリで消化管が損傷します―」


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