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ゼロ書民法 #02 典型契約、売買契約、条件・期限、弁済・同時履行の抗弁

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#02では 、まず典型てんけい契約けいやくの概要を説明します。学習初期にイメージを持っておくと、今後の指針となります。
次に、売買契約にかかわる法律要件と法律効果を学びます。これは基本的かつ重要です。これを通して、要件・効果モデルに慣れていきましょう。
次に、条件じょうけん期限きげん同時どうじ履行りこう抗弁こうべん弁済べんさいを学びます。


典型てんけい契約けいやく

契約には何種類あるかご存知ですか?
人々は契約内容を自由に決めることができるので(契約自由の原則)、その意味では契約のパターンは無数にありますが、民法は13種類の契約を標準モデルとして用意しています。これを典型てんけい契約けいやくといいます。
下図では、典型契約を大きく4つのカテゴリに分け、各典型契約の概要を記載しています。なお、最右列に法律学習上の"優先度"を記載していますが、私の独断による目安なので、参考程度でお考えください。

①物をあげる契約(権利移転型)

物の権利(多くは所有権)を相手方に移転するタイプの契約です。3種類あり、対価の有無・種類により、分かれます。

  • 売買ばいばい(555条)
    物の権利を相手に移転する。相手方は対価として代金を支払う。
    優先度S:最も身近な基本的契約です。売買に係る規定は、他の契約でも準用されます(559条)。

  • 贈与ぞうよ(549条)
    物の権利を相手に移転する。対価はない。
    優先度B:割と身近な契約です。遺贈いぞうなど、相続に関連して理解が問われます。

  • 交換こうかん(586条)
    物の権利を相手に移転する。相手方も、別の物の権利を相手に移転する。いわゆる物々交換。
    優先度C:試験にはあまり出ません。

②物を貸す契約(貸借型)

相手方に物を一時的に預けて使わせるタイプの契約です。相手は物を使用する利益を得ます。3種類あります。

  • 消費しょうひ貸借たいしゃく(587条)
    相手方に物を一時的に預けて使わせた後、同種・同質・同量の物を返還させる。
    米・油・金銭などが対象。使った分は埋め合わせてから返す。
    優先度A:いわゆる借金は、金銭の消費貸借契約です。よく出題されます。

  • 使用しよう貸借たいしゃく(593条)
    相手方に物を一時的に預けて使わせた後、預けた物を返還させる。対価はない。
    優先度B:割と身近な契約です。法律学習としては、賃貸借と比較して制度を覚えればよいです。

  • ちん貸借たいしゃく(601条)
    相手方に物を一時的に預けて使わせた後、預けた物を返還させる。相手方は対価として賃料を支払う。
    優先度S:特に不動産の賃貸借は、国民生活に深く関わる重要な契約です。

③サービスを提供する契約(役務提供型)

物ではなくサービスを提供する契約です。4種類あります。具体例でイメージを持っておきましょう。

  • 請負うけおい(632条)
    依頼された仕事を完成させる。仕事を完成させないと報酬が発生しない、結果保証型契約。
    建設工事契約が典型例。
    優先度A:身近な基本的契約です。よく出題されます。

  • 委任いにん(643条)
    専門的な事務を、本人に代わって処理する。結果保証はない。
    弁護士の訴訟代理事務、医師の診療行為が典型例。
    優先度A:代理や会社法など、色々な法分野に絡みます。

  • 雇用こよう(623条)
    労働に従事する。委任と異なり、会社の指揮命令に服する。
    優先度C:特別法として労働法(総称)が定められており、試験的にはそちらで出題されるので、民法では出題されにくいです。

  • 寄託きたく(657条)
    物を預かり、保管する。貸借型契約と異なり、預かった物を使うことはできない(658条1項)。
    優先度B:割とよく出題されます。

④その他

  • 組合くみあい(667条)
    複数人が出資して共同事業を営む。
    優先度C:試験にはあまり出ません。

  • 終身定期金しゅうしんていききん(689条)
    相手方等が死ぬまで定期的に、金銭等を相手方等に給付する。
    優先度C:試験にはあまり出ません。

  • 和解わかい(695条)
    紛争当事者が争いを終わらせるため、互いに譲歩した内容の取り決めをする。
    優先度B:弁護士になる方には、切っても切り離せない重要な契約です。


売買契約の要件・効果

#01のおさらいです。
AとBは、「AがBのリンゴ4個を1000円で買う」ことに合意しました。売買契約が成立します。
売買契約成立により、買主Aは目的物もくてきぶつ引渡ひきわたし債権さいけんを取得します。同時に、売主Bは売買ばいばい代金だいきん債権さいけんを取得します。

目的物引渡債権

買主の目的物引渡債権の発生要件は、売買契約の成立、つまり、財産権ざいさんけん移転いてんの合意代金だいきん支払しはらいの合意、です(555条)。

売買代金債権

売主の売買代金債権の発生要件は、目的物引渡債権と同じく、売買契約の成立、つまり、①財産権の移転の合意、②代金支払の合意、です。

所有権の移転

売買契約成立による法律効果は、目的物引渡債権・売買代金債権が発生するだけではありません。
売買契約成立により、物の所有権が売主から買主に移転します。所有権については#03にて説明しますが、ここでは「これは俺のものだ」といえる地位のことだと考えてください。

所有権の移転は、売買契約締結と同時に発生します(176条)。
例えば、上図の通り、AがBにダイヤを売って(契約①)BがCにダイヤを売ったとき(契約②)、ダイヤの所有権は、契約①と同時にA→Bへと移り、契約②と同時にB→Cへと移ります。
もし契約①・②だけを先に済ませて、ダイヤがまだAの手元にあっても、所有権はすでにCに移転しています。


条件じょうけん期限きげん

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