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ゼロ書民法 #06 意思表示の瑕疵と第三者

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#06のテーマは意思表示の瑕疵と第三者です。


意思表示の瑕疵と第三者

おさらい:意思表示の瑕疵

意思表示の瑕疵は#04にて説明しましたが、ざっとおさらいします。
意思表示の瑕疵とは、意思表示が不完全になっていることをいいます。
その類型には、心裡留保通謀虚偽表示意思不存在の錯誤基礎事情の錯誤詐欺強迫があります。
これらの事由が存在するときは、意思表示が無効又は取消しとなります。

第三者の存在

AがBにダイヤモンドを売り(契約①)、BがCにダイヤモンドを売った(契約②)とします。Aは表意者、Bは意思表示の相手方、Cは第三者にあたります。
契約①・②が有効であれば、ダイヤモンドの所有権はA→B→Cへと移転します。
しかし、契約①が無効であれば、A→B間で所有権が移転しないため、B→C間も移転しません。第三者Cは所有権取得に失敗したことになります。
つまり、第三者は自身が直接関与できない二当事者間の状況により、不利益を負うおそれがあります。これでは第三者は怖くて取引できません。何らかの対策が必要です。

心裡留保・通謀虚偽表示の第三者

AがBにダイヤモンドを売り(契約①)、BがCにダイヤモンドを売ったものの(契約②)、契約①におけるAの意思表示が心裡留保or通謀虚偽表示にあたり、無効だったとします。

契約①におけるAの意思表示がAの真意ではないことは、第三者Cにとっては関係のない話で、これによってCがその地位を奪われる理由はありません。ただし、Cがこれを知っていたのであれば、Cを保護する必要もありません。
よって、第三者Cが心裡留保/通謀虚偽表示の事実に善意であるときは、意思表示の無効を第三者Cに対抗できません(93条2項、94条2項)。(反対に、Cが悪意であれば対抗できます。)

では、ダイヤモンドの所有権は最終的に誰に帰属するのか。パターンで理解しましょう。
前の設例に加えて、CがDにダイヤモンドを売ったとします(契約③)。Dは転得者にあたります。
前提として、契約①が心裡留保/通謀虚偽表示として無効になるケースなので、意思表示の相手方Bは悪意です。
❶第三者Cが善意のときは、Cが確定的に所有権を取得します。このとき、Bはスキップされ、A→C間で直接に所有権が移転します。転得者Dは、D自身の善意/悪意にかかわらず、有効にCから所有権移転を受けることができます。
❷第三者Cが悪意のときであっても、転得者Dが善意であれば、Dが「第三者」として確定的に所有権を取得します。このとき、B・Cはスキップされ、A→D間で直接に所有権が移転します。
❸第三者C・転得者Dがいずれも悪意のときは、所有権移転は発生せず、所有権はAに帰属します。

心裡留保・通謀虚偽表示の第三者の範囲

93条2項・94条2項の「第三者」は限定して解釈されます。「第三者」の限定解釈は、177条・178条で勉強しましたね(#05)。これと同じやり方です。
これらの規定は、本来は保護されるはずだった表意者Aを犠牲にして第三者C・転得者Dを保護するものであるため、93条2項・94条2項の「第三者」はそうまでして保護に値する者に限定しようというのが趣旨です。

「心裡留保・通謀虚偽表示の第三者とは、当事者またはその包括承継人(ex.相続人)以外の者であって、かつ、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至った者をいう。」とされています。
下表に第三者の具体例を挙げていますが、少し細かい知識なので、ここではこれまで出てきた第三者C・転得者D(心裡留保/通謀虚偽表示の相手方Bから物の権利を取得した者)は、「第三者」にあたることをおさえてください。


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