符亀の「喰べたもの」 20201206~20201212

今週インプットしたものをまとめるnote、第十二回です。


漫画

のんちゃんとアカリ」(1巻) 日日ねるこ

呪われた人形と、その住まう館へと引っ越してきた少女とのホラー。いや怖いのは友達に飢えすぎて人形を一方的に親友だということにしている少女の方で、要するにそういうギャグ漫画。

回が進む程に人形がツンデレに、少女が友情モンスターになっていくのが素晴らしい。両者とも過去エピソードが挟まれたのですが、人形が幸せな頃を思い出して読者からの好感度を稼いだのに対して少女側は全く共感できずに狂気を増しただけなのが最高です。人は背景を知って同情してしまうともうそれへ恐怖を抱けないので、少女の「実はこんな悲しい過去があってね…」的エピソードが来なかったのには作者への信頼感が増しました。いや悲しい過去はあったのかもしれんけどどう見ても自業自得ですしその前からひん曲がってますしあいつ。

なんていうか、ギャグとホラーって紙一重なのだなと再認識しました。


シルバーポールフラワーズ」(1巻) 如意自在

ポールダンスをステージ上の妖艶なものとして舞う上崎舞と、そんなイメージを邪魔だと考えスポーツとして取り組む高峰花凛。正反対の考えの2人がお互いの「ポールダンス」を否定するかのようにぶつかりあうストーリー。

こういう話は「従来のイメージに縛られたモブを主人公のパフォーマンスが魅了し、目覚めさせる」という展開が多いかと思いますが、それぞれの立場のW主人公に高め合わせるのは面白い構成だと思いました。ポールダンスという題材も、下品に踊るなというスポーツサイドと遊びでやるなというダンサーサイドとの衝突という構図も、その構成を実現するために効果的に働いています。

しかし、どちらの立場も否定できない(片方がもう片方にぎゃふんといわせて終わりとできない)分、話の展開がどっちつかずというか、両方に配慮した結果ペースが遅くなっている印象は受けました。おそらく作品の軸としては舞(ダンサーの方)が主人公なのですが、花凛の方にもページを割きすぎてW主人公っぽくなり、それでいて花凛の背景描写が少ない分共感しにくいこともあって内容が薄まってしまっている気もします。

難しい構成かとは思いますが、題材は面白いため、2巻以降どう話が転んでいくのかが楽しみです。


児玉まりあ文学集成」(1~2巻) 三島芳治

文学部の入部希望者である主人公と、唯一の文学部部員である少女が、入部テストと称して文学について思考実験的に語りあう作品。1巻は既に読んでいましたが、2巻の購入までに日が空いたので読み直しました。

文学についてのあこがれというか、最悪な言い方をすれば「頭いいヤツしかわからないしオレもあんまわからんけどなんか一部わかる気もするしそんなオレかっこいい」的な要素がうまく作品に落とし込まれていると思います。これは決してバカにしているのではなく、文学作品の持つ「気持ちよさ」を数百頁を読ませることなく味わわせるのはその「気持ちよさ」の本質を見抜いて再構成すること無しにはできず、少なくとも上記の最悪な表現でしか表せていない私には不可能な芸当です。単純に作中の思考実験が面白いのですが、読者を置いていくことも置いていかれることもなく適切な難易度の問題を提示するのがシンプルに難しく、ここからも作者の技量がうかがえます。

演出面においても、重要なコマへの視線誘導や集中線などの強調を廃したフラットな画面により、わかりやすすぎるとチープな印象を持たれないようになっています。一見漫画の演出としては不親切なようですが、それによってこの作品の味が高められている、逆説的な業が見事です。


恋と心臓」(1~7話) 海道ちとせ

彼氏の浮気が発覚して別れた直後にやってきた、幼馴染を名乗るイケメン。母親に許可をとったと言って主人公の家にホームステイする彼だが、彼が昔暮らしていたと言う家は、一家心中の後幽霊屋敷と化していたはずで…?

と1話ラストで彼の謎が提示されるわけですが、ネタバレながら、これについては私の読んだ7話終わりまでで一切明かされませんでした。他の要素についてはテンポよく問題が現れては解決していくのですが、これについては明かされる気配がありません。

このメインクエスト放置でサブクエストだけガンガン進んでいく形式、今の1話購入式の漫画配信形式とすごく相性がいいですよね。幼馴染のヤバさに気づいていない主人公にハラハラしつつ、彼の正体が知りたいがために次の話まで購入してしまう。今っぽい構成として勉強になりました。

ちなみにリンク先のコミックシーモアでは、今月17日まで1~2巻が無料で読めるようです。私は基本購入を決めたらその時点で無料だろうが読むのをやめて紙の本で楽しむタイプなのですが、本作は続きが気になってつい7話(1巻中盤)まで読んでしまいました。まんまと策略にハマっていやがる。


デビィ・ザ・コルシファは負けず嫌い」(1話) 平方昌宏

地獄から暇つぶしに人間でも滅ぼそうかとやってきた最強ながらポンコツな悪魔をメインに据えたギャグ漫画。正直大筋はtwitterとかでよくあるやつ。

この1話で面白いのは、中盤までを贅沢にフリに使ったうえで、後半はただひたすら「顔の上にある上の顔が思考だだ漏れ」という1点だけでごり押しているという点。そしてそれだけなのに、上の顔が表情豊かすぎて十分話が成り立っているという点です。

単純に「頭部分にもう一つ顔がある」というだけで無茶苦茶濃いキャラなのですが、その要素を1話の後半全て使って読者の脳内にぶち込んでくる手腕に脱帽いたしました。そこまでして覚えさせられたキャラを使い、2話以降でどういう話を見せてくれるのか。楽しみです。


Thisコミュニケーション」(1巻) 六内円栄

突如地球に現れた化け物に人類がほぼ滅ぼされた世界において、元指揮官である主人公が出会ったのは、人体改造によって死んでも蘇る強靭な戦士と化した少女たちであった。人類最後の軍隊となった彼女たちと戦うため、合理的な男である主人公の闘いが始まった。なおこの「合理的」とは、「死ぬ直前の記憶を失って蘇るなら、都合の悪い記憶を持っているやつは全員殺す」という理を指します。

ただひたすらに無茶苦茶面白いです。主人公が合理的で手段を選ばない分、他のキャラが死亡フラグを立てたときの悪い意味の信頼感が半端なく、仲間殺しを期待している自分がいることに背筋が凍ります。その上で話の展開も面白く、予想の何枚も上の展開をテンポよく繰り出してくれるのでいい意味でも信頼して読めます。表現力も画力も高く、今後の展開から目が離せません。

ま、2巻がいつもの書店に入らなかったのでしばらく読めないんですがね。


今週はまだ忙しさのピークから抜けれていないので読んだ冊数も少ないかと思っていましたが、書き出したら冊数も文字数もすごいことになりました。たぶん反動で来週は2冊400文字とかになると思います。


一般書籍

さすがに読めませんでした。来週にご期待ください。


Web記事

任天堂・岩田氏をゲストに送る『ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!』最終回――経営とは『コトとヒト』の両方について考える『最適化ゲーム』

ドワンゴの川上会長(2014年当時)の連載の最終回であり、任天堂の岩田社長(当時)と対談した記事です。

岩田社長の経営者としての手腕は当時や逸話を知っている人間からすれば当然のものですが、この対談では川上会長の話も無茶苦茶面白いんですよね。失礼ながらこんなに面白い内容を考えてらっしゃる方だとは思っておらず、上記連載をしっかり追ってみようと思いました。

論理で動かない人間をどう合理的に動かすかみたいな内容もあり、ぼんやり「Thisコミュニケーション」が浮かびましたがたぶんそういう意味ではないと思います。


ブランドが捉えるべき“お金を使う意味“の変化

近年の消費の変化について、「絶対的な価値への消費」と「カジュアルな消費」という言葉でまとめたnote。切り口も面白く、内容も納得感があります。

私は「ストーリー」のような属人的なものを嫌い、かつ固く重い人間なのでこのnoteで挙げられている変化の方向性とは真逆を行く人間です。ですが、こうして言語化していただいたおかげでそんな人間なフリがd…自分を変えていくことができると思いますので、頑張りたいと思います。


グーグルが提唱『パルス消費』 スマホ世代の消費行動の新事実
グーグルが説く無秩序な情報探索『バタフライ・サーキット』とは

上記noteで挙げられていた記事と、その続きにあたるもの。両方とも日経の会員登録が必要ですが、無料で登録できるのでご興味のある人はどうぞ。

こういう記事では机上の空論だけしか書かれていないことも多いですが、これらは即実践に使えるところまでまとめられているので非常に助かります。内容自体も「パルス消費と呼ばれる新たな消費形態が生まれており、その購入衝動発生のヒントが存在する」「消費者の検索動機は8つに分類できる」など面白く、是非ご一読していただきたい記事です。


漫画をSNSでプロモーションする方法
2020漫画業界のゆくえ

漫画化根田啓史氏のnoteから2本です。2本目の後半は有料ですが、そこは購入しておらず読んでいないことをご容赦ください。

「今漫画家が生き残るための戦略」がざっくりとまとまっており、自分の立ち位置がわからなくなったときに読み直すと便利そうなnoteです。また別ジャンルの人間としては「☆『続く』がポイント」の章(1本目)の内容が興味深く、自分にはなかった(そして読者的には確かにあった)視点で勉強になりました。


スマホ時代の漫画のカタチとは? 『バラ売り』で成功したウェブマガジン『Love Silky』編集長に聞く

白泉社でWebマガジンを多数立ち上げられている編集長さんへのインタビュー記事です。

私が紙派なのもありWeb漫画には疎かったのですが、やっと1件拝読できました。やはりWebへの最適化がなされており、バックナンバーがすぐに買える分「次号発売まで待たなければならない予告は必要ない」というのは目から鱗でした。

Web漫画の担当者さんについての記事は、これからも少しずつ読んでいきたいですね。


差別や偏見を隠した「ずるい言葉」を解説 社会学者・森山至貴さんインタビュー

上記Webページからリンクで飛ばされて読んだ記事。差別問題を考える際に自分のなかにあったもやもやの一部が言語化されたようで、内容に諸手を挙げて賛成というわけではないものの、ためになりました。

そしてこの記事、聞き手の人が明らかに「準備してきた人」なんですよね。しっかり勉強して準備されたうえで、聞くべき内容を聞いてらっしゃる。おかげで論も深まっていますし、記事としても面白くなっている。インタビュアーの篠原諄也氏の記事、またいくつか読んで来週以降にご紹介できればと思います。


『ファフニールの呪宝』のルール変遷と迷走

最後にボードゲーム製作者っぽい記事を一つ。なお記事内の「天岩庵さんのテストプレイ会での反応は悪くなく」で悪くない反応をした人間の一人が私です。

ボードゲームの制作においてテストプレイでの意見を取り入れすぎて迷走するのはよくあることですが、この記事ではその過程や当時の感情がしっかり書かれており、目を覆いたくなる部分もあるものの面白く読めます。初めてボードゲームを作ってみるという人は、これを見て記録をとることとゲームの本筋を明確化しておくことの重要さを学んでから作るとエタりにくいかもしれません。


今週は早めに筆をとったのですが、気がつけば5000字近く書いて、日付も変わりかけています(ここを書いている時点では変わっていません)。今週は忙しくてtwitterの更新もおろそかでしたが、まずはこれを生存報告とし、順次その他の活動も行っていきたいと思います。

あ、新作は現在プロトタイプまで出来ていますので、続報をお楽しみに。

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