2020漫画業界のゆくえ

note始動させて間もないので、何かコンテンツ増やしたいな…とぼんやり思ってたのですが、

今日から2020年ということで漫画業界はこの10年でどうなっていくのか?自分なりの視点でちょっと考えてみました。

いち漫画家の妄想の域は出ないですので「ふ~ん、この人はそう思ってんのか」くらいに思って頂けたらと思います。


で、

僕は2020年代の漫画業界のテーマは「最適化」だと思っています。

というのも、この数年間で漫画業界を取り巻く環境がめちゃくちゃに変わったからです。現状みんな対応に追われるばかりで全く足並みが揃っていません。

でもその変化も段々と方向性を示し始めているように感じられ、これからの数年間でそれに合わせた再編成が順次行われていくだろうというのが、僕の見立てです。

・漫画を変えたスマホ

漫画業界が変わった理由はとてもはっきりしていて、それはスマートホンの普及です。

(総務省:我が国の情報通信機器の保有状況の推移(世帯)よりhttps://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/image/n1101010.png)

(ガーベージニュース:出版物の分類別売上推移をグラフ化してみる(最新)より www.garbagenews.net/archives/2101334.html)


上の二つの図、雑誌の売り上げとスマートホンの普及が逆相関しているように見えます。

これは漫画に限ったことではないのですが、スマートホンは日本人のすきま時間を一気に奪い去りました。みんな暇ができると、とりあえずスマホを手に取ってから何をするか考えるようになりました。

必然的に、スマホ上に無いものは人々の生活の動線から消えてしまいました。

その勢いはすさまじく、僕の体感としてはたった2,3年ほどの出来事です。

自分にとって、所属している場の理屈がここまで大きく、かつ急激に変わった体験は人生で初めてで、多分漫画業界にとってはリーマンショックのような出来事だったんじゃないかなと思います。


・最適化の方向性は4つ(スマホの中orスマホの外or日本の外or現状維持)

しかし劇的な変化はいずれ収束するもので、スマホの普及率の変化が落ち着いてくるとともに、漫画業界もスタンスを決められるような状況になってきたようにみえます。

今、僕に見えているスタンスは4つで、正直そのどれが優位とかは思いません。しかもちゃんと構造を理解すれば網羅していくことが可能で、

僕自身は、なんなら単純に選択肢が増えたのかなとポジティブに解釈しています。


1.スマホの中を主戦場にする

漫画の本質を「絵と文字で表現された情報」と割り切るスタンスです。

幸いスマホのインターフェースは視覚情報に頼る部分がとても大きく、「絵と文字で表現された情報」ならスマホにも居場所があります。

ただし、その為にはやはり全力でそこに向けて最適化を図っていかねばならず、課題も多いです。 

もう少し具体的に挙げていきます。

☆web漫画雑誌を一つにする

スマホのトップ画面に表示しているアイコンの数を考えてください。あってもせいぜい20個くらいじゃないですか??

スマホの中で生きていくには、その20個に選ばれている必要があります。

しかも競合相手は各種SNS、ソシャゲ、動画サイト、料理サイト、音楽サイト、ショッピングサイト、ニュースサイト、乗換案内…

それどころか設定、電話、カメラ、カレンダー、電卓、画像フォルダもライバルになります。

そんな中で、小規模な漫画アプリを乱立させるのは到底得策には思えません。運よくトップ画面に入れても、ちょっとした気持ちの変化ですぐ外されてしまいます。

漫画関係者全員(大手、中小、電子、同人、新旧全て)で力を合わせて、日本人全員のスマホトップ画面にデフォルトで配置されるような「漫画」を集約したプラットフォームをまずは作る必要があると思います。

(実は漫画村がそれをやっていました…。この話すると必ず関係者から怒られが発生するのでこれ以上詳しくは言いません。気になる方は丁寧にデータを分析してみてください。単に「違法海賊版サイトが作られ、駆逐された」だけではないストーリーも見えてくるはずです。)

各出版社やタイトルで競合するのはそのあとの話だし、しかもそこでは今よりずっと健全な競争やユーザーの獲得が行われるでしょう。

個人的には僕が一番望んでいる未来です。


☆むしろ競合相手に乗っかる

ただ現状として各出版社を見ると、理念が一致しておらず、とても複雑な権利の問題なども絡み、これから漫画を一つにするのは結構ハードルが高いかなというのが業界にいる自分の実感です。

そうなってくると、次に思いつくのは、逆に現在スマホのトップ画面にポジション取れているアプリに乗っかっていく方法です。

でも、そのためには徹底したローカライズが必須で、人によっては「こんなの漫画じゃない!!」と思う人もいるかもしれません。

例えばtwitterは国内アクティブユーザーが2500万人ともいわれるモンスターアプリですが、そこで漫画を読んでもらうためには、「4ページでオチをつける」「読みやすさ最重視」「色を付ける」「恋愛や生活に根差した題材」などユーザー層や仕様に合わせた形態をとる必要があり、それは確かにそれまで皆が熱狂したドラゴンボールやワンピースと同じ土台で語るのにはちょっと違和感あります。

ただ、少なくとも漫画が斜陽産業であるような考え方は完全に間違いです。

これは上で紹介した漫画のアナリティクスですが、インプレッションが237万人、実際に読まれた数が47万回で、この数は全盛期のメジャー誌に全然引けを取らない数字だと思っています。

日本人の1/4しか使っていないアプリでこの数字が出ているのを見る限り、漫画を読む人口自体は全然減っていないと思います。むしろ増えているように感じます。

もちろん単純比較はできないですが、もともと雑誌は広告専用の媒体であり、売り上げはほとんど書店に還元されていて、出版社の収益はコミックスの売り上げで取っていたので、構造上の違いもこれとそんなにないように思っていて、

あとはこの数字をどうキャッシュに還元していくかを考えていけたら、結構大きな前進が見込めるような予感がしています。

もちろん自前のキャッシュポイントを作れたら最高ですが、

そうでなくとも人気のソシャゲ上で連載したり、ニュースサイトで連載したり、動画サイトで連載したり、企業やインフルエンサーの専属漫画家になったり…漫画はこの数字を使って今後、スマホ上の優位なものにどんどん入り込むことで、居場所は見つかるだろうと思っています。


2.スマホの外を主戦場にする

冒頭ですきま時間をスマホに奪われたと書きましたが、あくまで奪われたのはすきま時間であって、目的があれば人々はスマホを置きます。

ましてや、絶え間なくあふれ出てくる情報に疲れ、スマホを置くきっかけを作りたいと思っている人も今後増えていくはずで、

そういう部分に漫画の特性を生かした勝機を見い出していきます。

☆多様化する本屋

最近少しずつ増えてきていると感じるのですが、本屋はどんどんアミューズメント化しています。

カフェや他ショップ、場合によっては温泉などと併設され、様々なコンセプトにそった時間や体験を本と共に提供します。

何ならアミューズメント施設に本棚を置かせてもらうよう営業しに行って、そこに置かれた本棚を本屋として運用していくケースも増えていくかもしれません。

ホテル、美容室、飲食店、遊園地、銭湯、駅、オフィス、トイレ(笑)…

スマホを置く瞬間があり、本棚を置ける場所は沢山あります。

漫画はあらゆるコンセプトで書かれたものがあるので、そのTPOにあった漫画が必ず存在しますし、なければすぐに作られます。そこに漫画の新しい居場所が見つかるかもしれません。


☆コレクター商品化する

これも最近チャレンジされ始めているなと思うことなのですが、

漫画を読み捨てする消耗品として見るのではなく、飾ったり所持することに意味があるコレクター商品化していくという考え方です。

スマホ上のデータは中々固定するのが難しく、研究はされているものの、現状簡単にコピーできる可能性もあり、所持自体に価値を感じさせるのが難しいです。

そこに着目し、「モノ」としての側面を最大限生かしていきます。

スマホ上には出せない装丁、「質感」「光沢色」「重み」「匂い」「ナンバリング」「セット装丁」…仮に単価が上がっていったとしても、そういうアナログな価値を付加することで新しい漫画の居場所が見つかるかもしれません。


☆イベントのきっかけにする

漫画を一つのコミュニケーションツールとする考え方です。

例えば、同人誌即売会のコミックマーケットへの来場者数は毎年増加していて

(コミってる:コミケの参加人数年表。来場者数を一覧にまとめました https://comitteru.com/comike-ninzu/)

今では毎年50万人もの来場があり、近年増加が止まっているのは会場の一日の収容人数(20万人程度)を超えられないからではないかという説があったのですが、

今回、2019年に諸事情で3日間から1日増やして、4日間開催されたところ、丸々18万人来場者が増えたことで、奇しくもその説が証明されてしまいました。

みんな自分の好きなもので一緒に盛り上がりたいんだと思います。

作者を直接応援したり、欲しい本のために並んで価値を実感したり、それを仲間たちと共有して楽しんだり…

その中心に漫画があることを目指します。

その場合必ずしも漫画の項数が多い必要はないと思っています。出回っている同人誌の多くは20ページ程度ですし。全部が180ページとかあったら、みんな買って回れませんから…。

また、なるべく作家が顔を出して、ファンと交流したりすることが大切なんじゃないかなと思っています。

大きなイベントの数自体はどんどん増えていますが、小さい規模のものももっとあっていいと思います。オフ会のような小さな規模で、読書会や設定やキャラについて語り合う会が増えていってもいいはずです。

そこに作家や公式のブースなどが、出演料などをとって招待されたり、サイン会などを開いたりするようなケースも一般的になっていくような気がしています。

そういうのを企画・運営するコミュニティサイトやエージェント会社ができていくかもしれません。

3.日本の外に市場を見いだす

日本の人口は年々減っており、国内需要も如実に減少しています。

今年開催されるオリンピックが過ぎたら、より落ち込んでいくのではと心配されたりもしていますが、いずれにしてもそれは市場として魅力的な状況ではないので、

いっそ海外の成長している市場や、未開拓の市場に売り込んでいこうという発想です。

漫画で伝えているテーマは人類に共通する不変のものを扱っている作品も数多く存在し、言語のローカライズさえできれば海外でも十分勝機があります。

例えばフランスでドラゴンボールは3000万部以上売れていると言われています。

その数字は国内で見たら、社会現象になっている少年マンガクラスで、売る場所変えただけで、10年に一度のメガヒットタイトルを生み出したのと同じくらいの経済効果があります。

もちろん各国の市場調査は必要ですが、何しろ日本の漫画はタイトルが多く、あらゆるコンセプトを受けた企画が存在するので、それを上手にマッチングするエージェントさえいれば、まだまだ大きな成長産業だと考えることができます。


4.現状維持

ちょっと後ろ向きな戦略ではあるのですが、今まで作ってきたインフラを最大限生かす努力をし続けることも、一つの選択かなぁと思っています。

というのも、「スマホが日本人の生活を変えた」とは言っても、まだまだ普及率は100%ではなく、スマホを持ってるにしても生活自体はほとんど変わっていない人たちも一定数いるからです。

そしてここからの10年、国が税金を投入して全員にスマホを持たせたりしない限り、その数値はもうそこまで変わらないのではないかと思っています。

漫画が全盛を誇ったのは1980~2000年代ですから、スマホのある生活に馴染み切れなかった人たちにとっては、よりどころになることができます。

ただし、そういう人たちは、自分から動くのが苦手だからそうなっているのであって、そこの性質はしっかり押さえていく必要があるとは考えています。

例えば、こちらから月額制で購読するような形で営業をかけたり、なるべくその世代を大切にしたコンセプトで漫画を作っていくようにするということです。


いかがでしたでしょうか??

僕の考える漫画業界の2020年代は、これらのスタンスをそれぞれが自覚的に選択して、「最適化」していく時代になるんじゃないかなと思っています。

初めはめちゃめちゃ不安でしたけど。。。漫画業界大丈夫かな…って。

でも、一昨年主戦場をネット上に移してから、漫画が成長産業であることは確信しましたし、冒頭にも述べたようにむしろ生存戦略の選択肢が増えて、かえっていい時代なのかなと感じています。

あ、もしこの記事が面白かったら、僕が今書いている漫画、応援のつもりでぜひ買って下さい!!

漫画が面白いかはちょっと読む人によると思いますけど、もちろん自分では面白いと思って書いてますし、マネジメントも含めて、色々自分なりに挑戦しています。そういう戦略的なことに関しては、もしある程度うまく行ったら、改めて共有させていただきたいと思います。

失敗する可能性も高いので。悲しいけど。それが僕の今の実力です。

あとTwitterもフォローしてください!!漫画もいっぱい公開してますので。


最後に、

蛇足(?)ですが、上で書くと流れ悪いなと思って後回しになった補足情報をいくつか書いて、終わりにしたいと思います。

長々お読みいただきありがとうございました。

・5Gはたぶん怖くない

今年から「第五世代」などと言われ、通信速度が加速し、一般的には動画の時代になるなどと言われていますが、漫画はその影響はあまりうけないと僕は考えています。

情報の伝達速度が加速したとき、僕たちにとって障害になるのは僕たちの時間です。

動画は見るのに時間が掛かります。5分の短い動画でも、その5分間視覚と聴覚を割かなければなりません。速度を早くして視聴してる人もいますが、鬼滅の刃5倍速で見て感動できますか??

ところが、漫画は読む人の訓練次第で、めちゃくちゃ早く読んでも同じような感動と情報を得ることができます。

ワンクール分の鬼滅の刃をたった1時間で読める人がいて、同じ感動を味わっているわけです。それってすごくないですか??

多分、逆に時間を引き延ばす手段や、サブリミナルやテレパシー…現状僕らが想像もできないような伝達手段が開発されるまでは、漫画の優位性は保たれると思っています。

むしろ動画の時代はすでに来ていて、これからは視覚と聴覚を分離させたり、長さを最適化させたり、動画の方が受難の時代だろうと僕は思います。


・もし次の10年でスマホが変わったら

スマホのインターフェースが次の10年で、今からさらに劇的な変化をする場合も考えられます。

今、二つ折りのスマホが実用化に向けて開発進んでますが、それより先の、グーグルグラスのようなウェアラブルインターフェースがこの先10年で一般的になったとしたら、またちょっと状況は変わるかもしれません。

また試行錯誤は必要だと思います。

まぁでも、何が起こるか分からない方が面白いですし、課題は難しい方がやりがいがありますので、、、その時はまた頑張りたいと思います。


・漫画関係者全員がやるべきたった一つのスローガン

色々言いましたが、これだけは絶対皆の念頭に置いておいてほしい事があります。

それは、漫画を読む人を増やすことです。

これだけは、全漫画関係者が心の片隅に置いておくべき事柄です。

なぜなら、漫画は読むのに技術が要るからです。

漫画は連続したコマとコマの行間を読み、書かれている文字と絵を関連付けていくことで情報を得る構造のメディアですが、それはある程度習慣がない読むことができません。

これは僕が大学の時研究していたので多分間違いないです。

普通に漫画読んでる人には、信じられない位、漫画読んだことない人は漫画が読めません。

だから、それだけはどんな競合相手であっても協力して下さい。

じゃないと共倒れしますので。

なんなら文科省に誰か送り込んで、国語の教科にしたいくらいです。

僕が最近Twitterに夢中なのはそこが大きな理由で、Twitterは普段あんまり漫画を読まない人のタイムラインにも登場することができるんですよね…。

そのTwitterの機能はマジですごくて、テレビCMやエキナカ広告打つよりもよっぽど手軽で強烈にリーチできますから。

だから、会議落ちた漫画とか落書きとか、手元に眠っている作家さんいらっしゃったら、軽率に公開してほしいです。それは必ず業界全体の為になりますし、自分にとってもチャンスにつながるきっかけになると思います。


こんなところでしょうか。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

今年もよろしくお願いします。頑張ります!!!







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