これも親ガチャ?(第18話)

俺が学校に着いたのは、6限目の途中だった。
『相田、やる気がないなら、
休め。今頃来やがって。』
国語の多田先生から嫌味を言われた。
『すみませ~ん』とだけ言って、席に着いた。
多田先生が更に何かを言おうとしたがやめた。
その時は、俺がその原因だとは思わなかった。
授業が終わり、俺を待ってた奴らが集まってきた。
『相田、すごいな~!
あの多田を黙らせちゃったもんな。』
『??何それ、俺、何もしてね~けど?』
『えっ、相田、先生に、メチャ 
ガンつけてたじゃん!』
『俺、そんなに睨んでたっけ?』
真顔で聞いた俺に、真顔で聞き返してきた。
『もしかして、まだ、機嫌悪い?
教えて欲しいんだけど・・・。』
これからは、表情にも気をつけよっと!
おじさんが以前より濃く出て来てるかも?


同級生の質問攻めをこなして、
家に帰り着いたのは6時を過ぎていた。
『ただいま~』誰に言うでもなく、
玄関で呟きながら靴を脱ぐ。
昼に学校へ出かける時無かった茜の靴が玄関にあった。
夕飯の匂いもしたから、
茜が帰宅していることは解ったが、声は無かった。
俺は少し考えてから、黙ったまま部屋に入った。
今朝から感じてる違和感を、頭の中で整理するためだ。
キッチンの物音で、食事の準備が出来たのが解った。
俺は部屋を出て、キッチンのテーブルに座ると
料理は1人前だけだった。
茜の奴、自分の分だけ作ってやがった。
茜は自分だけ、黙々食べながら呟いた。
『ム~君、酷すぎない?
こんな良い女が寝てるのに、
その横でHな夢見ながら爆睡してるなんて!
そんなに茜は魅力が無い訳?』

俺は深いため息をつきながら、
三ツ矢サイダーをコップに注いだ。
三ツ矢サイダーのペットボトルを冷蔵庫に戻すとき、
『あっ、ム~君、私にお茶頂戴!』と茜が言った。
‘自分は、炊事拒否で、俺にお茶を注がすのかよ?’
とも思ったが、茜にお茶を注ぎ、
冷蔵庫にお茶のペットボトルを戻して、席に着いた。
三ツ矢サイダーをゴクゴクとコップの半分ほど飲み干して
俺は話を始めた。
『なあ、茜。相田勉が戻ってきたらどうする?』
『何言ってんの、戻るも何も、
そこで三ツ矢サイダー飲んでるじゃない?』
茜は食事を続けながら言った。
『茜がまだ会った事のない。
正や河合真奈が知ってる相田勉のことさ。
ウル覚えなんだけど、相田勉が夢の中で俺に感謝してきた。
真奈の一件を解決してくれて、有難うだって。
だから、今日、朝立ちしてたんだよ。
だが、いつもと違う事が起こったってことは、
これから今までと違うことが起こるかも知れないよな。
例えば、俺が虐待を受けてた相田勉に戻るとか・・・。
準備をしておくけど、俺のおっさんの記憶が無くなって、
相田勉が戻ってきたら、面倒を見てやってくんねえかな。』
俺は一気にしゃべった。
茜はまだ理解できないらしく、
ムシャムシャ食べていた。
俺は残りの三ツ矢サイダーを飲み干すと部屋に戻った。
そして、自習組用にストックしていた
真新しいノートを1冊、机に開いた。
自分が居なくなった時の為に、
相田勉か、正がこのノートを見れば、
今後の処理ができる様に細かく書いた。
新聞配達の社長あての手紙。
ラブホテルの社長あての手紙。
俺が相田勉に戻ってからの株式の扱い方。
(証券会社の株式は全て売る事。)
・その株式を売る方法。
・ネット口座の暗証番号。ネットの操作方法。
・お金は一気に引き出してはいけない。
・必要な金額だけ1か月に1度ずつ、引き出すこと。
・1年ぐらい経ったら、
200万分だけ×××の投資信託に投資する事。
(そうすることで、他の運用をしなくても暫くは
証券会社からは怪しまれないから・・・。)
などなど書き始めた。
部屋にこもって、2時間ぐらい経ったろうか?
ドアをノックする音がした。
『あのね、ム~君、さっきの話なんだけど・・・。』
茜はドアを開けるや話し始めた。
‘おいおい、必死に考えたんだろうけど、前置きの言葉は?’
と頭の中で突っ込みながら、
俺はノートから目を離し茜の方を向いた。
茜は風呂も終わって、パジャマ姿だった。
可愛いものが大好きな茜らしく
襟元に小さなピンク色のリボンの飾りの着いた
パジャマだった。
伏し目がちに、パジャマのリボンを左手でいじりながら
部屋の入り口に立っている。
『ム~君、いなくなっちゃうの?ほんとう?』
茜の声は、いつもの大声ではなく、
絞り出すような小声だった。
‘やっぱり、しっかり聞けてないよ。’
俺は小さくため息をついて説明をしようとした、その時。
茜の目から、ボタボタ大粒の涙が落ち始め、
俺と目が合うや『いや~!』と言いながら、
抱き着いてきた。
俺は説明ではなく、お願いをした。
『なあ、茜、この身体は、相田勉君のものなんだ。
小3からだから、もう6年間も
俺の好きなことをさせてもらってる。
それに、そろそろ相田勉に戻って来てもらわないと、
年齢のギャップが埋められなくなっちゃう。
そうなると、茜が困るよ。
今から、小学生の子守が始まるんだから。
茜さん、今まで、ありがとう。』
俺の膝の上に顔をあずけて泣き続ける茜の頭を
撫でながら、俺はそんな話をした。
茜はしばらく、この体勢で泣き続けた。
さすがに足が痺れだしたので、
茜に声をかけようとすると
泣きつかれて眠ってしまったようだった。
茜を俺と入れ替わるように、1度椅子の上に置き、
抱え上げて、俺のベッドに寝かせた。


机に戻ると、俺はまたノートや手紙を書き始めた。
正への手紙。
河合真奈への手紙。
正のお母さんへの手紙。
いつのまにか、たくさんの人達の協力を
貰っていたことに今更のように気が付いた。
感謝に耐えなかった。
手紙を書きながら、相田勉に必要なものを考えた。
これから先の必要な準備は、なんだろう?


『正、久しぶりに俺んとこに寄って行かねぇ?』
俺は下校中の校門近くで、正を見つけて声をかけた。
『相田君、今日は早い下校だね。』
『ああ、今日は俺が飯当番なんだ。
だから、質問教室を休みにしたんだ。』
『そっか、相田君も大変だもんね。
でも、僕がお邪魔していいの?』
『ああ、解んないとこあったら教えるぞ。
その代わり、荷物持ち手伝ってよ。』
『なんだ、そういう事か!』
『あはは、悪い~な、何か、おごるからさ~。』
俺は、正に付き合ってもらい、
手際よく買い物を済ませると
正と話をしながらマンションに戻って行った。
マンションのエントランスに近づくと身体が固まった。
‘これって、前にもあったよな。’
そう思いながら正から視線を
エントランスの方に向けた。
別段、変な奴は居なかった。
居たのは、ピンクのランドセルを
背負った女の子だけだった。
俺の不自然な動きが気になったのか、
正も同じ方に視線を移した。
立ち止まった俺とは対照的に、
正はその女の子に近づいて行った。
正は、女の子の前で屈むと
『君、もしかして、愛ちゃん?』
そう声をかけた。
女の子は、正を見据えて、コクリとだけ頷いた。
それから、その女の子は俺に気づいて
俺の前まで走ってきた。
ジッと俺を見つめたまま『私の事、覚えてないんだね。』
無表情で、そう言った。
目の奥が寂しいというか、冷たい感じだった。
『愛ちゃん、相田君、小学校3年の大怪我で
記憶が無いらしいんだ。』
正がフォローしてくれた。
『私は、それ以来、散々な目に合ってるんだけどね。』
女の子の声も冷たくなった。
‘話の流れからすると、勉の妹かな?’
俺はそう当たりをつけた。
『なんか用があるから、今頃でも、
ここまで来たんだろう?!
まあ、上がって行けよ。話は聞くぞ。
正、悪いけど、お前も付き合えよ。
解説がいるし。』
俺は、しっかりと正を捕まえた。
『兄弟水入らずの方が良いよね!』とか言って
帰ってしまいそうな雰囲気を漂わせていたから。
愛は部屋に入ると辺りを見回した。
それはスリの物色する目に似ていた。

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