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ゼロ書民法 #01 民法の全体像

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連載#01では、民法の全体像を説明します。
民法の条文数は1000を超え、多種多様なコンテンツが盛り込まれており、その全体像を把握してもらうのは結構難しいです。
そこで、次の3側面から説明します。イメージをもってもらえると幸いです。いずれも「ふ〜ん」という感じで進んでもらってOKです。

  • 民法の位置付け
    他の法律とどのような関係にあるのか。

  • 民法のなかみ(条文)の構造
    目次・章立てを手がかりに、民法のなかみ(条文)を分類・整理する

  • 民法の出番
    社会はどのような場面で民法を使うのか。

民法の全体像を説明した後、請求権せいきゅうけん債権さいけん要件・効果モデルを説明します。この概念は、今後の民法学習の基礎構造となる部分ですので、よく読んでおいてください。


民法の全体像

民法の位置付け

法律学習における「基本的な法律」として、7つの法律基本科目が定められています(憲法けんぽう行政法ぎょうせいほう民法みんぽう商法しょうほう民事訴訟法みんじそしょうほう刑法けいほう刑事訴訟法けいじそしょうほう)。これらを分類・整理してみましょう。

まず、法律を公法こうほう私法しほうに分けることができます。公法は「公権力(国)vs私人(個人)」のルールを定める法律です。
例えば、刑法は「国vs犯罪を犯した個人」のルールを定めます。他方、私法は「私人vs私人」のルールを定める法律です。民法は私法のひとつです。

次に、実体法手続法という分類があります。実体法はいろいろな権利のなかみを定める法律です。後述しますが、権利はそのままでは実現しないときがあるので、これを実現させるための手続を定めた法律が別途定める必要があります。これが手続法です。
民法/民事訴訟法は、実体法/手続法の関係にあります。

さらに、一般法特別法という分類があります。一般法は全領域に適用されるベーシックな法律です。特別法は特定領域にのみ適用される法律です。
一般法と特別法に同一事項について定めがあるときは特別法の定めが優先します。また、特別法に定めがない部分は一般法の定めが適用されます。
民法/商法は、一般法/特別法の関係にあります。

まとめると、民法は私法実体法であり、一般法です。この位置付け自体は「ふ〜ん」でOKです。

ここで知っておいてほしいのは、民法を理解しておくと他の法律科目を理解しやすいこと、逆に、他の法律科目の学習が進むことで民法の解像度が上がることです。
つまり、法律学習にはシナジーがあります。とりわけ民法はその根幹度から他科目とのシナジーが大きいです。

民法のなかみ(条文)の構造

民法のなかみ(条文)を、編・章立てに沿って分類・整理してみましょう。

まず、民法の定め(条文)を財産法ざいさんほう(第1編〜第3編)と家族法かぞくほう(第4編・第5編)に分けることができます。
財産法は経済的生活関係のルールを定めています。要は、おカネ・取引・経済の話です。他方、家族法は、親子・夫婦などの他人を超えた人間同士の関係のルールを定めています。

財産法は、民法総則みんぽうそうそく物権ぶっけん債権総論さいけんそうろん契約法けいやくほう事務管理じむかんり不当利得ふとうりとく不法行為法ふほうこういほう、に分けることができます。
家族法は、親族法しんぞくほう相続法そうぞくほうに分けることができます。

ここも「ふ〜ん」でOKです。
ここで知っておいてほしいのは、民法は、条文を1条から順に読んでいけば理解できるようになっていないことです。後ろの条文を理解していないと前の条文が理解できないケースが多々あります。
法律学習のコツとして、よくわからないことがでてきても、長く立ち止まらずに先に進みましょう

民法の出番

例えば、ひとつの自動車を巡って、二人がお互いに「これは俺のものだ」と言い争っているとしましょう。
それぞれ、「自動車は○○から買った」「5年前に死んだ父親から相続した」など、色々な言い分があると思います。

しかし、平行線の言い争いを続けていても埒があきません。両者は公平なルールに基づいて、争いを終結させたいと思うはずです。
この「公平なルール」の一つが民法です。前述の言い分が法的に意味があるかどうかは、民法に照らして判断されます。つまり、民法は私人間紛争しじんかんふんそうの解決基準です。

紛争解決の手順はカードゲームに似ています。
プレイヤーは、民法を開いて各条文を読み、この争いで相手に主張できる言い分がないかを探します。いわば手札探しです。
その言い分をお互いにぶつけあい、より正しい言い分を主張できた者が係争物の権利を獲得します。

紛争解決手続(民事訴訟手続)

我が国では、私人間紛争の解決手続として、民事訴訟手続が用意されています。誰でもアクセスできます。その流れを見てみましょう。

紛争解決を望む者は、裁判所に訴えを提起します。そして、裁判所に言い分を認めてもらい、勝訴しょうそ判決はんけつを獲得しなければなりません(③)。
勝訴判決を獲得したら、これを執行機関に持ち込んで、強制きょうせい執行しっこうをすることができます(④)。
これらの手続を踏まなければ、自動車が本当に自分の所有物であっても、相手から自動車を返してもらうことができません。

実際の紛争解決過程は、民事訴訟手続に移行する前から始まります。
まず、予防レベルの話です。紛争化することを防ぐため、又は紛争化したときに勝訴できるようにしておくため、取引(契約)をするときは、民法の規定を踏まえてベストな行動をとる必要があります。例えば、効力が欠けないような契約書を作成します(①)。
また、民事訴訟手続はお金・時間がかかるので、紛争当事者は、民事訴訟手続を利用する前に、当事者間で直接交渉をします(②)。
以上が紛争解決手続の概要です。


請求権せいきゅうけん債権さいけん

請求権せいきゅうけん債権さいけん)とは

民事訴訟における判決の主文しゅぶん(結論)は、例えば、「被告は、原告に対し、100万円を支払え」と記されます。
原告をAさん、被告をBさんとします。
この判決では、「AさんがBさんに対して100万円を支払うよう求める権利があること」が認定されたことになります。
主語と述語を反対にして、「BさんがAさんに対して100万円を支払う義務があること」が認定されたともいえます。同じ意味です。

このように、裁判所が判断する対象は、「Aが、Bに対して、○○するように求める権利」があるかないか、です。この「〜〜」の形式で定義される権利を請求権せいきゅうけんといい、債権さいけんとも呼ばれます。つまり、裁判所は請求権の存否を判断します。

請求権(債権)にはたくさんの種類があります。そして、民法には各種請求権(債権)の発生根拠となる定めがあります。
下図では、具体的な請求権と根拠条文の組み合わせを挙げています。

契約に基づく債権

債権が発生する原因のうち、最も一般的なものは契約けいやくです。そのなかでも、売買ばいばい契約けいやくが一番身近なものでしょう。

売買契約は、「物の権利を相手に移転する。 相手方は対価として代金を支払う」ことを内容とする契約です(555条)。
皆さんがイメージする「売買」と相違ありません。コンビニでおにぎりを買うことも売買です。

以下では、ある売買契約を事例として、契約に基づく債権について説明します。

Aはリンゴを4個買いたい、Bは手持ちのリンゴを適正価格で売りたいとします。Aは買主かいぬし、Bは売主うりぬしとして、交渉を始めます。
交渉の結果、ふたりは「AがBのリンゴ4個を1000円で買う」ことに合意しました。売買契約成立します。

売買契約成立により、買主Aは、「Bに対し、リンゴ4個を渡すよう求める権利」を取得します(目的物もくてきぶつ引渡ひきわたし債権さいけんといいます)。
同時に、売主Bは、「Aに対し、代金1000円を支払うよう求める権利」を取得します(売買ばいばい代金だいきん債権さいけんといいます)。

債権(者)/債務(者)

「他人に○○するように求める権利」を債権さいけんと呼ぶのに対し、「他人のために○○する義務があること」を債務さいむと呼びます。
債権を有する者を債権者さいけんしゃ、債務を負う者を債務者さいむしゃといいます。
上記の例では、売買契約成立により、
買主Aには目的物引渡債権が発生します。Aは債権者です。
売主Bには目的物引渡債務が発生します。Bは債務者です。


要件・効果モデル

売買契約の成立 → 目的物引渡債権の発生
        → 売買代金債権の発生

上記のような因果の流れ(→)がありますよね。左側が原因、右側が結果、の関係にあります。
このように、「一定の事実が揃うと(法律要件)、特定の権利・義務が発生(等)する(法律効果)」という関係を、要件・効果モデルと呼びます。

目的物引渡債権・売買代金債権の発生要件は、売買契約の成立です。
売買契約の成立が認められるには、売買契約の本質的要素として、財産権ざいさんけん移転いてんの合意代金だいきん支払しはらいの合意、が必要です。
この要件①・②は、売買契約を定める555条を手掛かりとして、導出することができます。

すべての法律要件をみたしてはじめて、法律効果が発生します。下図のように、法律要件がすべて青信号のときに、法律効果も青信号になる、といったイメージです。

反対に、要件をみたさないときは、法律効果は発生しません。法律要件のいずれかが赤信号のときは、法律効果も赤信号になります。


まとめ

民法学習の中心は、請求権(債権)の種類各種請求権(債権)の性質を学ぶことです。
試験問題は、事例を与えられて、その事例で利用できる請求権の種類や内容を考えさせるものが多いです。
実際の司法試験でも、請求権の存否が問われています。

令和4年司法試験問題[民事系科目・第1問]
〔設問1(1)〕
【事実I】及び【事実II】を前提として、令和2年5月1日、CがAに対して甲土地の引渡しを請求した。 Aはこれを拒むことができるか、論じなさい。

この問題では、CのAに対する甲土地引渡請求権の存否が問題となっています。

論文答案の書き方

民法論文問題の答案は、次の順序で書くことになります。

①請求権  利用できそうな請求権の概要を示す。  
      ↓
②要件   ①請求権の発生要件を示す。 
      ↓
③あてはめ ②要件をみたす事実の存否を述べる。
      ↓
③結論   ③当てはめの結果、請求権の存否を述べる

下図は、簡単な事例問題とそれに対応する答案例です。


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