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ゼロ書民法 #03 物権的請求権

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#03のメインテーマは物権的ぶっけんてき請求権せいきゅうけんです。メインに入る前に、前提知識として物権ぶっけんを説明します。


物は、不動産ふどうさん動産どうさんに分かれます。
不動産と動産の違いは、文字通り、動かせないのが不動・・産、動かせるのが産、です。

不動産ふどうさんとは、土地土地の定着物をいいます。
土地の定着物の例は、建物、草木、石垣、灯篭などです。
土地と土地の定着物は、原則、全体で一つの物になります。ただし、例外もあり、一例として土地と建物は一体とならず、別々の物とされます。

動産どうさんとは、不動産以外の物です。持ち運びが可能です。


物権ぶっけん

物についての権利を物権ぶっけんといいます。
物権は、所有権しょゆうけん用益ようえき物権ぶっけん担保たんぽ物権ぶっけん占有権せんゆうけん、に分かれます。(占有権は性質が異なるため上図からは除いています。)
用益物権・担保物権は、所有権に比べて限られたことしかできない制限物権です。用益物権・担保物権のなかみは、後の記事で説明します。
以下では、所有権と占有権を説明します。

所有権しょゆうけん

所有権しょゆうけんは、物を全面的に支配する権利です。
具体的には、次の2点ができる権利です(206条)。

  • 物を自分で使ったり、他人に使わせて対価をもらったりすること(使用収益権

  • 物を他人に売ったりあげたり、捨てたりすること(処分権

所有権を取得する方法はいくつかありますが、大きくは、①旧所有者から権利を引き継ぐ方法(承継しょうけい取得しゅとく)、②一から所有者になる方法(原始げんし取得しゅとく)、に分かれます。
①承継取得の典型例は売買です。贈与・交換によっても、所有権を取得することができます。
②原始取得の例としては、建物を新築する、物を一定期間支配する(時効じこう取得しゅとく、162条)、まだ誰の所有でもない物を最初に支配する(無主物むしゅぶつ先占せんせん、239条)、などがあります。

占有せんゆう

占有せんゆうとは「自己のためにする意思をもって物を所持すること」をいいます。
ざっくりいえば、物を持っていることです。占有と意味の近いことばは、預かる、管理する、などです。

占有は、自分で現実に物を所持しなくても、物を預けるなどにより、他人を介してすることができます。これを間接占有といいます。
物を現実に所持する者を直接占有者、他人を介してする者を間接占有者といいます。例えば、物を他人に貸しているとき、貸主は間接占有者、借主は直接占有者です。


物権的ぶっけんてき請求権せいきゅうけん

所有者であっても、物を思い通りに活用できないときがあります。
例えば、スマートフォンが盗まれて手元からなくなると、スマートフォン所有者は、これを使いたくても使えないし、中古屋に買取に出すこともできないですよね。このような窃盗は所有権に対する侵害です。

所有権には、このような侵害を排除する力が認められています。これを(所有権に基づく)物権的ぶっけんてき請求権せいきゅうけんといいます。
物権的請求権は3種類あります。以下、ひとつずつ説明します。所有者をA、侵害者をB、とします。

返還へんかん請求権

返還へんかん請求権は、対象物を占有する他人に対し、返還を求めるものです。
例えば、Aが所有する建物に、BがAに無断で住んでいるケースです。
このとき、AはBに対し、建物を退去して返還するよう求めることができます。

返還請求権の要件は、①A所有②B占有③②の占有が正当な権原けんげんを有しないこと、です。
要件③における正当な権原けんげんとは、物を占有できる正当な理由をいいます。
例えば、建物占有の正当な権原として、賃貸借関係(賃借権)があります。建物借主Bがちゃんと賃料を払って入居しているのに、大家Aから「出ていけ。」と言われて、応じる必要はないですよね。
返還請求権の論理展開としては、要件①・②をみたすときに所有権侵害状態が設定されて、侵害状態を正当化する要件③をみたさない限り、返還請求権が認められる、となります。

妨害ぼうがい排除はいじょ請求権

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