悪の吉沢亮に陶酔『青くて痛くて脆い』
成長著しい人気俳優・吉沢亮がダークな主人公に扮した意欲作『青くて痛くて脆い』ほか、屈折した主人公が魅力の映画を厳選!
ステレオタイプとは真逆の、不安定な人物像
ヒロイックな主人公もカッコいいが、それだけでは観ていて飽きてしまう。人間は本来、もっと複雑で不安定な存在のはず。映画だから許せる、危うい主人公に会いたくなる日もあるだろう。大学を舞台に、「自分の大切な存在を奪った存在に復讐する」ストーリーが展開する『青くて痛くて脆い』は、そんな気持ちにフィットする1本。主人公は、友人と作ったサークルを乗っ取った学生たちに復讐しようとするが、その手段は「メンバーの弱みを探る」「悪い噂を流して信用を失墜させる」といったダークなもの。誹謗中傷を武器にする、倫理観が外れた主人公像は非常に斬新!
心をひりつかせる、吉沢亮の危うい演技
日常生活だったら近づきたくない危険な存在。そんな歪んだキャラクターにもかかわらず魅力的なのは、吉沢亮の功績が大きい。端整なルックスで漫画の実写作品でも活躍してきた彼だが、その真髄は「安定した危うさ」にある。これまでの作品でもトガッた役に扮してきた吉沢は、正道を歩けない人間の「生々しさ」と「脆さ」を実感を込めて提示する術に長けている。
本作でも、目的のために視野が狭くなり暴走していく過程を、狂気に満ちた「目が据わった演技」や目の前に相手がいるのに届けない「閉じた発声・発語」で表現。それでいて、自分の行きすぎた行動にパニックになる未熟さも絶妙な塩梅で魅せており、観賞後も強い後味を残す。本作は後半にある衝撃の展開が用意されているが、そこからの吉沢の「加速する熱演」は必見だ。
その“歪み”に心奪われる! 国内外の傑作映画
Huluには屈折した主人公を描いた傑作が多数! 国内の作品であれば、暴力衝動に取りつかれた青年に柳楽優弥が扮した『ディストラクション・ベイビーズ』、井浦新と永山瑛太の“狂演”に打ちのめされる『光』、森山未來がどうしようもないクズを好演した『苦役列車』、綾野剛の“堕ちっぷり”が見事な『日本で一番悪い奴ら』、自らのメンタルに振り回される女性を趣里が熱演した『生きてるだけで、愛。』など見ごたえ十分の作品ばかり。海外作品では『ナイトクローラー』は『青くて痛くて脆い』との親和性も高く、オススメ。何を考えているか分からない人物の怖さを描く『フォックスキャッチャー』ほか、『テッド・バンディ』『ハウス・ジャック・ビルト』などもオプションとして推したい。
text/SYO
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SYO プロフィール
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema