見出し画像

「ファフニールの呪宝」のルール変遷と迷走

※本記事は 「Board Game Design Advent Calendar 2020」 8日目の記事として執筆しました。

 遊験工房のターキーと申します。
 当サークルは先月開催されたゲームマーケット2020秋にて2作目となる「ファフニールの呪宝」を頒布したばかりで、ゲームデザインを体系的に語るにはまだまだ経験が足りていないのですが、とはいえ完成させたゲーム自体はそれなりに自信を持ってお出ししていますし、未熟なりにもゲームを完成させる過程で考えたことや経験したことというのは(良い例なのか悪い例なのかは別として)情報としての価値があるのではと思い、昨年に引き続きBGDACにて筆を執らせていただきます。

 というわけで、本記事では拙作「ファフニールの呪宝」について、着想時から製品版に至るまでのルールの変遷をつらつらとご紹介していきたいと思います。
 特に「ファフニールの呪宝」では、途中テストプレイを繰り返す中でルールが迷走しモチベーションが一気に低下してしまうという出来事がありました。その辺りの反省や思っていることなども書いていきたいと思います。

 そんなに大層なお話ではないかもしれませんが、「とあるサークルではこんなことがあったよ」という記録として他山の石となれば幸いです。

「ファフニールの呪宝」ゲーム概要

 まずは拙作「ファフニールの呪宝」というゲームがどんなものかというお話を軽くさせてください。

パッケージ表裏@2x

プレイ写真

 「ファフニールの呪宝」は竜に呪われた財宝を巡るチキンレースゲームです。価値と呪いの2種類のパラメータを持つ財宝カードを呪いの合計が10を超えないように価値が最大になるよう集める、というのがゲームの目的になります。

 特徴としては、カード裏面から財宝の大まかな分類が見えるようになっており、そのカードの価値と呪いの傾向をある程度把握することが可能です。また各プレイヤーの呪いの合計値が公開されていることにより、手札の増減の際の呪いの変化から他プレイヤーの獲得したカードを推測することもできます。
 これらの見えているようで見えない・見えないようで見えている情報からリスクとリターンを天秤にかける面白さを意図したゲームとなっています。

製品版のルール骨子とカード内訳

 これから「ファフニールの呪宝」のルールの変遷を見て行くにあたり、まず最初に製品版でのルールの骨子とカード内訳をご覧ください。と言っても、現時点ではざっと流し見る程度で大丈夫です。

スライド1

スライド2

 こちらの記載をベースに、これから着想時点から上記に至るまでの変遷を辿っていきます。

Ver.0.0 原初版

 まずはゲームの着想時点から見ていきましょう。

 「ファフニールの呪宝」の元ネタは、名前の通り北欧神話におけるファフニールという竜の伝説からです。元々ファフニールという名前は聞いたことがありましたが、昨年秋頃に購入した原書房刊「ドラゴンの教科書」という書籍より、呪われた指輪の影響で財宝に執着するあまりファフニールが竜となり、英雄シグルズに魔法の剣で殺されるという物語の概略を知りました。
 そこからゲームのアイディアとして思いついたのが、悪竜ファフニールに呪われた財宝を手に取るとその呪いの大きさが気配で分かるようになっており、その状況で財宝を集めるというものでした。

 私自身の個人的なボードゲームの嗜好として、不確実性のある状況の中で与えられた情報からどうすべきかの判断をすることが楽しい、というのがあります。熟練者がカウンティングなどの技術によってその域に達するのも良いのですが、ゲーム側からある程度その導線が引かれることによってそれを楽しみの本体とする、というのが好みです。
 財宝カードの詳細は持ち主にしか見えなくても獲得した呪いの合計値は分かるというのは、中々良い導線になるのではと思いました。

 と言うわけで、最初に作ったルールがこちらです。

スライド3

スライド4

 先に示した製品版と同じ部分は青色、異なる部分は赤色にしてあります。

 ルールとしてはシンプルに、各プレイヤー順番に山札の上から1枚か2枚引いて財宝カードを獲得していく、という形から考えました。当初は何の情報もない所からカードを獲得していくので、財宝を掘り起こすイメージで「採掘」というアクション名になっています。
 このときは裏面のデザインを分けるというアイディアはなく、価値の大きい財宝は呪いも大きい傾向にあるので、呪いの大きさから大まかなアタリを付ける、というくらいに考えていたのではないかと思います(正直な所、記録を見るまで最初は裏面を分けていなかったことを覚えておらず……この辺りの記憶は曖昧です)
 また、他プレイヤーの呪いが分かることの意義として、他プレイヤーと手札を1枚交換する「ちょろまかし」が入れられました。

 初期手札が3枚あるのも今との大きな違いで、山札から順番に何も考えず引くだけなので最初の一巡が単調となるのを防ぐとともに、最初の3枚の呪いの大きさで各プレイヤーの状況にバリエーションが出来ることを考えていたかと思います。

 特殊な効果を持つレア財宝カードについては原典にあった持ち主に破滅の呪いをもたらす「魔法の指輪」と、ファフニールを殺した英雄シグルズの「竜殺しの剣」を特別なカードとして入れようと考えました。
 「魔法の指輪」は呪いの指輪なので、呪いが他の財宝にない大きさ(代わりに価値も破格)というものになっています。特殊効果とありますがこちらは特にメリット/デメリットではなく、初期手札3枚にこのカードと呪い3の財宝カードが2枚来ると呪いの合計が10になり開幕即敗北となってしまうので、そのような事故を防ぐためのものになっています。
 「竜殺しの剣」は誰かが悪竜化するとそこでゲーム終了となるので、その時点で劣勢側のプレイヤーに逆転するチャンスを与えるものとしました。
 また特殊カードが2枚だけでは収まりが悪いので、その他のレア財宝カードとして呪いを減らす効果(マイナスの呪い値)を持つ聖なる財宝を3種類入れました。

 とりあえずこれでモックを作ってゲームを一人で回してみて、感触を確かめてみました。

画像7

 ちなみに原初版のモックはこんな感じで、自分で回すだけなので名刺用紙にテキストのみです。カード枚数とパターンが多いので手描きや名刺印刷ではなくテプラを貼ってみたのですが、そんなに手間の省略にはなりませんでした。

Ver.0.1 初回テスト版

 原初版を一人回しして、何となくこれはいけそうかな、という手応えを感じました。とはいえ既に大きく気になる点もあり、そこを直してから対人のテストプレイに持っていくことにしました。

 ちなみに私が対人のテストプレイを行う場は主に2つあり、一石ラボのCRAZY RATさん主催で不定期に開催されているOMO試遊会(現在はコロナ禍により休止中)と、大学時代からの付き合いで十年近く一緒にボードゲームを遊び続けている友人達とのゲーム会になります。
 以降はこの2つの対人テストプレイを基点として、前回からのフィードバックを受けて次のテストプレイに向けて調整したポイントでバージョンを区切って行くことにします。

スライド5

スライド6

 凡例を追加しており、前のバージョンから変更になって製品版と同様となった部分を紫、変更したもののまだ製品版とは異なる部分を橙にしています。

 原初版からの大きな変更点として、裏面から財宝の種類が分かるようにしました。呪いの合計だけではあまり役に立つ情報にはならなかったのかと思います(前述の通り原初版は記憶が曖昧)。正確にはテストプレイ会には裏面のデザインがないものと裏面をデザインしたものを持っていき、結局後者のみをテストプレイたはずです。
 ただしこの時は同じ裏面で複数種類があるのは金貨と銀貨のみで、王冠・装飾品・インゴットは裏面を見れば価値は一目瞭然でした。テストプレイ会の直前で思いついたのと、呪いの方の不確定性を主眼に置いていたのだろうと思います(ここも記憶が曖昧です……)。
 金貨と銀貨が同じ裏面になるフレーバーとしては「暗い洞窟内で松明の明かりで宝をみているので、色の見分けがつかない」ということで、裏面のデザインはセピア色に加工することにしました。

 また、マイナスの呪いを持つレア財宝カードが価値が大きいほど呪いのマイナス値も大きいというのがバランスを著しく損なっていたので、呪いの値を逆転しました。レア財宝カードの呪いと価値のバランスは、今後もずっと調整の悩みの種となっていきます。

 それと細かいようで重要な変更なのですが、脱出(=離脱)のタイミングを手番終了時に宣言から選択アクションの一つとしました。良いカードを手に入れてそのまま脱出できてしまうより、ちょろまかし(=すり替え)のチャンスがあった方が良いという判断です。

 カード名が幾つか変更になっているのは、下の写真のようにモック用に用意した「いらすとや」のイラスト素材の関係です。「聖杯」はトロフィーの画像しかなかったので「黄金の杯」に、「香炉」はそれっぽいものがなかったので「燭台」になりました。「金塊」が「インゴット」になったのは「金貨」との混同を避けるためだったかと思います。

画像10

 なお、上の画像を見て「初回のテストプレイの割に結構外観デザインを作り込んでるな」と思われる方もいるかもしれません。
 これは個人的なポリシーなのですが、テストプレイ時にある程度の外観が伴っていないと、そのゲームに対して不必要にネガティブな印象が生じてしまい、本質的なフィードバックを得られない可能性があると考えています。
 私は字があまり上手くないのですが、手書きの効果テキストが読み辛いことによって「カードの効果が分かりにくい」という感想が出たりといったことですね。そのような具体的な話だけでなく、全体の雰囲気としても外観デザインの粗雑さがゲームデザインの粗雑さの印象を与えてしまうことを恐れており、特にこのときは見知らぬ不特定多数の人にプレイして貰うOMO試遊会に向けてなので一際意識していました。
 もう一つの理由として、ボードゲームというのはコンポーネントデザインも含めて楽しむ(デザインの補助があってこそ楽しめる)ものであるので、特に自分が志向するテーマ重視のゲームデザインにおいてはテストプレイ時点でもそれらは可能な限り考慮して評価して貰うべき、という考えでもあります。

Ver.0.2 初回テストFB版

 と言うわけで、初の対人テストプレイをOMO試遊会にて行いました。遊んで貰った方の反応は上々で、その場で建設的な改善アイディアも出ました。

画像17

 その場で出た改善アイディアの筆頭としては、単純に山札の上から引くのではなく、山札の脇に上から2枚を並べて置いて、山札トップを含めた3枚から選んで獲得するというものです。これは山札トップの裏面が硬貨だと誰もあまり引きたがらないという状況への対策で、その場で試してみてプレイヤーの選択肢が良い具合に増えたので即採用になりました。

 もう一つの重要なフィードバックは硬貨以外も裏面が同じで違う種類の財宝があった方が良い、ということでした。単なる種類違いのほかに、「偽物を掴んでしまった!」というのもあると面白いのでは、という話もしたように思います。

 そのような初回テストプレイのフィードバックを受けて、Ver.0.2になります。

スライド7

スライド8

 通常財宝カードは王冠・装飾品・硬貨の3分類になりました。宝石装飾品は紅玉と青玉に分かれ、元々価値3のインゴットが青玉の装飾品に置き換わりました。一方王冠は最上位を黄金にして、銀・銅・真鍮と違う価値の偽物の王冠が1枚ずつ混ざる、という形にしました。

 山札の上から順に引いていくのではなく並べた2枚とトップから選ぶという形式になったことで、「採掘」というアクション名はそぐわなくなりました。そこで、アクション名を改めて「山分け」「すり替え」「離脱」にしました。

 もう一つテストプレイで課題と感じたのが、すり替えの問題でした。アクションとして強すぎるということは特に感じなかったのですが、有用なカードが判明するとそれがすぐにすり替えの対象になってしまい、ゲームが膠着してしまうといったことが見られました。
 スライドには書いていませんが、獲得したカードを手札に入れるタイミングを次に自分の手番の最初にしてそれまではすり替えの対象にならないといった調整もしています。
 また、すり替えへの対抗策となるレア財宝カード「水晶ドクロ」を追加しました。山分けの後、水晶ドクロを公開しておくと次の手番まですり替えの対象にならないというものです。

 あとはマイナスの呪いを持つレア財宝がまだ強すぎるということで価値を下方修正しています。また、カード枚数を50枚にするために金貨を1枚追加しています。

 この修正版にて、今度は十年近く(自分がゲムマのたびに買ってくる)同人ボドゲを一緒に遊び続けてきた友人達とのテストプレイに臨みました。

画像16

 裏面左上にインデックスを加えてカードを重ねて持てるようにし、Ver.0.2時点でテスト版のカードデザインはほぼほぼ完成しました。

Ver.0.3 第2回テストFB版

 友人達との初回テストも反応は悪くありませんでした。そしてこのときのフィードバックによって、「ファフニールの呪宝」のルールの7~8割が固まったと言えます。

スライド9

スライド10

 最も重要な調整は通常財宝カードの種類・内訳が固まったことでしょう。3種類あった偽物の王冠を価値の低い真鍮の王冠に一本化しました。そしてこのときの友人達のコメントで最も感謝しているのが、「分類ごとに呪い1あたりの期待値を揃えたら?」という指摘です。
 これまでの枚数分布は財宝ごとに最大枚数のピークをずらすイメージでのみ決めており、財宝の分類によって期待値は違っていました。そこで分布パターンを維持しながら期待値を揃えることによって、理論的にバランスが取れた状態で「王冠は高価値と低価値が混在しギャンブル性が高い」「装飾品はどちらも呪い1あたり期待値が2を超える安定指向」「硬貨は価値は低いが呪い3がないのでリスクが低い」というそれぞれの特徴が打ち出せるようになりました。
 実際に以降のテストプレイでも、自分でも他のテストプレイヤーの方からも通常財宝カードの数値に関しては一切不満が出てきていません。

 次に重要な調整は「捨てる」アクションが加わったことです。これまで手札の不要な財宝カードを処分するにはすり替えをするしかありませんでしたが、自分や相手の呪いの状況によってはすり替えると悪竜化する可能性が高くどうしようもない、という状況がままありました。そのたびに「捨てる」を実装すべきか迷っていたのですが、このテストプレイで実際に導入してみて、実装することに決めました。
 ただし、手札を捨てることが可能になるとプレイヤーが離脱していって最後の一人になった際にソリティア的に手札の改善ができるようになってしまいます。これを解決するために、捨て札の呪いが10になると財宝の捨て場(に落ちていた人骨)が悪竜化してゲームが終了する、というルールを追加しました。

 その他の調整としては、初期手札が3枚あったのを手札がない状態からのスタートとしました。元々は裏面から分類が分からない状態で山札の上から順に取るだけなので最初の一巡が単調であるという理由だったのですが、これまでの変遷で山分けで3枚から選んで取ることが出来るようになったので、最初からプレイヤーが選択して手札を作っていく方が良いだろうという意図です。

 またレア財宝カードがまだ強いということで、マイナスの呪いを持つ財宝を1枚減らすと同時に下方修正し、さらに呪い1だけあって価値のない外れカードとなる「開かずの宝箱」を追加しました。ちなみに最初は「空の宝箱」でしたが、裏面に使っている宝箱のイラストがそのまま使えるということで「開かずの」になりました。
 「魔法の指輪」は初期手札がなくなったことで引き直しのルールがなくなり、代わりに下方修正の一環として捨てることができないという効果になっています(フレーバー的にも合っていますし、捨て場の呪い上限を圧迫しないというシステム的な意図もあります)

 ここまでで、製品版のルールから見ると同時アクション選択制以外の要素が全て出てきたことになります。自分の感触としてもトントン拍子で良い方向に調整が進み、これは2020春ゲムマに向けて良いものが出来そうだ、と思っていました。

 ――が、しかし。
 迷走はここから始まったのでした。

Ver.0.4 第3回テストFB版 ~迷走の始まり~

 3回目の対人テストは、前回に引き続き友人達とでした。ただし、今回は新たに1人メンバーが増えてのテストとなります。

 この今回初めてプレイした友人が気にしたのが、「悪竜化によってゲームが終了してしまうときに、並び順によって手番数に差が出てしまって不公平にならないか」ということでした。
 それまで気にしてはいなかったのですが、至極もっともな指摘です。手札が十分あってすり替えによって調整するフェーズならまだ良いですが、山分けで手札を増やしていく段階で手番数が少なく終わるのは大きな不満になり得ます。

 じゃあどうしようかと議論していた際に、この件を指摘した友人がふと思い付いて言いました。

「バッティングにしたら?」

 今でこそ振り返りとしてここが迷走の始まりと書いていますが、当時の自分はこれを「なんて素晴らしいアイディアなんだ!」と絶賛して取り入れたのでした。

スライド11

スライド12

 バッティングルールは友人達とその場でプレイしながら決めていきました。同時アクション選択でラウンドのアクションを決め、「山分け」ではプレイヤー人数×2枚の場から欲しい財宝カードを一斉に指差し、バッティングしたら獲得出来ず後回しとなり最後に残ったものを優先度順に取っていくという形式になりました。
 また「捨てる」は優先度順に裏向きで捨てるカードを置いて一斉に公開(捨て場の呪いが10を超えたら悪竜化で、捨てるを選んだプレイヤーがペナルティとして脱落)、「すり替え」は一斉に対象を指差した後に優先度順で実施、という風に、各アクションが同時選択制と優先度順を混ぜた形のバリエーションにして、アクション選択とアクション内の対象選択という同時選択を二重にした構造のゲームとして建て付けました。

 優先度順というのは友人達とのテストプレイ時は大雑把に呪いの大きさ順かスタートプレイヤーマーカーから近い順にしましたが、その後にラウンド終了時に呪いの大きさと一つ前の優先度順から厳密に優先度の番号を振る形式を整備しました。

 ゲーム構造の変化に伴い、レア財宝カードも見直しました。
 「魔法の指輪」は全体の下方修正の一環で呪い9でないと離脱できないというデメリットを追加したのみですが、「水晶ドクロ」は同コンセプトで同時アクション選択制に合わせた効果に調整しました。
 特に「竜殺しの魔剣」はこのタイミングで大きく変わりました。これまでの効果では、このカードを持っているとすり替えで呪いの大きいカードを押し付け、相手を悪竜化させて脱落させるというプレイングが可能でした。
 ゲームのメインコンセプトからは逸脱しているのですが、固定ターン順だと他プレイヤーへのインタラクションがすり替えのみで全体的に地味なので、派手なインタラクション要素かつ例外的なオンリーワンの勝ち筋として、まああっても良いかなと黙認していました。
 今回バッティングという大きなインタラクション要素が加わり、また一方で財宝獲得までの運の要素が加わったことで相手を能動的に脱落させるというムーブが強くなり過ぎてしまったので、自身の悪竜化を一度だけ回避できるという形に変更しました。

 また、ずっと課題であり続けたマイナスの呪いを持ったレア財宝も、さらに1枚削減することにしました。そして空いた1枚の枠に、かねてより導入したかった財宝カードの表面を確認できる「プリズム」を追加しました。
 これも場のカードが3枚を自分一人で選ぶ際には強すぎると導入を躊躇っていたのですが、場のカードが大幅に増え他のプレイヤーに獲得される可能性も出てきたことで、導入できるようになりました。

 同時選択制のゲームになったことでプレイヤーの手番数に差が出る問題が解決されるとともに次の手番を待つダウンタイムもなくなり、財宝カードのバリエーションも増え、さらに場にプレイヤー人数×2枚の財宝が並ぶので「山分けしている感」が強くなったので、自分はこの変化をかなり肯定的に捉えていました。
 これまでも順調だったけれど、ここでさらに進化したな、などと意気揚々として次のOMO試遊会に持っていきました。

Ver.0.5 第4回テストFB版

 このときのテストプレイの感触としては、淡々と進んで思ったよりも楽しんで貰えてないかも?とは感じました。ただしそれはメンバーの性格的な面もありそうと感じており、「ゲームとしては成り立っているよね」的な反応を貰っていたのであまり気にしていませんでした。
 また最初のフィードバックで「1ラウンドに同時選択を複数回行うのがテンポが悪かった」(特にこのときはアクション選択を小さく細長いチップで行っておりやりづらかった)というのがあり、同時アクション選択ではなくフェーズ毎の申告制に変えたことで改善した印象を持っていました。

 そしてこのテストプレイの際に貰ったフィードバックとして大きなものが「山分けでバッティングの指差しを行う際に、もっと情報が欲しい」ということでした。特にこのときは5人でプレイしていて、場に10枚もの財宝カードがあるので複数ある王冠のどれを指差すべきかの指針がなく運ゲー感が強かったのだと思います(実際にはバッティングするかどうかはいずれにせよ運なのですが、何らかの差異があれば自身の判断の結果と錯覚できる)。
 この解決方法として、ラウンド中に獲得されなかった財宝カードは表向きになり(フレーバー的には長時間見ているので見分けが付くようになるという感じ)、次のラウンドで獲得されなかったら捨て札になる、というルールをその場で考えて導入しました。

スライド13

スライド14

 またこのときのテストプレイでは早々に離脱したプレイヤーが終了を退屈そうに待っているというのを見て課題に感じていました。獲得されなかった財宝カードが最終的に処理によって捨てられるというルールによって、山分け以外が行われると捨て場の悪竜化が一気に近づきゲームの収束性が向上するのも狙っています。
 一方で5人プレイでは捨て場の呪い上限が10だとすぐに溢れてしまうので、プレイ人数に応じて変えた方が良いということになりました。

 これまで強すぎるという課題感のあったレア財宝については、「あまり取るインセンティブがない」という反応でしたが、これまで強すぎたという反省があり一旦そのままで様子見としました。

 「獲得されなかった財宝カードはラウンド終了時に表になり、その次のラウンドで捨てられる」というルールはある程度の情報公開と収束性を向上する一石二鳥の調整として大きな手応えがあったので、この頃もまだ意気揚々として友人達との再テストプレイに臨もうとしていました。

全てが覆った日

 それからやってきた友人達とのテストプレイの日。メンバーはバッティングのアイディアが出たときと同じ顔ぶれです。私は自信満々に「あれからさらに良くなったと思うよ」と告げてテストプレイを始めたのでした……

 そしてテストプレイ後、お通夜状態になりました。

 「前にあった面白さがなくなった」
 要約すると、このようなフィードバックだったかと思います。

 このあたりのネガティブな評価をはっきりコメントしてくれるのは大変ありがたいことで、長年付き合いがあり信頼のおける友人達とのテストプレイならではの利点だと思います。
 しかし、それを心情として虚心坦懐に受け入れられるかは別問題で、このときは「どんどん良い方向に進んでいる」と思っていた部分が一気に崩落したことにかなりショックを受けました。

 そして、これを機にモチベーションがドン底に落ちました。

 ここまでで2019年11月初頭~12月上旬のおよそ1か月のお話です。ちょうどこの頃転職をしており、12月から新しい会社で働き始めるということで有休消化をしていた期間を利用してゲーム制作をしていたのでした。
 新しい仕事が始まったこともあり、また実はBGADCの記事「同人と商業の間 ~国内ボードゲーム市場を分類してみる~」を書いたのがちょうどこの直後で、一回フォーカスが「ファフニールの呪宝」から離れたことをきっかけに一切の手が止りました。

 既にゲムマ2020春は申し込んでいましたが、入金が12月の下旬に差し掛かる頃で、辞退するか迷いました。それでも、退路を断てば前に進むかもしれないということで、入金をすることに決めました。

 それから、年末のゲーム制作者の大規模忘年会のような集まりで「実は今作ってるのが迷走しちゃったんですよね」「ああ、あるあるですね」と他の制作者の方と話したことで多少気が楽になり、年明け頃からとりあえず問題点の改善については考えるようになりました。

Ver.0.9 仕切り直し版

 バージョンが一気に飛びましたが、これが製品版ルールになったという意味になります。モチベーション低下により記録も怠っていたので、どれをどの時点で修正したかが定かでない、という理由もあります。

 前節では具体的に触れませんでしたが、テストプレイとその後の思考で明らかになった問題点としては以下のような内容でした。

・同時選択⇒優先度順の処理で全体的に煩雑になった
 各アクションで違った形の解決順になっているのも、より煩雑さを増していました。また優先度は番号のチップを用意してラウンド終了時に一定のルール(呪い順>前ラウンドの優先度)で入れ替える処理にしていたのですが、かなり面倒だと不評でした。
 結果的に、全体として煩雑な処理に意識が割かれてゲームが楽しめない状態になっていました。

・同時解決ばかりで他のプレイヤーを見る余裕がなくなった
 今にして思い返すとOMO試遊会でも薄々感じていたのですが、バッティングを始め各アクションが同時解決になったことで、他のプレイヤーが何の財宝を獲得して呪いがどれだけ増減したのか、という情報を見る余裕がなくなっていました。
 着想時から考えていた「他の人の呪いが見えることで判断を行う」というこのゲームの楽しみのコア部分が、ルール変更によって失われてしまっていたのでした。カードが表向きになるルールもこの楽しみのコア部分を削ってしまっている、という指摘もありました。

・レア財宝カードを獲得する旨味がほとんどない
 これまでずっと強すぎるとして下方修正が続いていたレア財宝カードですが、呪い1あたりの価値が軒並み通常財宝カードの期待値である2.1を下回っており、効果自体もそのビハインドを埋めるものではないという結論になりました。
 特に「魔法の指輪」はポジティブそうな名前に反し呪いが大きく価値の効率が悪いのにデメリットしかない、というのが初心者に優しくないのでは、という指摘もありました。

 大きくこの3点の改修して、現在のルールが出来上がりました。

スライド15

スライド16

 バッティングをなくし、同時アクション選択の後はアクションごとに順番に解決する形にしました。行動順も呪いの大きい順>マーカーを持っている人に近い順、ラウンド終了時はマーカーを隣に渡すだけ、と簡略化しています。
 場に多く並べられたカードから選ぶ山分け感は残しつつ、手番順だった頃の他のプレイヤーの結果を見て獲得した財宝を推測する、という楽しみもする余裕ができるようになりました。

 レア財宝カードについては呪い1あたりの価値が2というのを基準にしました。通常財宝カードの期待値より僅かに小さく、その分効果によるインセンティブがあるという調整です(裏面が宝箱の分類全体で見ると、呪い0の「竜殺しの魔剣」と呪いがマイナスの「ロザリオ」によって呪い1あたりの期待値は2.5程度になります)。
 「魔法の指輪」は「強欲の指輪」に名前を改め、「山分けでは必ず行動順が最初になる」というメリットを加えました。ただし「2枚目を獲得しなければいけない」という条件も付けており、フレーバーを活かした良い案配の効果になったのではと思います。
 「竜殺しの魔剣」は呪いをなくしたので、悪竜化時に他の財宝カード分の呪いを減らせるようにしました。
 「開かずの宝箱」はこれまでメリットのないハズレ財宝としていましたが何らかのメリットを持たせる必要ができ、そういえば財宝を集めるゲームなのにセットコレクション要素がないなと思ったので、通常財宝カードの種類によって価値が変わるカードとしました。

 最後に捨て場の悪竜化の条件として、これまで呪いの合計値を参照していましたがここだけ表面を見て数えなければいけないというのは煩雑かつゲームのコアとも一致しないと思ったので、裏向きのまま枚数を参照する形にしました。

画像25

 前回のテストプレイがトラウマとなりなかなか人に遊んで貰う気も起きなかったのですが、2月になって結婚して遊ぶ機会が減った友人宅に遊びに行く機会が出来たので、そのときに1~2回だけプレイしました。
 テストプレイというよりは素直に遊ぶ感じで、感触としても「まあこれで普通に遊べるな」と思ったので、これにてルール調整を完了としました。

製品版まで

 何とかルールとしては完成したものの、モチベーション自体はそこまで戻らず、製品として出す準備は全く進みませんでした。
 私はイラストというのが全く描けません。図としてならそれっぽいものは作れますが(処女作の「ドライヴォルテの後継者」はそれで何とかした)、今回のテーマである悪竜ファフニールは是非イラストレーターさんに格好良いものを描いていただきたい!ということは思っていて、ドラゴンをメインに描かれるイラストレーターさんを探すことくらいだけしていました。
 しかし依頼するためにはゲームの仕様書を書く必要があり、そこが億劫で依頼を出せないまま印刷のスケジュール的に人に描いてもらうのは不可能、というタイミングが来てしまいました。

 現在のいらすとやベースのテスト版をプロトタイプ版として頒布するか、それとも諦めて辞退するか。そう悩む折にコロナ禍が始まり、そもそものゲムマの開催がなくなってしまいました。
 いちボードゲーマーとしては大変残念でしたが、制作者としては助かった、というのが正直な心でした。

 そこから繰越金でゲムマ2020秋に申し込みはしたものの、コロナ禍で人とボードゲームを遊ぶ機会もめっきり減ってモチベーション的には結局変わらず、ほとんど何もしないまま8月が終わりました。
 そんな中9月にボードゲームカフェ「天岩庵」さんのテストプレイ会があり、そこに参加を申し込みながら準備を始めました。天岩庵さんのテストプレイ会での反応は悪くなく、ようやく自信を持ち直しました。

 11月中旬の開催に対して、時すでに9月中旬。前作で一括で依頼した印刷所さんは2ヶ月前に入稿というスケジュールだったのでもう厳しいと思っていたのですが、個別で探したところ10月中旬の入稿で何とかなりそうという目処が立ち、念願だったイラストの外注をお願いすることを決心しました。

 大急ぎで依頼仕様書をまとめ、以前に調査していたときにチェックしていた自分好みのドラゴンのイラストを描かれている「龍渕はく」さんに依頼しました。
 納期1ヶ月でこれだけ描いて欲しいという無茶振りに近い依頼だったのですが、「ここまでなら対応可能です」とこちらが是非お願いしたい部分は網羅した形で受けられる範囲を明瞭に回答いただき、その後のやりとりもスムーズに10月中旬までに素晴らしいアートワークを仕上げてくださいました。

 自分はカードや箱のデザインのDTPを進めつつ、残る調整をしていました。最後まで残っていたのは捨て場の上限枚数で、プレイ人数によって変える必要がありその最適枚数が何枚なのかが課題でした。

 ここで、一人プレイで3人、4人、5人と各プレイ人数でかなりの回数テストをしました。ゲーム終了ラウンドと終了時の山札の枚数や捨て場の枚数、得点などを記録して、最終的に3人プレイでは12枚、4~5人では15枚という値が決まりました。
 この一人でのテストプレイが、ゲムマ直前で相当の自信に繋がりました。自分一人なので各プレイヤーの思考にはあまり幅がないにも関わらず、プレイするたびに多様なシチュエーションが生まれることが見えたからです。
 また、細かな処理タイミングなどについてもこのテストプレイの中で検討することができました。

 そうして何とか無事に、ゲームマーケット2020秋に胸を張って出展することが出来ました。

画像23

終わりに

 気付いたらもう1万3000字を超えていました。ここまでお読みいただきありがとうございます。
 ゲムマ2020秋に出展した「ファフニールの呪宝」について、そのルールの変遷と、テストプレイを繰り返して起こった迷走をご紹介させていただきました。

 迷走してモチベーション低下してしまったことで着想から頒布までの期間のうち半分を無為に過ごしてしまいはしましたが、迷走したこと自体は悪いことだとは思っていません。
 きっかけになった指摘は至極まっとうなものであり、その修正の方向性を間違っただけで、実際最終的には迷走の前よりも良いゲームになったという実感があります。一周回って、螺旋を描くように一つ上の場所に辿り着いたイメージです。

 前作「ドライヴォルテの後継者」がなまじ根幹部の変更がほとんどないままに調整が上手くいってしまったので、今回のような変遷で初めてで著しいモチベーション低下を起こしてしまいましたが、まあこれも経験のうちなのかなと思っています。
 今後はテストプレイ⇒改善という流れを盲信しすぎないようにしよう、というのが今の自分にとっての反省点です。

 最後に余談なのですが、今回の記事が書けたのはルールとカード内訳、そしてテスト版の名刺デザインファイルなどの各種資料をGit(Tortoise GitでGUIで使ってます)で管理していたからだったりします。
 ぼっち制作なので本当にただの一直線の履歴管理にしか使っていませんが、ファイルを複数残しておくこともなく、更新履歴としてフィードバックの記録や変更理由なども残せておけるので、やっていて良かったと思いました。

画像24

 もしかしたら「Gitでのボードゲームデザイン管理のすすめ」の方がBGDACで需要があったかもしれませんね(笑)
 とはいえGitは仕事でも囓る程度に使用を始めた程度なので、もっと習熟して来年のテーマにできたらと思います。

 長々とした記事をお読みいただき、ありがとうございました。
 私のこの経験を記したこの記事が、何らかのお役に立てれば幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?