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ゼロ書民法 #04 制限行為能力、意思表示の瑕疵

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#04では制限せいげん行為こうい能力のうりょく意思いし表示ひょうじ瑕疵かしを説明します。


契約の拘束力

#01では、契約が成立すると、債権・債務が生じると説明しました。例えば、売買契約に基づき、買主は売主に対して売買代金を支払う債務を負います。

つまり、契約をした者は契約によって一定の行為を強制されることになります(契約の拘束力)。
商品を買った後、(ショップがサービスとしてやっているときを除いて、)やっぱり気に入らないからと返品することはできず、代金を支払わなければなりません。
なぜこれを受け入れなければならないかというと、自分の意思で決めたことだからです。自分で決めた約束は、守る責任がある。

しかし、次のケースでは、自分の意思で決めたからといっても、契約の拘束力を及ぼすべきはないでしょう。

  • 制限せいげん行為こうい能力のうりょく
    未成年・認知症を患う高齢者など、自分がしている行為の意味や損得を判断できない人が、契約(意思表示)をするケース

  • 意思いし表示ひょうじ瑕疵かし
    騙されていた、勘違いをしていたなどの状況で、契約(意思表示)をするケース

このとき、契約の拘束力は発生せず、当事者は債務を負わないことになります。

以下では、制限行為能力・意思表示の瑕疵について、法律要件・法律効果を説明します。

制限せいげん行為こうい能力のうりょく

制限せいげん行為こうい能力のうりょくは、自分がしている行為の意味や損得を判断できない人(制限行為能力者)がした契約(意思表示)の効力を否定する制度です。

制限行為能力者にあたるのは、まず、未成年者です(5条1項・2項)。
未成年者が法定代理人(多くは親)の同意を得ずにしたことは、取り消すことができます。例外として、おこづかいを使った買い物など(5条3項後段)、取り消すことができない契約もありますが、通常は取消可能です。

未成年者以外の制限行為能力者には、被後見人(8条)被保佐人(12条)被補助人(16条)がいます。「後見される人」なので「被」後見人といいます。後見する人は後見人です。
三者の違いは、判断能力(事理弁識能力)の程度です。家庭裁判所が審判することにより、決定します。
被後見人・被保佐人・被補助人は、その能力に応じて、単独でできる行為が制限されています。能力を超えた行為は、法定代理人等により、取り消されます。

意思いし表示ひょうじ瑕疵かし

瑕疵かしとは欠点のことです。何らかの事由で、意思表示が不完全になっている状況を、意思いし表示ひょうじ瑕疵かしといいます。
意思表示の瑕疵は、類型化(パターン化)されていて、民法の条文に書かれています。

大きく、①本心ではない意思表示、②誤解に基づく意思表示、③他人から不当な影響を受けた状態でなされる意思表示、に分かれます。
①には、心裡しんり留保りゅうほ通謀つうぼう虚偽きょぎ表示ひょうじがあります。
②には、意思いし不存在ふそんざい錯誤さくご基礎きそ事情じじょう錯誤さくごがあります。
③には、詐欺さぎ強迫きょうはく、があります。
法律効果としては、①が無効、②・③は取消し、となります。無効・取消しについては記事後段で説明します。

以下では、瑕疵の類型ごとに、そのなかみや要件を説明します。
要件を考えるにあたっては、意思表示をした人(表意者)↔︎意思表示の相手方、両者が置かれている状況に留意しましょう。意思表示(契約)がなかったことになるのは、通常、意思表示の相手方にとって不利益です。すでに成立した取引やその利益が飛ぶことになるからです。また、表意者に落ち度があるケースもあります。民法は、このような両者が置かれている状況を踏まえて、効力を否定できる条件を定めています。
以下では、表意者=A、意思表示の相手方をBとします。

心裡しんり留保りゅうほ通謀つうぼう虚偽きょぎ表示ひょうじ

心裡しんり留保りゅうほ(93条1項)とは、ウソ・冗談の意思表示のことです。わざと本心と異なる意思表示をすることをいいます。
心裡留保の例としては、「ポルシェ所有者Aが、本心ではそのつもりはないのに、Bにポルシェを贈与する。」があります。

Aは本心ではそうするつもりがない以上、意思表示を有効とする必要はありません。
しかし、他人が内心何を考えているかなんてわかりません。BがAのウソ・冗談に気づかなかったとき、 これを信じて行動したBが損をするおそれがあります。
他方、Aは、本心と異なる意思表示をしているのですから、軽率です。

以上を踏まえて、心理留保は、①表示内容に対応する意思のないこと②相手方が①について悪意又は善意有過失であること、をみたすときに、に無効となります。
ここで、善意とは知らないこと、悪意とは知っていること、有過失とは必要な調査等をすれば知ることができたこと、を意味します。

通謀つうぼう虚偽きょぎ表示ひょうじ(94条1項)とは、お互い真意でないことを知ったうえでの仮装の意思表示です。
通謀虚偽表示の例としては、「土地所有者Aが、強制執行を免れるため、本心ではそのつもりはないのに、Bと示し合わせて、土地を売ったように仮装した。」があります。

Aが多重債務状態にあるとき、Aにお金を貸している人たち(債権者)は、A所有の土地を競売にかけて、返済に充てようとします。Aはその前に土地を第三者に売却しておけば、競売にかけられることは避けられます。
そのため、AはBと示し合わせて、土地売買契約書を作ったり、登記など必要な届出をしたりすることで、Bに売却したようにみせることがあります。

Aは本心ではそうするつもりがない以上、意思表示を有効とする必要はありません。
また、心裡留保と異なり、Bも本心でないことを知っているので、Bを保護する必要がありません。

以上を踏まえて、通謀虚偽表示は、①表示内容に対応する意思のないこと①相手方と意思表示を仮装する合意があること、をみたすときに無効となります。

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