これも親ガチャ?(第24話)

『勉、愛ちゃん、大盛況だね。』
浩太郎先生の電話での第一声だった。
電話の要件は、愛の初めての
作品売買の成立の報告だったんだけど、
このセリフで愛のマネージャーの相談をしてみようと
俺は思いついた。
『有難うございます。先生のお陰ですよ。
それで先生、他の件でアドバイスが欲しいんですけど、
このまま電話で話を続けても良いですか?』
と俺は切り出した。
『勉が改まると、怖いな~。
それで、相談事って何よ?』
浩太郎先生はとても忙しいと思うんだけど・・・,
優しく話を聞いてくれた。
『簡単に言えば、愛のマネージャーが欲しいんです。
まだ、駆け出しなので、俺がマネージャーをするのが
ベストなんですけど、俺、病気持ちなんですよね~。
その辺りも含めて、話を聞いていただける時間を
戴けると有難いんですが。』
『何だか複雑そうだね~、勉が病気持ちとか初耳なんだけど。
後で、「嘘ぴょん」とか看板出てこないよね!』
浩太郎先生はおどけて言った。
『あはは、そうだと良いんですけど、マジです。』
『そうか?じゃあ、愛ちゃんも居ると助かるんだけど
今週は、午前中しか開いてないんだよね・・・。』
浩太郎先生が思案しながら話している感じの話の
途中で、俺は返事をした。
『ああ、大丈夫です。仮病使って連れて行きます。
中学は同じだから、馴染みの先生に訳を話して
病気にしてもらいます。』
『おいおい!・・・でも、それ助かるわ。
じゃあ、2日後のAM10:00にオフィースに来てね。』
『先生、ありがとう。プツン』


2日後のAM10:00、久々に乗る電車で、
俺と愛は揉みくちゃにされたが、
なんとか浩太郎先生のオフィースにたどり着いた。
受付のお姉さんはステキな人で、
一瞬、社員の誰かの家族が来た様な対応だったけど
浩太郎先生にアポを取ってる旨を伝えると
ハニカミながら『失礼しました。お約束の件は伺っております。
私と一緒にこちらへ来て戴けますか?』と対応してくれた。
『お兄ちゃん?私、こんな大きな会社に頼んでたの?
足が震えて、止まんないよ。』愛が小声で話してきた。
受付のお姉さんがクスっと笑ったのが聞こえた。
応接間に通されて、20分ほど先生が来るまでに時間があった。
別の女性の社員さんが
お茶をテーブルに置いてくれた後から
俺は愛に話し始めた。
俺の勘がこの女性が
マネージャー候補かもしれないと囁いたからだ。
『なあ、愛。今日はな、浩太郎先生にお前のマネージングを
してくれる人の紹介を頼んでるんだ。』
こんな話から俺は始めた。
『えっ、お兄ちゃんがやってくれるんじゃないの?
今だって、DMの返事は、全部、お兄ちゃんが
やってるじゃない?』愛は不思議そうに質問した。
『DMの返事は、俺が相田勉じゃない時にすればいいけど、
明日、契約交渉って時に、相田勉が出て来て
「僕、何も解りません。ごめんなさい。」って言い始めたら
どうする?俺も浩太郎先生に嫌われたくないから、
この手の話をしたくないのよ。でも、他に頼れる大人も
俺の周りにはいないのよ。ある種、賭けだな。』
と俺は答えた。
女性社員は聞き耳をたてながら、チラッと俺を見ていた。
『そうか、そこは考えてなかったよ。
茜さんにマネージングは無理だもんね。お金の偏差値は
愛の方が高そうだもんね。真奈さんは自分の事で手いっぱい
って感じだしね~。でも、お兄ちゃん、マネージャーの費用って
払っていけるの?』
さすが愛!この数か月でかなり賢くなってる。
日頃から俺と話をしながら
色々と考えてるんだな!って思った。
『だから、1年か、6か月か、お金が足りる範囲でお願いしてみて、
そのマネージング費用がプレッシャーで
愛が作品を描けなくなるのか?
愛をその気にさせるのが上手なマネージャーさんで、
愛の稼ぎが増し増しになって、マネージャーの手数料が
余裕で払える状態になれるのか?
試させてもらいたいな~!って考えてるんだ。
そんな事、考えてるんですが、如何でしょうか?』
俺は、愛から応接室を出て行こうとしてる
女性社員の方を見て言った。
『あら、浩太郎から何か聞いてたの?』女性社員が反応した。
『すみません。はったりです。
お姉さんを見てたら、俺らの事、知ってる感じがしたので!
浩太郎先生が俺らの事を詳しく話すとしたら、
マネージャー候補の方なんじゃないかな~と思えたもので、
話を振ってみました。いきなりで、ごめんなさい。』
俺は、女性社員を見ながら話した。
『じゃあ、先に自己紹介しちゃおうかな?
私もあなた達、気に入っちゃったし。
逆に、あなた達は私で良いの?
初めまして、アート&インテリジェンス アカデミー社の岡田香です。
愛ちゃんには、カオリンって呼ばれたいな。』
女性社員は自己紹介で名刺を渡してくれながら、質問もした。。
『愛、お前の事、話しても良いかな?』
俺は話を進める前に、愛に承諾をとった。
『お兄ちゃんが必要と思うんだったら、どうぞ。』
愛の言葉を聞いてから、俺は女性社員の方に向き直った。
『俺、いえ、僕は相田勉と言います。浩太郎先生からは
勉と呼ばれてますが・・・、
僕らの親は虐待が酷くて、
僕は6年前に、入院先の看護師に引き取られ、
妹の愛も6年前に施設に入所はしたんですが、
また親元に引き取られた末に性的虐待にあっています。
半年前に妹が僕を訪ねて来て以来、
独り立ちできる才能を妹と模索しています。
今、妹は新聞配達をしています。
学校で居眠りばかりしてますが、
睡眠が足りずに仕事中に眠るかもしれません。
新聞配達は僕が小学校4年生から始めた縁で
最近まで僕がやってて、愛に譲ってるとこです。
生活費があるって気持ちが楽になるもので・・・。』
俺は一気にそんな話をした。
‘でも、ここからが問題なんだよな。’そんな事を考えてると、
『なんだか、すごい話ね。私と環境が違い過ぎて
イメージが追い付かないんだけど・・・。』
カオリンさんは感想を言った。
『問題は、ここからです。最近、その虐待の記憶が
蘇ってくるんです。二重人格みたいに。
そして、その人格は小学校3年生の僕なんです。
今年の3月に中学校の自習中に、
その小学校3年生の人格が出て来て、
大騒ぎになったことがありました。
愛の仕事中に、小学校3年生の人格が出ると
仕事相手から舐められる可能性もあります。
他に頼れる大人がいないので
妹のフォローをお願いしたいんです。』
そんな説明をしていたら、ガチャとドアが開いた。
『なんだか、すごい話だね~、勉!
廊下で聞こえちゃったよ。最後の方だけだけど。』
話しの区切りを考えて、浩太郎先生は部屋に入って来た様だった。
その浩太郎先生は聞いたよ的な返事をしながら、
ソファーにドッカリと座ると香さんに話した。
『カオリン、なんだかすごい案件を頼んだみたいで
ごめんね。それでどうする?』
『こんだけの話じゃ、お互いが解んないし、
3か月だけお試しでやってみない?
勉君に愛ちゃん、それでどう?』
香さんは、そんな提案をしてくれた。
『愛、俺にとっては願ってもない提案なんだけど、
どうだろう?』
俺の問いに、愛の答えはこうだった。
『私ね、この間の絵を買ってもらえただけで、
夢のようだったの。100万円とか、凄い数字が出て来て
気が変になりそうだったわ。
そんな時に、お兄ちゃんが話をまとめてくれて
浩太郎先生に頼んでくれて、費用も解決してくれて、
大人ってすごい!って思ったし、
他人事の様な感覚だったの。
できれば、この状態を続けて欲しいって思ったわ。
私はinstaに自分の作品をあげるだけにさせて欲しい。
今回みたいに、評価してくれる人が現れたら、
みんなに助けて欲しい。』
『じゃあ、決まりだね。カオリンさん、宜しくお願い致します。
えっと、費用とかの相談はどうしましょう?』
俺は、愛の話の後を取って、先に進めた。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?