符亀の「喰べたもの」 20211017~20211023
今週インプットしたものをまとめるnote、第五十七回です。
各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。
Steam版ハトクラにドはまりした影響で、日曜日に更新しています。
漫画
「ロジックツリー」(上下巻) 雁須磨子
8人兄弟の5番目である次女螢が、兄弟たちや親戚の作家、その担当編集らと巻き起こす人情劇を描いた、全21話の中編です。そして今回の積読消化枠です。
最初こそドタバタしすぎて内容が入ってこなかったのですが、1話目の中盤ぐらいで「何の話」かがわかってきてからは非常に面白く読めました。メインキャラが多いものの、各話の中心となるキャラははっきりしていて混乱しにくいのもいいです。唯一混乱するのが冒頭なのは、逆に入口が整備不足と言えるかもしれませんが。
各キャラの本心や悩みに切り込んでいく話が多いですが、大きな事件や失敗は少なく、あっても回想シーンなので、話が重くなりすぎていないのも良い点だと思います。その軽い読み心地で各キャラの葛藤が読める点が、独特の面白さにつながっている気がします。
軽快さを感じさせる書き方ながら、しかしキャラの悩みまでは軽くなっていない。その理由は、各回の終わり方にあるのかもしれないと感じました。各回に担当キャラがいるというのは上に書きましたが、そのキャラの話はその回で完結してはおらず、それ以降も時折顔を見せます。1話でめでたしめでたし的な終わりを迎えていないので、そこで終わるような陳腐な悩みだったという風には感じません。また各話にきちんとオチはついており、話を通じたそのキャラの変化は感じるので、物語が着地せずに投げっぱなされているような印象も受けませんでした。このバランス感覚が上手いなと思います。
そして、下巻では意外な展開が続き、予想できなかった面白さがやってきます。なので本作を読まれる場合はぜひ上下巻を一気に読んでほしいです。私的には、この巻で本作の評価がさらに2段階ぐらい引き上げられた気分ですので。
「メダリスト」(4巻) つるまいかだ
青年と少女、2つの人生を賭けて1つの夢に挑む物語。第四十回以来の登場です。
何もできなかった少女が、致命的な出遅れを自覚しつつそれでもスケートに賭ける。この本作の熱さを生む設定が、彼女の飛躍的な成長によりただの設定になりかねなかったのがこの巻だったと思います。そこに他の少年少女との合同練習をぶつけて各キャラの在り方を再定義し、それが終わった直後彼女たち自身に出遅れた少女じゃなくなると言わせる、この構成が凄まじいです。言うまでもないですが、中盤の展開も本当に素晴らしい。マジで期待を裏切らないですね。
「天地創造デザイン部」(7巻) 蛇蔵&鈴木ツタ(原作)、たら子(作画)
Q、なぜへんな生体や見た目の動物がいるのですか?
A、神様に無茶ぶりされたデザイナーが無理矢理デザインしたからです。
という設定の作品。第十九回以来の紹介です。
動物が作られる過程で登場する、素体のデザインが面白いですね。いかにも素体っぽいグレイ型宇宙人風や、別の動物っぽいものの一部が変化すると最終デザインにぐっと近づくものなど、結果何が生まれるのかを想像しながら楽しめるような工夫が上手いと思います。あと単純に絵面が強い。
「影踏みと十字架」 麦
2017年のコミティア122で発表した団地を舞台にした吸血鬼アクション漫画です。(説明文より引用) R18なので注意。
3ページ目(表紙系抜けば実質1ページ目)でいきなり作中世界の設定だけでなく応用までが語られていますが、置いていかれる感じがないのが面白いですね。前半が理解できなくても後半さえわかればいいのと、その後のセリフのユーモア、そして次ページのインパクトのある絵面に持っていかれるのとが理由かなと思います。私事ですが、ゲーム制作の際、そのジャンルでよくあるルールのメタとそれへのさらなるメタとを同時に組み込むことが多く、そこが混乱を呼びやすいと批判されたことがあります。そこを変えるつもりはないのですが、わかりやすくはしたいと考えていたので、参考にしたいと思います。
というか、全体的に設定の練り込みと開示、そしてアクション面の作画が上手すぎるんですよね。このクオリティのものが100ページ強無料で読めちゃいけないと思いますよぼくは。
「bloom」 ミコマコト
クラスメイトとの関係によって心が揺さぶられる女子学生を描いた読み切りです。
構成も絵も上手く、ちょうど真ん中の24ページの表現も、そこから全てが反転する構成も、正しさを押し付けない終わりも、全てが良かったです。控えめに言って最高というやつです。
また、目だけ輪郭と塗りをぼやけさせて動揺した心理状態を表す表現にも舌を巻きました。これは作者さんが発明した技法なのでしょうか。すごく効果的だと思います。
今週は読んだ作品の良さを見つけるまでが早かったのですが、それを言語化するのに苦労した週でした。もっとうまく、速く、書けるようになりたいですね。
一般書籍
歴史書が100/1500読めました。あと流石にそろそろ一冊読み切ろうと思って読みかけの新書に再挑戦しましたが終わりませんでした。
Web記事
「『新しいゲーム』の魅力、『パスティーシュ~最高傑作の誕生~』の面白さ (新澤大樹インタビュー)」
ゲムマ2021秋で頒布予定の「パスティーシュ~最高傑作の誕生~」について、ゲームデザイナーの新澤大樹氏(本作のデザイナーは別人のりかちさん)にインタビューされた記事です。
インタビュアーさんが本作の企画者でありボードゲーム製作者であるからというのはあるでしょうが、「ゲームを作っている人たちにもおすすめですか?」という質問が出たのは驚きました。もうそういう層がターゲットとして見れる時代なのだな、と。内容自体も面白く、まさにゲームを作っている人たちにもおすすめなnoteです。
「みさき工房杯」(説明書で応募し、最優秀作品は制作資金を100万円まで借りれる&赤字ならその分返済しなくてよくなるコンペ)の最優秀賞を受賞された方が、その作品を作るに至ったストーリーを語られたnoteです。
思いから始まる制作ストーリーの、コンテンツとしての強さを感じたnoteです。共感しやすい思い、自分ではそこまでしないような行動力、試行錯誤と理論的な説明。やはりこういうのは興味を引くうえで有効だなと思います。
「「水曜日のダウンタウン」に出演、無表情なドッキリ仕掛け人の“知られざる苦労”《「人がいる」が結局一番怖い説》」
タイトルにもある企画で仕掛け人を務める俳優さんへの、インタビュー記事です。
2ページ目、役者としての常識がバラエティの常識と違ったために起きたハプニングから人気が出たという内容が面白いですね。こういうのを狙って見つけられるようになりたいものです。
「ダビデ像はどれくらいマッチョなのかジムトレーナーに聞いてみる」
彫像の体形についてジムトレーナーに聞いてみた記事です。
前提がややおかしい分、ジムトレーナーさんのコメントも真面目にボケた感じになっているところもあるのですが、記者側のお2人のコメントが基本全肯定スタイルなのがいいですね。そのコメントも、補足して面白さを足す系から短くてアホっぽいひらがな相槌まで幅広く、1テーマですが飽きずに読めます。
しねえよ。
「冬眠するあなた」に親身にアドバイスをするというスタンスを貫くと、ここまで面白くなると見せつけられました。読者は人間なので冬眠しないはずですが、そこを逆手にとって「あなた」が自分が誰かわかっていない可能性も踏まえて書いているのは流石だと思います。オチもきれいです。
「政治家はどこで酒を飲むのか」
現官房長官氏の、政治家と酒に関するエッセイです。
それまで一般的な政治家と酒の話をしていたのに、中盤で急に「さて、今僕はどんなところで飲んでいるかというと、」で筆者本人の現在の話が始まるのが面白いですね。急に筆者本人が現れるという表現は、視点の切り替えが強烈な印象を与え、いつか真似してみたい方法です。
ホワイトデーのお返しを自分以外の人にだけあげる彼氏について、どうするべきかという相談に対し、その質問文の違和感から「彼氏」と質問者について推理しつつ回答する記事です。
まあ謎解きがよく出来すぎているので質問文ごとの創作だとは思いますが、それでも面白さはピカイチです。文が進むにつれて読者が見落としていた謎が明らかになっていく様はつい前のめりになってしまいます。
「第15話 和歌を即レスできないときの対処法(無名抄・十訓抄)」
古典からエピソードを挙げつつ、和歌を詠まれて返歌ができないときの対処法を教えてくれるカクヨムの作品です。カクヨムの幅が広すぎる。
こういう事例を読むと、古典世界への解像度が上がって面白いですね。連載は休止中かもしれませんが、とりあえず今上がっている分は全部読もうと思います。
今週は久々にゆっくりとできる週末で、土曜日に更新するはずだったのですが、冒頭の通りハトクラが安かったので買って12時間遊んで全てをぶち壊されました。こ、こんなはずでは。
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