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捨てるための日記_03『アフター・クロード』を読んで

くもったりなんとなく晴れたり。
出かけようか迷っている。
外出するなら本屋へ行きたいし、美術館でみたい展覧会もあるし、今なら気候もよくて散歩するにはいいし、駅前の高島屋は全国うまいもの市みたいなのをやってるし。
でも出かけるにはまずシャワーを浴びなくてはいけないし、読みかけの本はたくさんあるし、流しに溜まっている食器も洗わなくてはならないし、4月に着ていたジャケット類も片づけたいし、家で過ごそうと思ったらどれだけでも家で過ごせる。

そんなわけで出かけようか迷っている。

■『アフター・クロード』を読んだ

2021年9月に国書刊行会から出た本だけど、1973年にアメリカで出版されている。
Twitterのタイムラインで見かけて興味をもった。海外文学は今まであまり読んでこなかったから。とはいえ最近は海外どころか日本の小説もほとんど読んでいない。小説そのものが遠くなっている。

で、この本を読んだ感想だけど、1章から主人公のハリエットにはけっこううんざりしてくる。クロード、あんたのイラつきわかるよ。

読みすすめるうちに、ハリエットの言動って病院に行ったら診断がつく感じのやつじゃない? とも思う。彼女は自分がまともだと思っているから絶対行かないだろうけど。そんで頭のおかしい人間は自分のことをまともだと思っているから、その言動によって苦しめられるのはそばにいる一番身近な人間で、むしろ彼らが病んでいく。かわいそうなローダ=レジーナ。

でもレジーナはむしろハリエットをうまく家から追い出せたほうで、クロードはこの寄生虫をアパートから引っぺがすのにめちゃくちゃ苦労している。常識人は「明日までこれ持って出ていけ」と渡した手切れ金が、アパートのカギの交換と籠城用の食料に使われると思わないじゃん? 困ってる人だと思って助けた子が半年もアパートに居座って、自分ちみたいに食べ物をむしゃむしゃ飲み食いして一日ずっとTV見て、部屋主の自分にコーヒーの一杯も入れてくれるわけでもなくちょっと頼んだシャツのクリーニングも言い訳ばっかして出してくれず、口を開けば皮肉と悪口と言い訳と非難で。そりゃ、そういう相手を気遣えない人間とは一緒に過ごせないよ。

自分に都合のいいように世界を見て、自分に都合よく解釈を変える人間とは話が通じない。彼女の言葉はそのときの彼女の都合でなかったことにもなるし、知的に放ったことにもなるし、そういう意味で言ったんじゃないことにもなる。それに、相手がバカだから色んなことを理解できないだってことになるし、そんな相手を寛容に許す自分に酔いしれる道具になったりもする。

自分の言動と世界に対して、常に解釈の修正を加えなくてはいけない人間の中身は忙しい。

ただ、ハリエットの皮肉と嫌味のセンスは最高にいいので、比喩の文章は真似したくなるくらいだ。そして真似したら人格を疑われるだろう。

散々ハリエットのはた迷惑な部分を列挙してみたけれど、巻末の解説はハリエットに対して優しい。過剰な自己防衛といわれれば確かにそう。

そしてクロードのアパートを追い出されてからのハリエットは、思考回路は相変わらずなんだけどクロードみたいな戦う相手(というかサンドバックか)がいなくて、小説のトーンが少し変わる。結末に明るさはないけど、こういう人たちってどうやって救われていくんだろうか。

■雑

これを書いているあいだになんとなく、むかし2ちゃんねるで読んだ「押しかけ厨」を思い出した。

多分一番よく「押しかけ厨」がまとまっているページ。全部に目を通さずとも「押しかけ厨とは」の部分だけ読んでも概要はつかめる。
インターネットによってこういう人間がいるということが可視化されるのはいいことだ。多少なりともこういう人間がいると知っているのと、全く知らないのとでは対応が違ってくる。

ただ、迷惑をかけられた側(押しかけ厨被害者)の対応は蓄積されていくけれど、押しかけ厨たちのその後はわからないままなのでどうなっているのか気になるところだ。

そういう人たちがちゃんと社会生活を営めているのなら『アフター・クロード』では描かれなかったハリエットの未来にも少し光が差し込むような気がする。

さて、出かける準備をするか。

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