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国に翻弄されたスパイの実録サスペンス

90年代に核開発疑惑で緊迫する北朝鮮に潜入した韓国のスパイ”黒金星(ブラック・ヴィーナス)”の実話を大胆にアレンジしてエンタメ作品に仕上げた映画、それが『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』!

韓国のスパイが金正日に接見!?衝撃の実話を大胆に映画化!

『工作』main_copy

90年代後半、38度線を境に緊張状態が続く韓国・北朝鮮情勢。そんな中、北朝鮮に核開発疑惑が浮上します。その真相を確かめるべく韓国の国家安全企画部のパク・ソギョンは仕事を辞めて実業家になりすまし、北朝鮮の外貨集めを取り仕切るリ・ミョンウンに接触します。最終的な目標は北朝鮮に潜入して核開発の証拠を押さえること。スパイ映画と聞くとド派手なアクションやカーチェイス!というイメージがあるかもしれませんがこの映画は下調べ、盗聴、情報操作といったまさに「工作」にスポットを当てた映画です。そんな実在のスパイ黒金星(ブラック・ヴィーナス)の工作がバレるかバレないかというハラハラと、大統領選を巡る巨大な陰謀劇と、韓国・北朝鮮の二国の境を越えた友情物語が詰め込まれた一大エンタメ作となっています。

渋く輝く!韓国映画界の実力派役者のアンサンブル!

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主人公のスパイ黒金星を演じるのは韓国映画好きなら知らぬ人はいないファン・ジョンミン。シリアスからコメディまで幅広く演じる彼の持ち味を見事に活かし、金儲けが好きなヘラヘラした実業家と国家のために動きながら正義感を持つ熱い男の二つの顔を切り分ける演技が見事です。一方の北朝鮮のリ所長を演じるのはイ・ソンミン。物静かでどこか哀愁の漂う佇まいが印象的な俳優さんですが今回もその雰囲気をまとった演技が見ものです。他にも黒金星の上司チェ室長(チョ・ジヌン)の中間管理職っぷりや北朝鮮側のチョン課長(チュ・ジフン)のふてぶてしさも忘れられません。ぱっと見は中年男性たちの渋い映画に見えるかもしれませんが、それぞれの個性が輝いていて、この4人が織りなす緊張やユーモアのアンサンブルもこの映画の醍醐味です。

緊張度MAXのスパイサスペンスと国家の境界線を越えた熱き友情物語!

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この映画最大の魅力というべきなのが主人公パクとイ所長の熱き友情です。最初は韓国のスパイとそれに付け込まれる北朝鮮の重役という関係でしたが、二人が手塩にかけた広告事業が国家レベルまで及んだ時、これが分断された南北の橋渡しのような意味を持ち始めます。核開発の実態を暴くという当初の目的を逸脱しそうになるパクと恐らくパクのことを怪しんでいるイ所長、しかしこの二人が奇妙な友情で結ばれていくのです。この広告事業がとある国家の陰謀で帳消しになりそうになるのですが…ここから二人のあっと驚く冒険的行動が始まります。そして歴史に翻弄された二人の行く末に思わず涙が…。この先はぜひみなさんの目で確かめてみてください。

国家の利益と民衆の平和の間で揺れ動くスパイ…今の社会にも通じる痛烈な政治批評

この映画の中で国家権力者たちが口を揃えて言う「国民の安全のため」「自国を脅かす恐ろしい敵から国を守るため」という言葉が、実は自分の保身や目先の利権を保つための行為だったという歴史的事実を暴いています。そんな薄汚れた世界でもう一つ重要なキーワードとなるのが”浩然の気”です。「正しい行いをしている者に溢れる非常に大きく強い気」という意味の言葉です。分断された二つの国でお互い立場が違っていても浩然の気に満ちた二人の友情の物語は、政治の腐敗や不平等が蔓延する世界で背伸びしたくなるような気持ちになります。実録スパイサスペンス映画でありながら、先の見えない闇の中で進むべき道を明るく照らしてくれるような映画なのです。

Text /ビニールタッキー


ビニールタッキー プロフィール

映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」管理人。海外の映画が日本で公開される際のおもしろい宣伝を勝手に賞賛するイベント「この映画宣伝がすごい!」を開催。Twitter:@vinyl_tackey

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