符亀の「喰べたもの」 20210829~20210904

今週インプットしたものをまとめるnote、第五十回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

ルックバック」 藤本タツキ

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学級新聞で4コマを連載していた小学生の藤野が、不登校の同級生京本の絵の上手さに衝撃を受けたことから始まる、2人の物語。第四十四回で取り上げた読み切りが冊子化したものです。

紙で読むと、ジャンプ+の読み切り版よりも表情や細かな描写に目が届きやすくなり、藤本先生の絵で伝える力のすごさをより感じられました。これはいちいち矢印やキャプションで説明を書き足さないといけない藤野の4コマと対照的であり、その差が際立つことで藤野の未熟さやそこからの成長を強く感じられると思います。あと雨の中帰るシーンが見開きで読めたのうれしい。

強い力を持つ作品で、読むと描かなきゃという気持ちがわいてきます。おかげでゲーム製作に熱が入ってこの執筆が遅れたわけですが。


琥珀の夢で酔いましょう」(2巻) 村野真朱(原作)、依田温(作画)、杉村啓(監修)

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クラフトビールを通じて、主人公の3人やその他の人々が交流する群像劇。先週の1巻に引き続きのご紹介であり、これしかなかったので書影が3巻なのも同様。

この巻冒頭の話で、ビールの味の言語化とペアリング(料理との組み合わせ)に触れているのが上手いです。冒頭に言語化の仕方が説明されるおかげで、その後の話でビールが出てきたときにどこを見ればいいかがわかり、読者の読み方楽しみ方が迷子になりません。ペアリングも、ビールの特徴を1巻分かけてぼんやり学んだ後、ただ「〇〇と合わせるといい」だけでなくその理由まで飲み込めるようになってからの登場なのがいいタイミングです。

私は作業に支障が出るのが嫌なので普段お酒を呑まないのですが、しばらくは実践編としてクラフトビールを試飲しようと思っています。とりあえず、執筆が終わり次第1本を。


姫様"拷問"の時間です」(7巻) 春原ロビンソン(原作)、ひらけい(漫画)

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目の前で美味しいものを食べたり楽しく遊んだりというむちゃくちゃやさしい拷問をする魔族たちと、その度に秘密を話すチョロすぎる姫騎士とのコメディー。何気に第七回(4巻)以来の登場です。というか6巻は名前だけ出したものの、本棚になくて探していた5巻には触れてすらいないので多分純粋に買い逃してますねこれ。

中盤に新たな捕虜を投入し、本作の"拷問"の奇妙さを再確認させてから100話の記念回をやっているのが上手いです。その100話も、もはや本作の伝統芸ともいえる天丼構成を活かしつつ特別感も強すぎない、絶妙な力加減で面白かったです。

さて本作といえば毎回拷問とは名ばかりの勝負で姫様が屈して堕ちてオチるというテンプレート展開なわけですが、それを100回続けても読者が飽きない理由を考察中です。とりあえず「初手から負けそうになりつつも一応数回踏みとどまってから屈する回と、最初は拷問失敗っぽい感じになりながらも最終的には屈する回とを混ぜている」「今回がどちらなのかは最初2ページでわかるので、思ってた展開じゃないなどとストレスを感じにくい」までは思いつきましたが、それ以上の解答がまだ導けていません。「転」にあたるページが移動してリズムが変わっているのかとも思いましたが、読み返すとそんなこともなさそうですし。8巻でまた対戦させてください。


時間跳躍式完全無劣化転送装置」 山素

女2人とタイムマシンとサンマとケーキとフランス料理が出てくる妙な漫画。モーニング月例賞2021年6月期、佳作受賞作品です。

タイムマシンの発想も面白いですが、あくまでそれはサブテーマで本題は女2人なのがより作品の段階を上げている気がします。「僕がコントや演劇のために考えていること」の「完成品を素材にする」に通じる話であり、その手法の強力さを実感させられました。


私の黄泉黄泉最短ルート」 にことがめ

学校への最短ルートを通ろうとする女学生の物語です。モーニング月例賞2021年6月期、佳作受賞作品です。

説明ががっつり省かれている作品ですが、元ネタがわかりやすい分なぜそんな行動をしなくてはならないのかが伝わってくるのが面白いです。おかげで独特なリズムが生まれていて、何度でも読める作品です。


製作も山場なので読めた冊数こそ少ないですが、このタイミングに「ルックバック」でモチベーションを上げられたのは大きいと思っています。ラストスパートも頑張ります。



一般書籍

専門外の学術書に手を出したら、和訳がアレで全く進みませんでした。


Web記事

君のゆるいタロット占いが、私を癒してくれるから # ゆる占い ができるまで

『君のゆるいタロット占いが、私を癒してくれるから # ゆる占い 』の一般発売開始に合わせ、作者さんが製作過程をまとめたnoteです。(タイトルそのままですとハッシュタグ化されてしまうので、# 直後にスペースを入れています。)

試行錯誤をまとめることによりゲームに対する作業量の多さを感じてもらう(これがゲームへの信頼感や特別感に繋がる)という手法は前々から考えていましたが、このnoteでは最初にボツ案という失敗談から始めているため、そうする際のがんばったアピール的な臭さが軽減されている点が上手いと思います。その上で引用しまくれるぐらいtwitterで制作状況をつぶやいているのも強いですね。


ゲームマーケット 出展者になろう

ゲーム印刷所の萬印堂さんが、ゲームマーケットに出展してみたい人向けに書かれたコラムです。

ぼかされていることも多い数字部分についてもちゃんと扱われており、夢を砕かない程度に現実を見せるバランスが上手いと思います。ただ、コロナ前ですら新作の平均頒布数が30個と言われていた(某サークルから聞いたデータ不明の情報、ですが肌感的にそれっぽそう)ので、50~100部作りつつ「徐々に製造部数も増やしていく」のは難しいところがあるとは思います。こういう発言が夢を砕いていくのよ貴方。


[CEDEC 2021]フランス人開発者が,日本のゲーム業界の常識を斬る。『日本で世界規模の競争力のあるゲーム開発は可能なのか?』聴講レポート

日本のゲーム開発スタジオでGEOを務める講演者さんが、独自の調査を元に日本のゲーム開発組織の問題点を指摘した講演のレポートです。

個人クリエイターではありますが、時間感覚への指摘は刺さりました。ボードゲームではプロトタイピングはちゃんと行われている印象ですし私的にもそうだと思いますが、それでも各作業工程でそのまま盛りまくってゴーサインを出す瞬間はあり、反省したいところです。


『Skyrim』のキツネはプレイヤーをお宝に導くか。発売直後から囁かれてきた噂の真相を元開発者が明かす

オープンワールドRPG「Skyrim」のプレイヤー間でささやかれていた「キツネを追うと宝や重要な場所に辿り着く」という噂について、元開発者が検証した結果をまとめた記事です。

「ゲームの設定が意図しない挙動を示して、プレイヤーに意味のある解釈をされる」のは「ストーリーのつくりかたとひろげかた」の「残像」とも絡む話であり、面白く読めました。こういうのを意図してやってみたいですね。


「音ゲー経験ゼロが音ゲーしたらあまりの異質さに脳がバグった件について」

音ゲー(音楽に合わせて降ってくるノーツをリズムよく叩くゲーム)を経験したことがなかった筆者さんが、「DJMAX RESPECT V」という音ゲーに手を出して衝撃を受けた経験をまとめたnoteです。

地味にbeatmania IIDXで中伝(上から2番目の称号)持ちの私にとって、かなりうなづくところの多い記事でした。特に、ハザード(コンボが切れたら即終了するモード)が大好きな分、「フィジカルな死にゲー」という表現には成程と思いました。マジで死にながらコンボをどうつなぐか考えている人なので。

音ゲーのとっつきにくさというかチュートリアルや上達への動線の不十分さには前々から思うところがあったので、そこをまとめたnoteが大きな反響を受けているのはうれしいですね。あとやっぱそういう点で、とりあえず強いカード引けばスコア上がるソシャゲと相性が良かったのでしょうか。


【メ環研の部屋】倍速視聴・ダイジェスト視聴に対する世代格差〜映画やテレビを早送りで観る若者の本質

若者が映像メディアを基本早送りで見、かつその理由が今までの大人たちとは異なるのではないかという議論のまとめです。

早送りする理由として挙げられている「コスパ」「タイパ」を重視する価値観について、共感はできても頭で理解できていない感じだったのですが、この記事のおかげでストンと胸に落ちた気がします。そういう価値観の層をターゲットにするかは別ですが、制作にあたって覚えておきたい内容でした。


easilyの使い方

「簡単に」と訳すだけでは不十分な「easily」の使い方をまとめた記事です。

これについて、若者言葉の「余裕で」が該当するという呟きがあり、納得と感動をいたしました。同氏により日本語の英語化に関する文献として挙げられていたこちらも、余裕のあるときに読んでおこうと思います。


ある女オタクの独白

女オタク視点から描かれたアイドルマスター関連のSS(二次創作小説)です。

最後の1段落がとても有効に働いている気がしているのですが、それがなぜなのかは正直よくわかっていません。「手遅れ」という終盤のまとめとなるキーワードが出てくることと、それまでと少し離れた時間のことを書いているのでオチ感があることとによってまとめとしてうまく働いている、とかですかね。


ビーフストロガノフはどのくらい強いのか

ディープラーニングを使って食べものの強さを比較した記事です。

タイトルがミスマッチながら「わかる」組み合わせ、かつ「どのくらい」という読者の知りたさを喚起させる単語まであるという「強い」もので、参考になります。冒頭もWhenとあるあるから入って逆接で本題の疑問を提示することで短くもわかりやすくテーマを伝えており、全体的なわかりやすさも含め勉強になる記事です。


最近少しサボっていたWeb記事系を一気に放出したので、50回目らしい分量にはなったと思います。その分まとまりがないとかは言わないでください。

今週はカイシトモヤさんの「タイポグラフィ実践講座」も受講でき、私事の一番大きな山場も越え、アイドルマスターシャイニーカラーズの良質なtwitter企画(アイドルが1日代わりに呟くという企画で、最後にそのアイドルのお客さんがほぼ入らなかった初ライブの時の写真としての画像が投稿されるというエモい仕掛けがあった)も味わえ、なかなかいい1週間だったと思います。進捗?ははっ。

あ、せっかくなのでゲームマーケットのサークルカットを挙げておきます。これで今日は仕事したってことで、仕事終わりの晩酌としゃれこみます(午前4時)。

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