これも親ガチャ?(第22話)

色々考えた末に、俺は公立高校受験を辞退した。
茜と森先生だけに、専門学校に行く旨を伝えた。
学歴不問の専門学校が通学圏内に1校だけあって、
オンライン授業もOKだというところを見つけた。
森先生も教育庁に確認を取ってくれて、実際に
認可を受けている専門学校であることも解った。

‘相田勉が本格的に出てくるのが早いか?
プログラミングを金に換えるのが早いか?
勝負だよね!’そう思いながら、公立高校の受験当日は
マンションで過ごした。
午後4時、ピ~ンポ~ンとチャイムが鳴った。
‘正の受験、終わったのかな?’とか思って、
モニターを覗くと愛と真奈までいた。
『まあ、皆さん、受験当日まで、
俺んちに集まらなくてもね~。』
そんな独り言をいいながら、ロックを解除した。
ガチャ『あ~、終わった!長かった~!』真奈が大声をあげた。
『本当に、大変だったよ~。』正も叫んだ。
『あ~、ただいま~。』愛も、大声で入ってきた。
バタン。
『相田君ずるいよ!公立高校受験してないんだって?
愛ちゃんから聞いてビックリしたんだから。』
いきなり正が言った。
『もう、私達、受験が終わったんだから、
ちゃんとこれからの計画を話してよね!』
真奈が言った。
『はい、お帰り。そして、受験、ご苦労様です。
お茶とジュース、どちらにします?』
みんなの話を聞いてから、俺が飲み物のリクエストを聞いた。
みんながテーブルに着き、ジュースの入ったグラスで乾杯を
すると、みんなの視線が俺に集まった。
『はいはい、心配かけて、すみません。
俺は、プログラミングの専門学校に行きます。
森先生も見学に行ってくれて、
大丈夫そうだったから、そこにしました。
外国資本らしく、英語が共通語なんだってさ!』
俺の進路を話すと、真奈が食いついてきた。
『えっ~、どこどこ?パンフ持ってない?相田君。』
『はいどうぞ!』俺は手元にあった専門学校の
パンフを真奈に差し出した。
『私も行くんだよ!』愛が胸を張りながら言った。
真奈も正も狐につままれた様な顔をしたから、
俺は噴き出してしまった。
『ごめんごめん、俺がいつ発作を出しても大丈夫な様に、
夕方の初心者コースに愛を通わせることにしたんだ。
ちょっと、出費がかさむけど
愛が先にモノになるかもしれないし。
もちろん、真奈が通ってくれるなら、大安心だけどな!』
謝りながら言った言葉に真奈は目をキラキラさせた。
『えっ、相田君、真奈も通っていいの?
お金、大丈夫なの?』
真奈は現実に戻りながらも、訴えかけるような目で聞いた。
『当初は、愛と真奈で共同生活できるように
このマンションに、もう1部屋借りることまで
想定してたんだけど、
その辺りを茜と相談して、
今の状況で学費にお金を使えるように
出来ないか、プランを作ってるところさ。』


4月11日(金)PM5:00
『お邪魔しま~す。あ~もう、クタクタ。
あっ、そうだ。相田君、ごめん。弟が着いてきちゃった。』
相変わらず、マイペースな真奈が弟を連れてきた。
真奈は昨日の入学式の後から
パートタイマーに入っていて、大変らしい。
『相田君の紹介でクリーニング工場に入れてもらったんだけど、
ニコニコしてるけど、あの社長、人使い荒いよね~。
「二言目には、勉だったら半分の時間ですると思うけどな~」とか
ニコニコしながら言うんだよ。あ~ムカつく~。』
真奈は堰を切ったように憂さを晴らした。
『さすがは、ラブホの社長。もう真奈の操縦方法を
見つけたんだ。』俺は、感動さえ覚えた。
『相田君、そこ、感心するとこじゃないんだけど。』
それでも、真奈はニコニコしながら言った。
『おじゃましま~す。
相田さんのお陰で家の中が
明るくなって助かってます。
それと、姉ちゃんの話に出てくる
相田さんのカレーを食べてみたくて
着いてきちゃいました。』
真奈の弟は、言葉の後に人懐っこい笑顔をした。
『さあ、どうぞ!』愛がカレーを器に盛って
みんなの分を出した。
『あれ、正君は?』真奈が言葉にしたとたん。
ガチャ
『あ、愛ちゃん。大丈夫?』いきなり正が入ってきた。
『正君、そんなに走らなくたって!』
茜もバタバタと入ってきた。
みんなが一斉に愛を見たので、
俺が解説した。
『愛は今日が入学式だったんだ。
その時に、たまたま小学校が一緒の奴がいて、
絡んできてたらしんだ。無視してたら、
殴りかかってきたんだって。
愛って、すごいんだぜ!
確かに新聞配達で鍛えてはいるけど・・・。
その男子に回し蹴りしたらしいんだ。
そして「私のお兄ちゃんが出てきたら、
半殺しにされるけど大丈夫?」
って脅したらしいのよ。
そうしたら、そいつビビッて、
親を連れて来たんだって。
森先生が対応してくれたらしいんだ。
みんな優しいよね~。
なあ、愛!えっと、森先生なんて言ったんだっけ?』
大事なとこを俺は愛に振った。

「 『入学式早々、申し訳ございませんね。
近くにいた生徒の話だと、
今回はそちら様の方が不利なようですけど、
相田愛さんの保護者を呼びますか?
ご子息の為にも、このまま納めてもらった方が
得策だと思いますけど・・・。
相田愛さんのお兄さん。
わが校ですごく人気があった生徒で愛さんと
入れ替わりで出ていかれたんです。
その~、後輩が黙っていないと思いますが・・。
これ以上揉めると、これから2年間、
ご子息がわが校で耐えられるでしょうか?』
って言ったの。
そのバカ息子の親は、
「先生、それは脅しですか?私はPTA会長とも
親しんですよ!」って甲高い声で、
必死に食い下がったけど。
『そのPTA会長自身が、
相田君を敵に回さないと思います。
私も敵にしたくないですもの。
納めて戴けませんか?』
って、静かに森先生が話したわ。
私も、この先生、こわ~って思ったわ。
ブツブツ言いながら、親子で職員室から
出て行った後で森先生が私に話すの。
『愛さん、勘弁してあげてね。
あなたの行動次第で、あの子は、上級生から
ボコボコにされると思うわ。
あなたも卒業前のお兄さんの人気を知ってるでしょう?
だから、許してあげてね。
そして、あなたはお兄さんの様に優しい人でいてね。』
って言われたの。」
愛が遠慮がちに話した話が終わっても、
シーンとしてたので、
『森先生に、助けられちまったよな、愛。
正と茜の分もカレーを盛ってくれない?』
と俺は合いの手をいれた。
『正は良かった。』と言う
と手を洗いに行った。
茜も話が終わると着替えに部屋に入った。
みんな受験が終わってから今日までの話をしてたけど
茜が席に着いたとたん黙って合掌した。
もう、カレーを食べたくて仕方なかったんだと思う。
俺の『いただきます。』の声と同時に
スプーンが食器にあたる音が始まった。
飲み物がない事に気づいた俺は、
お茶のペットボトルを冷蔵庫から出して、
6人分を注ぎながら回した。
その光景だけで、俺はとても幸せな気持ちになった。
ボーっとしていた訳では無いけれど、茜から
『ム~君、おかわり。』と催促され、
連続で5人分盛る羽目になった。
俺は慌てて、食べ始めた。
次のおかわりの波が来る前に。


この年のゴールデンウイークは充実していた。
バイト、寝る、プログラミングだけで過ごせたから。
真奈も6月から専門学校へ入学する段取りだったから、
俺のところに、質問をしに来ていたけど、
その他は「バイト、寝る、プログラミング」
だけにさせてもらっていた。
そうそう、この頃には、新聞配達は愛に任せて、
ラブホの清掃とたまに真奈のクリーニング工場の手伝いを
バイトとして入れていた。
補足、愛が生理の初日から4日目までは
新聞配達を代わりにやってた。
でも、7月は、1日だけしか代わってなかったっけ?
皆、それぞれの決めた事に進んでいた。
これって、すごくない?!

つづく

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