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ホームに降りてから2分

電車のドアがピロリん、ピロリん、とゆっくり開く。ホームで待つ人々が左右に割れる。モーゼ・・・

いや、それどころじゃない。車内から見定めていた登り階段。大丈夫、混雑はしていない。ホームに降り立ったこの時から、わたしの一日を締めくくる一大イベントが始まる。


一日中がんばって働いたのよ、ほんとよ、よくやった、わたし。だから、すぐにでもおうちに帰りたいの。湯船にね、つかりたいの。そのためにはね、バス。乗りたいの、でも、ホームに着いてから2分で発車しちゃうの、駅前ロータリーから。のんびり歩いてたら、5分はかかるの。ぼんやりなわたしでもわかるわ、間に合わないって。


だからね、なけなしの大腿筋とぱんぱんに張ったふくらはぎに鞭打って、駆け上がるのよぅ!

ああ、重たい・・・毎度わかってるけど、重たい。でも、お風呂が待ってる。裏切れないわ。同志のサラリーマンさんが華麗に駆け上がっていくのを見上げ見送り、でも必死に食らいついていく。一息どころか五息ぐらいついてようやく登りきる。ああ、改札まであと少しよ。

前の人、改札を無事に抜けてね、と祈りながら後に続く。ゲートが開く、成功。さあ、ここまで1分。あとは構内を速足で抜け、ロータリーへの下り階段を慎重に、でもテンポよく駆け降りる。下りは勢いでなんとかなる。

ああ、ロータリーが見えた。わたしのバスが、待ってる。ぶるん、とエンジンの音。最後のダッシュ、てててて、とん。飛び乗ってカードをぴっ。

「お待たせしました、○○行き、発車します」私のすぐ後ろで扉が閉まる。

マスクがおおきくへこんだりふくれたり。やったわ。今夜もクリアできた・・・はふぅと、息を整えながら、揺られて帰ろう。お疲れさま。


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