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「魔法使いの卒業」製作裏話 #2

お話の話

「校長先生!」と勢いよく扉を空けて入ってきたのはサリアと幼なじみの彼だった。
「いったいどういうことですか!テリアが卒業できないなんておかしいです。」
あまりにも勢いがいいサリアに彼はまあまあと抑えるように促している。
「また君たちか。テリア君が進級する時も同じ感じだったね。」
「そうですよ。魔力はあまりないけれど、魔法の知識は学校1ですよ。テストだって実技以外はほぼ満点。なぜテリアが卒業できないのですか。」
そういうと校長先生の頭を抱える。
「ワシだって、別に卒業させたくないわけではない。」
「じゃあなんで!」
「前例がないんじゃよ。」
と言ってきたところにドアのノック音。慌てて入ってきたのはテリアでした。
「校長先生失礼します。友人のサリアが失礼しました。私は卒業できなくてもいいので、彼女のいうことは聞かないでください。」
息も切らさず一言で言ったあとサリアの手をとっている。
「何言っているのテリア。あなたまだ魔法がなくなったわけではないのよ。ろうそくの炎出せるじゃない。」
「やめて恥ずかしい。そんなのもう魔女とはいえないでしょ。いいのよ、魔法を発動できないのに進級までさせてもらって、魔法を勉強できたのは本当にありがたいんだから。」
「校長先生、今年の全校生徒の魔法の成績が開校以来一番いいって聞いたんだけれど、本当?」
「そうじゃ。それもテリアさんのおかげだということも知っておる。だから困っておるんじゃ。」
校長先生も卒業させてあげたいが自分の一存ではどうにもできないことを言っていた。

帰り道

校長室を出たあと3人で校門を出る。
「サリア、校長先生に直談判なんてやめてちょうだい。」
「でもテリアが卒業できないなんておかしいじゃん。私、テリアがいなかったら、卒業までこれなかったよ。」
「うちの学校卒業したら魔法使いから、魔女見習いのお免状もらえるでしょ。魔女のもとで修行したら一人前の魔女として独り立ちできることになっているわよね。」
「そうそう。」サリアが大きくうなずく。
「そこで魔法を使えないものが魔女見習いとして学校を出ることはできないのよ。だから校長先生も困っていたんじゃない。」
「でもねでもね、みんな言っているよ。テリアが卒業できないのに私たちが卒業できるなんておかしいって。毎年半分は卒業できないのに、今年は全員卒業できるなんてテリアがみんなの手助けをしたからだよ。」
「私以外みんな卒業できるんだからいいじゃない。」
「そんなのあんまりだじゃないか。納得できないよ。」
今まで黙っていた彼がいつもの冷静さをなくして話に入ってきた。
「ありがとう。」
そう言うといつもの分かれ道。サリアと彼を見送りながら帰途につく。遠くでサリアが私をなんとか卒業させると息巻いている。

自室にて

テリアが自分の部屋のベットで寝転びながら考えている。
私は魔法が好き。魔法の名門の家に生まれたと言うのもあるし、そんなにたくさんの魔女が出たわけではなかったけれど、うちの家系から何人か魔女は出たことがある。母の姉であるおばさんは魔女になった。おばさんは生涯結婚もせずに一人で世の中のために仕事をしている。小さい頃憧れた。何もないところからいろいろなものを出し、ほうきで空を飛んでくる。

本当に心からなりたいと思った。そのことをおばさんに言うとちょっと複雑な表情になって「だめよ。女の子としては幸せになれないわ。恋をすると魔法が消えちゃうの、だから人を好きになれないの」と言っていた。そのときは言っている意味がわからなかった。でも今はよくわかる。

うちは魔女が出やすい家系。でもママはパパと結婚して私が生まれた。だから魔法は使えない。そして、おばさんは結婚せず魔女になっている。そう言うことだ。昔ママとおばさんの間でどう言う話がされたのかはわからないが、だぶん二人はそれぞれの道を選んだのだ。

パパやママは私が魔法を使えたとき喜んでくれた。でも魔法が使えなくなったことの理由を聞かれたことはない。なんとなく理解しているのではないだろうか。こちらから言うのもなんなのでそっとしている。そんなことを考えながらぼぉっとしていた。

昼休み

ある日担任の先生から、昼休みに校長室に行くように言われた。サリアに知れると面倒なのでこっそりと教えてくれた。
私はついにきたかと思った。私の卒業は不可能だと最後通告だろう。昼休みに校長室のドアを緊張しながらノックした。
「入りなさい。」
「失礼します。」
入ると校長先生は深く頭を下げて座っていた。
「どうしてここに呼ばれたかわかるかね。」
「はい、私の卒業のことですよね。」
「そうじゃ。君は魔法が好きかね?」
「はい好きです。」
「魔女になりたいかね。」
「はい。」
もうなれるはずもない魔女だが、素直にはいと言えたのは自分でも驚いた。
「何か魔法は使えるかね?」
「一つだけ使えます。指先にろうそくほどの炎を出せます。」
「見せてくれるかの。」
私は指先に炎を出した。

そのとき初めて炎を出したことを思い出した。3歳の誕生日、ろうそくの炎を見ていたら、指先がむずむずしたので炎が出るといいなと思ったら本当に出た。その瞬間、パパとママはとても喜んでいた。そのときはなんでそんなに喜んでいるかわからなかったけれど二人が喜んでいる姿は嬉しかった。

そんなこと思っていたら校長先生が
「おめでとう、君は卒業できるよ。」
耳を疑った。私が驚いていたからだろうかもう一度
「テリア君、君は魔女見習いだ。」
何が起こったかわからなかった。校長先生が私のことについて国王に意見を求めたらしい。校長先生の熱心で丁寧な説明に国王は聞き入りこう答えたらしい。
「その生徒が魔法が好きで今でも魔女になりたいと心から思い、何か一つでも魔法が使えれば魔女見習いでいいのではないか。私が止められる権限はない。」と。
先ほどの質問はそのためのものだったらしい。

どうやって国王の手に渡ったかはわからないが、卒業生全員の署名の入った嘆願書が出されていたらしい。
なんだか急展開の事実にどうしていいかわからず戻ってきた教室の扉を開けた。その瞬間みなの視線が集中する。
サリアが近づき話しかける。
「どう…だったの?」
「どうやら私卒業できるみたいよ。何でかな?」
そう言うと歓声と拍手が一気に教室を包んだ。クラッカーまで飛んでいる。みんなが駆け寄ってきておめでとうと言っている。
サリアが
「テリアおめでとう。みんなと卒業できるね。これで立派な魔女見習いになれるね。」
彼は「みんなテリアには感謝している。自分たちが卒業できてテリアができないのはおかしいと思ったんだ。」と話しかける。

なんだかみんなが喜んでいるのでこちらまで嬉しくなってきた。あのろうそくの炎を初めて出したときと同じだ。みなの笑顔でこちらまで笑い顔になった。少し涙が出たのは内緒だ。

卒業祝い

サリアと彼が私の卒業祝いをしてくれるらしいと言うのでサリアん家に行ってきた。二人も卒業するのになんだかおかしい。
私もプレゼントを持って行ってふたりに渡した。ふたりからももらってみんなで祝いあった。
そこにはたくさんのご馳走が次から次へと運びこばれてきた。自分の知らない料理もあって驚いた。
「これってみなお母様が作ったのですか?」
と聞くと、
「これとこれはパパかな、こっちは私。パパのも美味しいわよ。」
「うちのパパって昔世界中を旅していたらしいんだよね。そのときその土地土地の料理を覚えたんだって。数えたことないけれど、10や20作るんだよね〜。」とサリア。
「サリアんところのパパの料理は見たことないけれど、おいしいんだよね〜。」といいながら彼はもう食べている。

「自分の両親の料理は食べたことないので驚きです。」
「うちはテリアんとこみたいに由緒正しいお家じゃないからこれが普通だよ。」
「そうなんだ。」
「ママ〜、テリアがママの料理おいしいって。」
「え〜ありがとう。でもそれ魔法で作ったから、ちょっとずるいかな。」
「えっ、おばさま魔女なんですか!」
急にテリアは立ち上がって聞く。
「昔ね、若い頃ちょっとね。これは”esu”の魔法の応用でうまく作った料理をまねたのよ。だから私の実力じゃないのよね。」
「”esu”の魔法の応用って”esa”の上位魔法ですか?」
「あらよく知っているわね。そうなのよ。もう古代魔法だからあんまり知っている人も少ないわね。」
「知っていても誰でも使えるものではないので、おばさんはすごいんだよね。」と彼。

でもおかしい、サリアがいると言うことはおじさんとおばさんは恋をして結婚したはずなのにどうして魔法が使えるんだろう。
「おばさまは結婚後も魔法が使えるのですか?」
「いや〜、もう全然使えなくなっちゃったかな。」
「今では私の方が全然うまいよね〜。」
サリアが勝ち誇ったように口を挟む。
「古代魔法なら私の方が上だけどね。」
おばさまも負けていない。
「古い魔法なんて知っていても、今使える人いないんだから無駄無駄。だからおばさんはやーねー。」
二人の喧嘩はいつものことなのか彼がやれやれと言う顔で見ている。

「おばさまちょっといいですか?」
「はい何ですか?」
「先ほど”esa”の上位魔法に”esu”があると言っていましたが、”eso”もあると言うことですか。」
「あらステキ。その通りよ、その間に”esi”と”ese”もあるのよ。」
「じゃあなぜそんなに段階があるのでしょうか?」
「例えば火の魔法だけれど、いつでも大きな火の玉は必要?料理に使うなら小さい方がいいわよね。大きな隕石燃やすんなら必要だけれど。」と言いながら舌を出している。

「なるほど、と言うことは現代魔法になっているのは簡単に略されたものなのでしょうか?」
「正解!たくさんの人が使えるように改良されたものなのよ。」
「はいはい、また始まったママの魔法講座。もうこれ小さい頃から聞かされてきたんでうんざり。」
サリアの顔がちょっと曇る。
「テリアちゃん見込みあるわ。こんな娘よりよっぽど素直で可愛いわ。何より魔法の知識がとてもあるのね。」
「そうよ、テリアの成績は学年で一番なんだから。」
「じゃあ卒業後はとても有名な魔女に弟子入りするのね。惜しいわ〜。」
「ママ!」とサリアが怒っている。

「いいのサリア。おばさま、私魔法が使えないんです。入学したときは使えたのですが、今は使えなくなったのですが、サリアと彼に助けられて卒業はできました。でも魔法が使えない魔女見習いを弟子にとるところはないんですよ。」
「あら、ごめんなさいね。」
と言いいながらもサリアのママは何か考えている。そしてテリアに話しかける。
「テリアちゃん、よかったらだけどうちに弟子入りしない?一応これでも私魔女なのよ。」
「えっ?」
テリアもサリアも驚いている。
「ママが弟子を?珍しい。今まで弟子とったことなかったじゃない。」
「だってこんなかわいらしくて素直で、しかも古代魔法についてある程度知っている逸材なかなかいないわよ。あなた追い出しても入れちゃうわよ。」
またまた二人は言い合っているので、割って入る。
「私としては嬉しいのですが、父と母に相談してからお返事してもいいでしょうか。」
「はい、それでいいわ。いいお返事待ってますね。」
また次の料理が時間差魔法でできていた。

新しい道

帰って父と母に相談してみたら二つ返事でOKだった。サリアのママんところならこれ以上の弟子入り先はないと父が言い、母は泣いて喜んでいた。
サリアのママって何者なんだろう。サリアも魔法は強い方だけれど、ママも魔法強いのかな?ってもう弟子入りしたら師匠に当たるんだよな。いろいろ考えたけれど答えは出なかった。

彼を好きになることでなくなった魔力。私自身は後悔していない。でも父や母、周りの人たちを悲しませてしまった。それには心が痛んだ。
一時はもう絶望で真っ暗になった。誰にも相談できずに心の奥にしまい込んだ。進学すらも危ういので退学も考えた。

それでも親友が細い糸をつないでくれた。それがきっかけで親友が彼が学校のみんなが卒業を後押ししてくれた。国王の許しも得て、師匠もできた。「古代魔法研究」と言う道ができた。もう魔法に触れることができないと思っていたのでうれしい。もっと魔法が人々の身近になるといいな。もし人を好きになる気持ちが魔法を生むのなら、誰しもが使える魔法があるのかもしれない。誰に褒められなくてもいい、誰かに認められなくてもいい。私はこの道を歩いて行こう。とても細く消えそうだけれど、この道を歩いて行くことに決めた。

以上がが今回の「魔法使いの卒業」のもとにした話です。

お話の背景

長いお話にお付き合いありがとうございます。こんな話にしたのは訳があります。私は人として長く生きてきました。長く生きていると後悔もしますし挫折もします。それも1度や2度ではありません。それでも人生は続いていきます。そんなときに応援までいかないまでも、何か支えになる曲が作れればいいなって思っていたんです。

自分のことを振り返ってみると、確かに挫折はした。辛い思いもした。でもそこで全く道がなかったわけではないんです。偶然のような小さく細い道が少なくともひとつは道があったということです。自分では望んだ道ではなかったのですが、その道しかなくて歩き始めて道もあります。

もう不安しかなく、やめてしまおうかと思ったこともあります。でもそのときもまわりの人に支えられましたし、助けてもいただきました。今回はテリアが自分で道を決めました。誰かに責められたら苦しんでいたかもしれません。でも誰にも責められないのも苦しいものです。どちらにしても苦しいのです。

それでも親友が細い糸のような道を開き、それからギリギリのところで何とか魔女見習いまでいきました。一歩歩き出すと道が開いていった。前に進むことに不安もあります。それでも歩いていく未来を応援してあげたいなと思ったんです。こんな気持ちを曲に込められればいいなと思いました。


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