これも親ガチャ?(第1話)

『ムー君! 学校、さぼっちゃ~、だめよ。』
茜はそう言いながら、俺にキスして仕事に出かけた。

茜は看護師をしていて、25歳だっけ?結構、美人なんだ。
こんな小学生(おっさんが入ってる)の面倒をみるより、
そこらの大卒を捕まえた方がよっぽど幸せになれるだろうに!って、
よく思う。
その茜との出会いは救急病院の外科病棟だった。
なんで病院の外科病棟での出会いになったかと言うと、
俺が父親からの暴力でその病院の救急に担ぎ込まれたからだ。
俺の父親は働きもせず、ゲーム三昧な奴で、
俺(俺が入っている体の主)は、虐待されてたらしいのよ。
言葉尻が変なのには訳がある。
俺はおっさんだった(少なくとも、この身体に入る前の記憶では
そうだった。)。
俺がこの小学生の身体に入ってからの一番初めの記憶は、こうだ。

‘気がついたらメチャクチャ腹がいて~の、死ぬかと思った。’
これが記憶だった。
痛くて痛くて助けを求めるつもりで顔を上げると、
目の前に父親が居た(多分、父親?だと思う)。
シンナーをやってたのか、目がイッてたし。危ねえって思った。
次の瞬間、父親の蹴りが飛んできた。ギリギリでかわして、
俺は家の外に逃げだした。
腹が痛くて痛くて、それでも何とか逃げて近所の明かりのついたとこに
飛び込んだ。
そこで俺、気絶しちまった。

腹から少し出血してたって!
内臓にあばら骨が軽く刺さってて、俺、3日間、眠てたんだって。
医者が説明してくれた。
普通は、親が聞くところだったけど、虐待で担ぎ込まれた案件だったから、
当人に説明だけでも・・・という展開だったと思う。

後で知るんだけど、俺が飛び込んだ場所は身体の主と仲が良かった
おっさんがやってるラーメン屋だったんだ。
俺は無我夢中で走ってたつもりだったけど、
身体の主にそこに誘導されてたのかもしれない。
まあ、お陰で何とかやばい父親から逃げられて、
病院に入れてもらえたんだけどさ。
そうそう、そのラーメン屋のオヤジが入院中に
1度だけ見舞いに来てくれたことがある。
その時のラーメン屋のオヤジの話を聞きながら、
俺は、この身体の主の置かれている状況を把握した。
ただ、ラーメン屋のオヤジは、俺の様子を不思議がって、
段々と口数が減っていったから、
『恐怖で、軽い記憶喪失になってしまったみたい。』
って、とっさに俺は良い訳をした。
おっさんのワル知恵だな。
ラーメン屋のオヤジはこんな事も話してた。
『お前、ここまで、我慢するこたね~だろうよ。
あれだけ虐待されてんじゃね~のかって、聞いてやってたのに!
まあ、これで奴(父親)とは当分会わなくて済むし、
我慢した甲斐はあったのかもな。あはははっ!』
茜とはその救急病棟ではなく、
退院の2週間前に移った一般病棟で会ったんだ。

茜は初対面から優しかった。
それでも最初の内は、他の看護師と患者の仲より
少し優しいぐらいだったんだ。
『相田君、大変だったんだってね。お姉さんには甘えてもいいよ!』って、
少し世話を焼いてくれるぐらいだった。
だから、俺も茜の事を気にすることなく、
‘病棟を代わったって事は、そろそろ追い出される頃だな~’って考えてた。
茜と暮らすことになるとは全然想像も出来ていなかった。
そんな余裕さえ無かったと言うべきかな。
だから食事の時間以外は、ベッドを抜け出していた。
事務のお姉さんに公的なサービスのパンフを貰ったり、
退院後の相談をしたり。
色々と退院後の事を模索していた。
有難かったのは、外来のごみ箱にきれいな新聞紙が
毎日1部は捨ててあったことだ。
俺は新品の様に折りたたみ直して病室に持って帰っていた。
情報収集には持ってこいだった。
金の無い俺にはタダが一番有難い。
昼飯時と夕方以降は、ちゃっかりベッドに戻ってくる。
新聞とかを読み込むのは夕食後だった。
『もう、相田君どこ行ってたのよ。あなた病人なんだからね!』
茜は決まって昼飯や夕食時に俺を見つけると、
こう言いながら色々話しかけてきた。
『ねえ、相田君。いつも、どこに行ってるの?何してるの?』って感じで。

退院も近づいてきたある日、
茜の質問に答えて、事務室で資料を貰ってた事を話したついでに、
上がりそうな株の銘柄まで話しちまった。
『金が有ったら、○○電気の株を買うんだけどな~。」
茜は小学生の俺が呟いた○○電気の株を100株だけ買ったらしい。
そして、『相田君、○○電気の株を買ったよ。次はどうしたら良いの?』
って聞いてきた。
『えっ、茜さん、買っちゃたの?じゃあ、3日後に売りな。』
という話をしたことがあった。
それからと言うもの退院までの数日間、
毎日の様に茜は病室にやって来ては、俺に株の話をした。
『○○電気の株で5万も儲けちゃった。株って、すご~い!』
と茜が大声で騒いだ翌日に、木村さんって言う、おっさんが来た。
『相田 勉(あいだ つとむ)君、君のこれからなんだけど。
ご両親が児童虐待で裁判中だから、退院後は帰るとこがないんだ。
それで施設に入ってもらうことになりました。
10日後に、また迎えに来るからね。』
どうやら児童福祉課の俺の担当らしい。
‘施設か~、自由がないだろうな!’と考えていたら、
その日も茜がやって来た。
そして、いきなり『勉君、施設に行っちゃうの?』
と、大声で話し始めた。
茜は何でも大声で話す。
面倒くさかったので、俺は適当に答えた。確か・・・、
『茜さんが身元引受けしてくれたら、自分でなんとか稼ぐんだけどね!』
といった気がする。
でも、茜は真面目に聞いたらしく、いきなり走り去っていった。
翌日、何かの書類を5枚ほど持ってきて、名前を書けと言い出した。
‘おいおい小学生にサインしろって、どんな大人なんだよ!’と思いながら
書類の内容を見て驚いた。
茜は、マジで、俺の後見人になって、育児をする気らしい。
『茜さん、意味、解ってんの?』俺は、びっくりしながら聞いた。
『えっ、だって、勉君、自分で稼ぐって言ったじゃん。
ちゃんと、家賃も割り勘にしてもらうからね。
だから、一緒に住もうよ。ねっ!』
茜は、何を根拠に俺を信用したのか!変わった人なのは確かだ。
ただ、そんな事はわざわざ聞かなかった。
この天真爛漫なお姉さんが、わざわざ一肌脱ぐって言てんるんだから
利用しない手はないか!そう思った。
『だけど、茜さん、彼氏とか、反対しない?
アッ、その前に、家族が反対するよ。』
茜の事をほとんど知らなかった俺は、
サインをしながら軽く探りを入れてみた。
『勉君、時間が無いのよ。さっさと書いて!
それに、彼氏はいないし、一人暮らしだから、大丈夫よ。
実家も遠いから。』
提出期限が迫っているらしく、今日の茜はのんびり口調ではなかった。
‘だからって、小学生の話を鵜吞みにするか?普通。’
俺は頭の中で、突っ込みを入れながら、黙々とサインした。
市役所の児童福祉課の木村さんから昨日教えてもらった身体の主の情報を
間違えないように慎重に書いた。
児童福祉課の木村さんにも、ラーメン屋のオヤジの時と同じ手を使った。
身体の主の記憶が恐怖で思い出せないフリをしたのだ。
『思い出そうとすると、お腹が痛くなったり、
夜、父親から蹴られる夢を見て怖いんです。』
とだけ言い訳したら、木村さんは納得してくれた。
よくある事なのか?
木村さんの話が自分の身元を知る情報源になったが、
こんなところで役に立つとは・・・。

茜のアパートに移ったあの日から、ちょうど2年が経ち、俺は小5になっていた。
俺は、元手を作るために新聞配達をしていた。
もう、2年弱続けている。
朝刊の配達が終わると、余ってる新聞を1部貰って帰る。
大抵、余分に販社は買うらしい。
朝飯を食いながら、その新聞に目を通す。
朝の内に政治経済欄を絶対に読むようにしてる。
さっきの茜の挨拶はいつもの事で、
自分をアピールするためにキスしたりしてくる。
多分、3か月後のクリスマスのプレゼントを期待してるんだと思う。
段々、サービスが良くなるんだろうな!これから。
次は、何をしてくるんだ?
経済的な話をすれば、
これでも、家賃と生活費込みで茜に月に4万円払ってる。
居候を始めて最初の4か月は茜に食わせてもらったけど、
公的な現金支給は茜に入ってたし、
新聞配達の給料が少し運用出来た時に、
最初に世話になった4か月分もしっかり払った。
今では、株の運用用途と新聞配達の給与の払い込みの為に
作ってもらった口座に、それなりの額が入ってる。
おっさんの時の経験が、こんなとこで活きている。
だけど、茜のサービスの原因は、そこじゃないんだ。
‘じゃあ何?’・・・・聞きたい?!

まあ、考えても見なよ。
さすがに小5で株式の口座や銀行の口座は開けないだろう?
口座は茜のものとは別で作ってるけど、保証人がいるから茜名義なのよ。
たまに来る残高証明のハガキで茜が残高を知ちゃったのよ。
それからなんだ、俺におねだりしてくるの様になったのは。
やっと500万貯まったのに、何ねだられるのか怖くて怖くて。
だって、俺は500万円を使って次の仕込みを考えていたから!


ある日、俺は担任の桃子先生から呼び出された。
『なんだろう?』と思いながら、職員室に出向くと
『ああ、相田君、こっちこっち。』
桃子先生の席とは真逆の教頭の席に呼ばれた。
‘俺、何か悪いことしたっけ?
まさか進学で受験しろなんて言わね~よな!’なんて、
冗談ぽく頭の中で考えていたら、そのまさかだった。

『ああ、相田君、まあ、座り給え。
実はね、有名私立中から推薦が来ててね。
どうだろう、君が行ってくれると、
わが校から初めての合格者を出すことになるんだよ。
ああ、学費は大丈夫だ。
助成金の手続きも、入学手続きも全てこちらでしておくから。
君の負担はゼロだよ。良い話じゃないか!』
上機嫌に教頭が一気にしゃべった。
俺の中身はおっさんだから、小学生では天才!
まあ、その内、化けの皮がはげるんだけどね。

『行かね~よ。』俺は一言で済まして職員室を出た。
桃子先生がダッシュで追いかけてくる。
だから俺もダッシュで逃げる。
毎朝、新聞配達で鍛えてる俺の足にかなう訳がない。
『待ちなさい。相田君。ちょっと・・・。』
俺はすぐに桃子先生を撒いた。
‘こりゃあ、茜を買収しとかないと危ねえな。
’教頭の口車に乗って、
『ムー君、受験したら?学歴はあった方が良いよ。』
とか言い出しそうだし。
そんな事を考えながら帰り支度の為に教室に戻ったら。
『おっと、正じゃん、こんなとこで何してんだ?』
俺は、いじめられっ子の正を見つけて声をかけた。
『あっ、相田君。』正は俺とそっくりだった。
無茶苦茶な父親の仕打ちに耐えてるのに、
担任や同級生からもいじめられ始めた典型的な嫌われキャラだった。
『そっか、ギリギリまで家に帰りたくなかったんだったな。
俺んちで勉強してくか?』
俺は、正を誘った。
『えっ、良いの?でもノートが無いんだ!』正は、すぐに我に返った。
『いつも言ってんじゃん。大人になってから現物を
返してくれりゃ良いから。』
いつもの様に、正の宿題を手伝ってパンを食わせて帰えした。
これで明日の給食までは持ちこたえるだろう!
そう考えての行動だった。
でも俺が甘かった事を翌日思い知ることになる。
翌日、正は学校に来なかった。
その代わり、夕方に父親が正を連れて茜のアパートの前で待っていた。
俺の話を聞いて、俺をたかる計画を思いついたらしい。
『お前か、うちのガキに乞食みたいなマネをさせてるのは?
そんなに金持ちなら、俺にもくれよ。』
バカ親がバカらしいセリフを吐いた。
俺は切れた。
護身用に持っていた切れ味の良い特性のプラスチック製下敷きを
ランドセルから抜き出し、
バカ親の太ももと内ももをザックリ切ってやった。
『うぎゃ!』その場に倒れこんだバカ親の首元に、
下敷きの刃を当て、
『なんか、ほざいたか?もう1度言ってみろ。
まあ、直にお前は死ぬんだけどな。出血多量で・・・。』
そう、啖呵をきった俺は驚いた。
いきなり正が俺にしがみついて離さない。
『相田君、だめだよ。殺人犯になっちゃう。』って言うんだ。
2人でジタバタしている内に、
正のバカ親は足を引きずりながら逃げて行った。
‘子供の力だから、あまり深く切れなかったか!
もう少し工夫が必要だな・・・!’
逃げていくバカ親を見ながら俺は悔んだ。
『正、離せよ!もう、バカ親はいね~よ。逃げちまった。
お前、力、強え~な~。これなら他のクラスの奴ら相手でも
ケンカに勝てるんじゃないのか?』
俺は、身体の力を抜いて正に言った。
『あっ、ごめん。痛かったかい?』そう言う正を連れて、
念のため、茜のアパートの戸締りをしっかりしてから、
下敷きを持ってコンビニに行った。
『せっかく来たんだ。パンでも食いながら話そうぜ。』
アパートからコンビニまでの間に川があった。
橋の上から、ヒラヒラ舞う下敷きを見送った。
証拠隠滅がパンの買い食いの1番の目的だった。
下敷きは結構下流まで流れて行った。
『あれ?沈まね~な。これじゃあ、海まで行っちまうかな?』
少しの間、俺と正は、川面の下敷きを見送っていた。
『さあ、行こうか。』俺の言葉を合図に正とコンビニへ歩き出した。
俺は夕飯があるからパン1つ、正にパンを3つ買ってアパートへ戻った。
だが、そこにはパトカーと正のバカ親がいた。


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