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エジプト旅行記-2019.3 カイロ編 コプト教教会〜「サラバ!」西加奈子著を読んで〜

一度訪れた事がある土地が小説に出てくると、懐かしい感じもするし、情景がわかる事が多いので「お〜!わかる!こうきたか!(こう表現したのか!)。」と読んでいて素直に楽しかった。

小説 「サラバ!」

この小説はエジプトがストーリーの中でとても重要な場面の舞台になっている。特に印象的であったのが、主人公が出逢ったヤコブと言うエジプシャンの設定だ。

エジプトの日本人学校に通う主人公の少年は、カイロの生活を心から楽しんでいた。しかし、現地の子供たちとの接し方を模索する様になる。地域の小学校に通うエジプシャンの子供達の人懐っこさからくる「からかい」への対応や、道にいる学校にいけない子たちへの自分のスタンスを決めきれず、気持ちが揺れる。混沌とする中で、出あうのが、ヤコブである。主人公のアユムより少し歳上で、エジプシャンなのに卑しさが無く高貴な雰囲気を持ち合わせた彼に魅了されていく。苦手としていたエジプシャンの子供と素直に友達になりたいと思うようになるのだ。そして二人は大人になって再開した際に抱きあって喜ぶような友だちとなる。ヤコブは裕福な生活ではなくとも、所作に品があり、アユムがエジプシャンに感じる「困り」や「しつこさ」をも共感できる人物だ。温厚なヤコブが、他のエジプシャンの子供に馬鹿にされ、唯一憤った瞬間があった。それは、彼の信仰している宗教についてであった。

そして帰国が決まった歩を、ヤコブは自分の大切な場所へ連れて行く。それは、エジプトの9割の人が信仰しているイスラム教のモスクではなく、「コプト教」の教会であった。

私の旅行の話

私がコプト教の教会を訪れた際に感じたものは、小説の中のヤコブと初めて会った時の、彼の描写と大きく一致し、そして、それを人物を通して表現した作者に感動した。

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エジプト旅行4日目にこのコプト教教会界隈を訪れた。ルクソールで2泊を過ごし、カイロよりも激しい(しつこい?)と言われる客引きを体験し、少しずつエジプシャンのにくめない人懐っこさを体験していた。カイロに到着し、車線のない道に車が押し詰めあっている様は、今まで見たことのない景色だった。道路はひとりでは恐くて渡れず、友人の後についていく。自分の不甲斐なさを感じ、ものものしさに圧倒されていた。

そんな中で訪れたコプト教の教会が密集するオールドカイロはひっそりとしていて、なんともほっとする印象的を受けた。コプト教はキリスト教の一派であり、とても古い歴史を持つ。教会はモザイク文様が美しい教会や、モスクの外観をしたものなど様々だったが、フランスやドイツでみる大聖堂の様なものではなく、アットホームな教会が多かった。キリストの家族が滞在していたと言われる教会も訪れた。

その界隈に集う人々は、街で出会った人の雰囲気とはちょっと違って、距離感の取り方などが、少し日本人に近い気がした。どことなく礼儀正しい印象だ。

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コプトの人々は内側の腕に十字架の入れ墨をしている様で、ちょうど教会の傍の道端で、1歳半くらいの女の子がお父さんに抱かれ、タトゥを入れる場面に遭遇した。日本で予防接種を受けるこどもの様に、女の子は鳴き叫んで居た。私が痛そうな表情をうかべていると、入れ墨を見ていたギャラリーの子供たちが私を見てクスクス笑う。近寄ってきた子供たちに腕を見せてもらうと、腕には消えかかったタトゥ以外にも何個か十字架のタトゥが彫られていた。大人になるまでに消えてしまうので何度か掘りなおすのだろう。友人もタトゥを実際に彫る場面には、はじめて出くわしたそうだ。

とにかく、エジプトの賑わいとは真逆な雰囲気の地区で、なんとなく心地良い。次の街へ移動するのが、少し億劫になるほどであった。

ドイツやフランスなど、ヨーロッパで見たキリスト教のイメージは、常に威厳を放っていた。教会は荘厳な雰囲気で建物も大きく巨大なものも多い。キリスト教と言ったら、メジャーな宗教という印象だったので、なんとなく不思議な感覚であった。

私は、旅行をすると、今まで自分の常識や知っていた知識とは違うものを体験することがある。多数であることが、”ふつう”と思っていた常識が、国や地域が変われば”少数”になることもある。知識としてわかっていても、行って感じることもある。また、実際にはその場では気づかず、後から思い返したり、何かの場面で経験を振り返ることも多い。

今回は、エジプトで感じていた”もやもや”とした体験を、私は「サラバ」の小説でもう一度見返すことができた。私が旅行に行く前にこの小説を読んでいたら、感じ方は違っていたかもとも思った。ただ面白い事をまたひとつ見つけた気がした。

何が言いたいかといったら、「サラバ!」で描かれているコプト教信者の少年の雰囲気と、わたしが現地で感じたことものがあまりにも一致していて驚いていること。感動したので、ここに書きとめて残したかっただけでした。

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