これも親ガチャ?(第10話)

中学2年の担任は、若い体育会系の先生だった。
俺だけ家庭訪問の日程がなかなか合わず、
期末試験が終わった頃になった。
この頃になると、
正のお母さんも進路を気にするようになっていた。
正のお父さんは、小学校の卒業式の事件以来、
すっかり真面目になったらしい。
あのバカ親父がコツコツ働き始めたので、
佐藤家は、まずまずの暮らしが出来るようになっていた。
先に家庭訪問が終わっていた正のお母さんに
茜は色々と質問をしたそうだ。
『しっかりした後見人をしなければ!』と、
正のお母さんに言ったそうだ。(正談)

もう夏休みまで2週間という頃に、
やっと家庭訪問が決まった。
茜は今までの女性の先生やオジサン先生とは違う
若い男性の先生という事もあって
かなりオシャレをして先生を待ち受けた。
これが茜なりの意気込みなのだろう。
茜と俺は家族では無かった為、
一緒に面接しなくてはならなかった。
面倒くさかったが、今の生活を維持したかったので
あえて反抗もしなかった。
『こんにちは~、暑いですね~。
相田君の担任の近藤勤です。
相田君と同じ名前なんです。
漢字は違うんですけどね。(ニコッ)』
と挨拶する担任を俺は冷めた目で見ていた。
茜はしきりに『暑いですね』を連発していた。
俺は、話を続けててと言い、冷たいお茶を3つ用意した。
茜は担任が帰る頃には、真っ赤になっていた。
隣で話を聞いてる分には、
別段、担任が口説いてる風にも見えなかったので
担任が茜の好みの男性だったという事だろう。
俺は、さほど気にしていなかった。
確か翌日だったかな?
茜は仕事に遅刻し、何か失敗があったらしく
珍しく落ち込んでたっけ?
その3日後の昼間に、久美子さんがマンションまで来た。
『あっ、ム~君。こんにちは!今、時間ある?』そう聞かれ、
『はい、でも、茜は今日仕事だよ。』と俺は返事した。
『解ってる。士長からム~君に事情を聞いてくるように頼まれたのよ。』
俺は、久美子さんをキッチンのテーブルに招き、お茶を出した。
『ありがとう、ム~君。
早速なんだけど、茜となんかあった?ケンカした?』
『いえ?家では、これと言って普通ですけど・・・。
そう言えば、3日前に遅刻した!やらかした!って、
落ち込んでましたけど。
担任の家庭訪問で別に責められたわけでもないし・・・。』
俺は、思い当たる事が無かったので、
色々呟いてた時に
久美子さんが割って入った。
『それだ!ム~君の担任、
カッコよくない?若いとか?』
『ああ、そう言えば、担任はそうでもなかったけど、
茜、真っ赤だった。』
俺は、やっと事態を把握した。
久美子さんは目の前で士長に連絡した。
『お疲れ様です。士長、今、大丈夫ですか?
はい。解りました。
いえ、ム~君じゃなかったんです。
どうも、ム~君の担任に
持っていかれちゃったみたいですね。
今回はかなり重症かもしれません。
今日、士長のあがりは何時ですか?
いや、忙しいのは解りますが、
早急に手を打たないと人命に関わるんじゃないですか?』
久美子さんは士長に食い下がっていた。
俺は、久美子さんが電話を切る前に割って入った。
『久美子さん、今夜、一晩。俺にくれない?
茜と話してみるから。
だから、茜を明日、休みにしてくれませんか?』と頼んだ。
携帯越しに士長にも聞こえたらしく、
久美子は士長からOKを貰ったようだ。
『じゃあ、決まりね。
明日の夕方、仕事が終わってから
茜さんとム~君、久美子さん
私の4人で今後の話し合いだね。
ム~君によろしく言っといてね。』
そう、久美子さんに話してるスマホ越しの士長の声が
今度は俺に聞き取れた。
『ああ、久美子さん。ちょうど聞こえた。
ちょっと、茜と話してみる。
茜が迷惑かけて、ごめんなさい。』
『あはは、ム~君にかかると、茜とどっちが大人か解らないね!
じゃあ、ム~君、宜しくね。』
俺は信頼があるのか?
少しホッとした感じで久美子さんは帰って行った。
すると夕方前に茜が帰ってきた。
『士長から、「帰って、頭を冷やしなさい。」って、
早退させられた。』
帰るなり、茜は愚痴るようにそう言って、
キッチンのテーブルに倒れこんだ。
『今日さ、久美子さんが来て、
「士長も私も茜さんを心配してる」って
色々話していったよ。』
俺は、茜の向かいの椅子に座って茜に話した。
『え~、久美子、来てたの?いやだ~。
もう、何がなんだか解からない。』
本当に茜はドはまりしたらしい。
俺は、チャイニーズレストランの出前を頼むために電話をかけた。
茜に何が食べたいか聞くと
唐揚げ、焼き飯、エビチリ、餃子、スープを一気にリクエストした。
‘恋煩いでも、食欲はあるのね!’とか思いながら、
焼き飯、タンメンと餃子をプラスして注文した。
締めて5500円なり。痛い出費だったが、仕方がない。
とりあえず気を使ってから、
夕飯の前後に担任以外のネタを色々と聞いてみた。
出るは出るは、ミスの山。士長が困った理由が解った。
一通り話を聞いてから、
『近藤先生って、カッコイイよね!』って振ったら、
茜はポロポロ泣き始めた。
『ム~君、解ってるんなら、意地悪しなくてもいいじゃん。
私、苦しいのよ。
でも、私はム~君の親代わりで、近藤さんはム~君の担任!
私たち結ばれない運命なの。私って、不憫~!』
こんなセリフをマジ泣きで言う茜を真正面に見ると
笑ってしまいそうで死にそうだった。
でも、俺は茜が可愛くも見えた。
だから俺はこう言ったんだ。
『茜、もし、マジで恋してんならさ~、
前向きに考えようぜ。』
俺は、少し腹をくくることにした。
『もう~、ム~君、何言ってるかわかんない。』
そんな茜のセリフを無視して、俺は続けた。
『茜、今までありがとう!
茜のお陰で、もう少しで高校生さ。
義務教育は終わるし、
中卒で世の中に出なきゃいけない人たちも少しはいる。
子供ではあるけれど、独り立ちしていい年齢に俺はなったんだ。
ここまで育ててくれて、ありがとう。』
茜はポカ~ンとした表情で俺の話を聞いていた。
そして、泣くのを止めた。
『それでさ、俺、茜が近藤先生を好きになるとは
思わなかったから、
近藤先生がどんな大人か、
茜が結婚して幸せになれるのか?
とか考えたことなかったんだ!
どんな大人なのか、浪費癖やDVの可能性がないか、
俺、何も知らないのよ。
だから、茜が両の目でしっかり近藤先生を
観察して付き合うのか、どうするのかを決めな!
もし茜がここに住み続けたければ俺が出ていくし、
2人にとって家賃が高ければ、
茜たちが納得する部屋を探せばいいから。
まずは近藤先生の気持ちと性格と
茜が振られずに恋が実るのか?
妥協せずに考えてごらん。
そうそう、俺と茜の貯金の事は話してはダメだよ。』
最後のフレーズを強めに言った。
『えっ、どうして?』茜は真顔で聞き返した。
『茜、トイレットペーパーの一件、まだ、覚えてるか?』
『なんで、私の恋愛とトイレットペーパーが同じ話なのよ?』
茜はムキになった。

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