短編小説w「ハンバーグ」
「あ、おふくろ来てたの」
マンションのドアを開けて家に入ると、玄関に母親が立っていた。深夜の帰宅だというのに母親は寝ないで待っていたようだ。
「リエさんに、あんたがお盆は休みがとれないって聞いたから。忙しいのかい?」
実家は少し離れた隣町にあったが、車なら30分ほどで行き来できる。
「年末納品の案件の工程が遅れててねっていうか、なんでそんな格好してるの?」
母親は、いつもと違う”よそいき”の格好をしていた。
「早く入りなさいよ、ご飯できてるわよ」
母親は、私の質問には答えずにリビングへ歩きながら言った。
「リエは?」私は母親に続きながら聞いた。
「ショウちゃんと先に寝ちゃったわよ、疲れてたんじゃない」
そうなんだ、と私は言いながらリビングのイスに座る。
「なんかあんたゲッソリしてるわね。ごはんちゃんと食べてるの?」
「ああ、忙しいからね、でもちゃんと食べてるよ」
母親は私の向かいに座り、心配そうに私を見ている。テーブルの上にはリエが作った夕食が用意されている。
私は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、フタを開けて半分ほど一気に飲んだ。
「はあー」私は一息吐き出した。
「コップに入れて飲みなさいよ」母親がコップを私の前に置いた。
「いいよ、面倒くさい」
「ハンバーグでも作ってあげようか?」
「夕食があるのにいいよ。しかもハンバーグって」
「あら、あんた好きでしょ、ハンバーグ」
「子供の頃の話だろ、いいよ、これ食べたらシャワー浴びてもう寝るし」
※
「おはよう。昨日けっこう飲んだのね」
まだはっきりしない頭でリビングにいくと、洗い物をしていたリエが私に言った。
「ああ、なんかね」
リエの足元にビールの空缶が数本ビニール袋に入って置かれている。
「今日も遅いの?」麦茶を私の前に置きながらリエが言った。
「んーどうかな、お盆だしね。そんなに遅くはならないと思う」
私はリエが出してくれた麦茶を一口飲んだ。
「リエ、あのさ、、」
「なに?」
「、、あ、いいや」
リエは、心配そうな顔で私をしばらく見ていたが、「無理しないでね」と言った。
私は、うん、と言って顔を洗うために洗面所に向かった。
※
「ただいま」
私はマンションのドアを開けてリビングに向かって言った。
あ、パパだ、とショウタの声が聞こえた。
「パパ、今日早いじゃん!」ショウタが滑りながら走ってきた。
「ショウタ、久しぶり!」私はちょっと冗談めかして言った。
「久しぶり!」ショウタが片手を上げる。
おかえり、とリエも出てきた。
「早かったね」
「ああ、あ、お盆明けにはなんとか休みがとれそうだよ」
「そっか、じゃあ”お義母さん”のお墓参りいかないとね」
「あのさ、、」
私は、昨夜みた母親の夢の話をしようか少し迷った。
「、、やっぱいいや」
「なに、気になるでしょ」
リエはそう言ったが気にしている様子はないようだ。
「パパ、今日ハンバーグだよ」ショウタが嬉しそうに言った。
「おお、そうかー」
少し大げさに言って、私はリビングに入った。
「ハンバーグ食べたかったんだよ」
私はリエに向き直って言った。
「そう、じゃあ良かった!」
リエは言ってフフっと嬉しそうに笑った。
おわり
※)ハンバーグ食べてないなあ、と思うと無性に食べたくなりますね。この点カレーにも似ています。最近こんなのばっかり書いてるので、よかったら他のも読んでみてくださいね。スキ/フォローありがとうございます。励みになります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?