これも親ガチャ?(第20話)

 4日後、愛は俺のマンションのエントランスの
花壇に腰かけて待っていた。
前回の話で俺になじんだのか、
愛は自分から俺のそばに走ってきた。
そして、俺の横にいた真奈に気づくなり
『誰、こいつ。あんた、こんな嫌味するんだ。』
と言った。
『俺は、女の事は解らん。だから、生理だの、
着替えだのが解る子が必要だったんだよ。
真奈は、今、受験で大変な時期なんだ。
無駄に時間をかけるな。
俺を信じるって決めたんだろう?
じゃあ、信じろよ。』俺は、きつめに言った。
もの言いたげな表情ではあったが、愛は黙った。
『愛ちゃん、ヨロシクね。』
真奈はそう言いながら、右手を出したが、
愛は応じなかった。
俺の考えを覗く様に俺の顔を見た。
俺は真直ぐに愛を見ながら、
『さて、部屋に行こうか。』と言った。


部屋に入るなり真奈が
『今日は茜さん、居ないんだね。』と呟いた。
俺は愛を見ながら説明した。
『茜は俺の保護者さ。
ただ、お前らみたいに状況把握が早くないから、
茜のいない時間帯を狙って呼んでるのさ。』
『確かにね!』真奈が相槌を打った。
『さて、愛。お前に聞かなきゃいけないことは
沢山ある。が、まずは風呂で身体を洗って、
新しい下着を着ろ。何かのバイトなり、
仕事を始めるにしても、それは大切なんだ。
身の守り方は、別で考えるから。
病気にかからない様に、
下着までは奇麗なものにしよう。
じゃあ、風呂場に行くぞ。シャワーの使い方を
説明するから。』
俺は給湯器のスイッチをONにして、
バスタオルを取り出して風呂場の脱衣室に
愛を連れて行き、渡した。


俺が風呂場から戻ると待ち構えていた真奈は、
愛がシャワーを浴びている間、ずっと
真奈の近況を話していた。話を聞きながら、
俺は真奈用のグラスにお茶を注いでから
テーブルの対面に座った。
『相田君、あなたには感謝してるわ。
私の父は、私の進路に反対しなくなったの。
「真奈、お前の好きにすれば良い。
但し、高校以上の費用は自分で工面しろ。
そして、22歳までに独立する事。
私がすることは、22歳まで真奈がここで
生活できるようにすることだけだ。」
とか、言いたい放題だったけどね。
でも、本当に入学費とか貸してもらっていいの?』
真奈は、真剣な眼差しで念を押した。
『そっか。お父さん、観念したんだ。
費用の事だけど。
愛の分も計算したし、何とかなる予定だよ。
安心しな!
真奈には、多分、これから世話になりそうだしな。
先行投資さ。宜しく頼むわ。』
俺が話し終わるとすぐに、真奈が突っ込んだ。
『なに、それ?相田君が私なんかに、
助けを求める訳ないじゃない!』
『正には話してるけど、真奈が高校に入学して、
専門学校も慣れた頃に、説明するよ。・・・』
そこまで俺が話したところで、
愛が風呂から上がってきた。
何がそうさせるのか、少し照れた感じで
愛がテーブルの真奈の横に座った。
俺は愛の前にもお茶をグラスに注いで差し出した。
テーブルの席に座ってから俺は愛に質問を始めた。
『ここ数か月の愛の生活を話してくれないか?』
『えっ、生活って何?』
本当に解らなかったのだろう、ぽかんとしていた。
俺はこんな話から始めた。
『今、どこに住んでいるのか?
そこの家賃は、誰が払ってて、
水道、電気、ガスは使えてるか?
使ってるとして、誰が払ってるのか?
お母さんは、全く、そこには帰ってこないのか?
とりあえず、それを教えて欲しい。』
愛は、お母さんというフレーズに反応して
冷めた表情になった。
『あの人が数か月前から男を連れ込んでるから、
アパートには帰ってない。
1度、襲われそうになったし。
だから、アパートの事は解んない。』
‘なるほど、俺の想像以上の展開だな・・・。
そっからか~。’俺は頭を抱えた。
『じゃあ、夜は眠れてないよな~。』と
俺が呟いた時に、真奈が叫んだ。
『えっ、信じらんない!
何、その鬼畜!人間じゃないわ。』
多分、このリアクションは見飽きてたのだろう、
愛は更に冷めた表情になっていった。
『仕方ない、愛の住処が決まるまで、
俺のベッドで寝ろ。お前には、しばらく
新聞配達の手伝いをしてもらうよ。
あ~あ、また、新聞配達を止めるタイミングを
失ったな~。でも、継続してたから、
愛のバイトにもなるんだけどな。
愛は、夜寝なくても大丈夫だろう?』
愛はコクリと頷いた。
『頼むから、茜とは仲良くしてくれよ!』
愛はまたコクリと頷いた。
そして、お茶を飲んだ。
『相田君、おかしいよ。こんなの!』
ずうっとブツブツ言ってた真奈が
とうとう俺に嚙みついてきた。
『まあまあ、俺は小学校3年まで、
愛は今まで、そんな特殊な親だったからさ~。
仕方ないのよ。常識とか通用しないから。』
俺が真奈の火消しに気を取られてる間に、
愛はテーブルの上で眠っていた。
真奈のギャンギャン声も気にならないらしい。
‘愛って、すご~い!’って、本気で思った。
‘さ~あ、どうしたもんかね~’と真奈の話に
相槌を打ちながら、茜対策・母親対策
・愛の生活方法について考えを巡らせていた。


『ム~君、ただいま。あ~疲れた。
うん、どうしたの?どこの子?』
キッチンまで来て、茜が愛に気づいた。
『ああ、茜!相田愛って名前、聞いたことない?』
さも当然な感じで俺は、茜に聞いた?
『誰よ、知らないわよ。
??あいだあい?』
さすがの茜も相田姓を聞いて、考え始めた。
『相田って、ム~君と同じだね~。めずらしい!』
全く、兄弟だと考えつかない茜の鈍さに、
俺は驚愕さえ覚えた。
『俺の妹なんだ。・・・』
『えっ~!』よほど驚いたのだろう、
俺の声がかき消された。
愛がムスッとし始めた。
『そう、その妹なんだよ。
今、母親から追い出されて住むとこ無いんだよ。
1か月ぐらいで、どこかマンションを借りて
これからの目鼻をつけるから、それまで
一緒に暮らしてくれない?
これから考えるけど、茜の特典も増やすからさ~!』
『えっ、何くれるの?楽しみ~。
良いよ!じゃあ、後、ヨロシクね。
愛ちゃんだっけ?私、あかねちゃん。
どうぞヨロシクネ!』
茜は右手を出した。その瞬間、愛は俺を見た。
このまが火種になりそうだったから、間髪入れずに
愛の手を茜の手に重ねて、
俺が上から両手で包むように握手させた。
『茜、ありがとう。カレー出来てるから
着替えて来いよ!』と付け加えた。


茜と愛と俺がカレーを食べながら、
『茜、とりあえず愛は俺の部屋のベッドで寝るから、
俺は、そこのソファーを借りるよ。
どうせ、新聞配達とホテル清掃があるから
ベッドは使ってないし!』と俺が呟いた。
『ちょっと待って、お兄ちゃん、
いつ寝てるの?』愛が言った。
『朝だよ。』
『朝って、2時間ぐらいじゃん?』
『正確に言うと、金土日曜日と休み中だけ、
ホテル清掃をやってる。
他は、新聞配達だけだから。
それに、中学校は遅刻の常習犯だから。』
俺は更に続けて説明をした。
『なあ、愛。子供がお金を稼ぐって、
これぐらいやらないと無理なんだよ。
茜とは、こんな関係だから、
俺も好きなことを遠慮なく言えるんだよ!
結構、この環境、気に入ってるんだ。
愛の周りに、我がままを聞いてくれて、
何の見返りも求めない大人って
居る?』愛にとどめの質問をした。
『お兄ちゃん、私もそんなに働かないとダメ?』
愛は答えの代わりに、理解できたよ的な質問をした。
『ああ、大丈夫だよ。愛でもやっていけそうな方法を
考えだすのに必要な時間が1か月だから!』
俺は話を続けた。
『お金はすぐに無くなるもんなんだよ。
継続的に増やすなり、稼ぐなりしないとね。
しかも、愛が苦にならない仕事を探さないと!
今から、好きなことを極めたら、
稼ぐ方法になるんじゃないかな?とか
考えてんのよ。
だから、明日から色々話さないとね。』
茜は俺がこの手の話を始めると静かになる。
お金の話は、関わらない様にしているらしい。


3日後から愛と新聞配達を始めた。
俺は少し早めにスタートしている。
愛とは4時半頃にマンションに迎えに行ってからの合流だ。
まだ、カギを渡せない。
だから、愛は小学校が終わったら、
中学校に来ることになってる。
愛が俺の妹って事を、不良が全員知るのに、
半日かからなかった。
愛も教室での拘束時間が、
これから食ってく方法を探す時間になって、
ちょうど良かったようだ。
だって、不良が必死に勉強しているのは
伝わってくるものがあったようだ。
新聞配達の話に戻るが、意外に愛は
記憶力が良く1週間で半分を譲れるようになった。
そんな2週間が経ったある日、
愛がベッドでうずくまってた。
暗くて気づかなかったが、生理だったらしい。
その日の午後に、
『兄ちゃん、ベッドを汚してごめんね。』って
新聞配達を休んだことも含めて、謝りに来た。
俺は大人の女性しか知らなかったから、
生理の酷い子がこんなにも苦しんでる想像がつかなかった。
その日の夕方には、真奈が来てくれて、
愛にとても優しくしてくれた。
夜には茜も愛に優しくしてくれた。
俺は、気づかないうちに涙を流していた。
1週間ほどで、愛が復活した。
お陰で新聞配達も少し早く終わるようになった。
それは俺が少し暖かい気持ちになれる余裕をくれた。


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