心淋し川
心淋し川(集英社)/西條奈加
ナレーター/宮本充
時代は違えどそこに流れる人の心の浮き沈みは変わらず、淀むこともあれば澄むこともある。そういった繊細機微な人情の物語を、愛嬌のある登場人物たちによって紡いでいる良作。特に「はじめましょ」が好き。
また本作の持ち味は登場人物たちの味わい深さだと思う。全くの善人でもなければ極悪人でもない。エゴもあるし慈しみもある。複雑で入り組んだ心を持った登場人物たちには必ずどこかしらで親しみを覚える。登場人物ひとりひとりに読者が寄り添えるからこそ、作品世界への没入感があり、より深く読むことができるのだと思う。
その他、ナレーターの手腕(?)が素晴らしい。屈託のない子供から憂う老人まで幅広い声を出せるのみならず、声のどこかに哀愁を携えていて、作品の雰囲気にぴったり合っている。
早計だけれども今年のマイベスト上位入賞は確実。