符亀の「喰べたもの」 20230212~20230218

今週インプットしたものをまとめるnote、No. 126です。

各書影は「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

イリオス」(3巻) 円城寺真己

伊莉雄 (イリオス) 会の亀山組若頭である亀山パリスと、朱維屋 (アカイヤ) 会所属の半神と呼ばれる男アキレスとの、命をかけた競走を描いた作品です。No. 113以来の登場です。

(以下、本編のネタバレが含まれます。)

パンダああああああ!!

本作の人がポンポン死ぬ作風とパンダロスで鬱になっているヒットマンとかいうバカげた設定のキャラクター、そして出番の短さにも関わらず、パンダの退場をショッキングに演出できているのがすごいですね。

このパンダ、本編中で「2回死んで」おり、それが世界観やテンポを壊さずその死に重みを与えるのに貢献していると思いました。一回目は、噛ませ役かつ衝撃展開の生け贄として、1コマであっさりと致命傷を食らわされる。しかしそれだけだと死やキャラクターが軽すぎるので、そこから味方を生かすために奮起して見せ場を作り、大ゴマでトドメを刺されながら退場する。テンポ担当の1回目とキャラ描写担当の2回目、それぞれに演出の役割を割り振ることで、トンチキな雰囲気を守りつつしっかりと死を描いています。

相反する2つの良さ (今回はテンポと死の重さ) の両立が難しいときに、いっそ2回やってそれぞれに片方ずつ担当させるというテクニック。意外と応用が利きそうで、武器として使えるまでしっかり研いでおこうと思います。


今週は一般書籍のアレの方に気力と体力を持っていかれ、漫画の方は十分に読めなかったですね。一応「チー付与(4巻)」とかは読めたんですが、これ考察しきるには相当体力使うので今回はごめんなさいします。


一般書籍

ヒトはなぜ笑うのか」 マシュー・M・ハーレー、ダニエル・C・デネット、レジナルド・B・アダムズJr.、片岡宏仁(訳)

人間にユーモアという情動が存在し、ヒトがそれを好む理由について、先人の研究をまとめながら筆者たち独自の理論を提唱した学術書です。一昨年の年末時点で半分読んでから積み、今年になってまた一から読み直してようやく読破しました。

「クソ長いしわかりにくいが間違いなく読む価値があった本」というのが、15ヶ月かけて読みきった印象です。本書の最大の魅力は、ユーモアが生じる条件を「暗黙のうちに心に入り込んで事実だと受け入れられていた情報が活性化されて実はマチガイだったと判明したとき」だと端的にまとめている (詳しい内容や補足的な他条件はP205-206) ことでしょう。この標語のおかげで、ユーモアが生じうるかを理論的に検証できるようになります。ボードゲーム製作の観点から言えば、センスやひらめきの世界とされがちなパーティーゲームを理論的に作れる可能性を示す理論であるとも言えます。他にも、ユーモアをより面白くするためのスパイスとして他の情動が使えることや、複数の登場人物のマチガイを一気に解決する方が面白さが増しやすいことなど、ユーモアを作るだけでなくより大きくするための材料も提案してくれています。

一方、やはりその長さは問題ですし、特にほしい要素を探して再読するとき (つまり今) には辛いです。また、先行研究の紹介は丁寧でありがたいものの、本題となる理論が200ページ分出てこないのは議論の終着点がわからず退屈です。さらにそこまでページを割いているにも関わらず「認識的コミットメント」のような専門用語が十分な解説もなされず使われているのも問題でしょう。

正直200ページでまとめ直した方がいい本になる気もした一冊でしたが、提唱された理論は (実験的裏付けがないものの) とても納得できるものであり、苦労して読んでよかった本だったとは思います。あと、最後の訳者あとがき部分がまとめと読書案内として良質だったのも助かりますね。なんか今後はここだけ読み返せばいい気もしてきました。


Web記事

【スプラトゥーン3】スプラ3のステージはなぜ「失敗」したのか?(と、その修正案とは?)

スプラトゥーン3のステージの問題点として、敵陣に向かうために通らなくてはいけない「チョークポイント」が一直線に並んでいるだけで別ルートの意味が無くなっている点を挙げ、各ステージの改善案を考察した動画です。英語の動画ですが、公式の日本語字幕があります。

私はスプラトゥーンシリーズの経験がないのですが、相手を全滅させて進むか膠着するかしかないのは問題だというのはポケモンユナイトなど他のゲームのおかげでイメージできました。ユナイトでも片方のレーンを全員で一気に攻めるのが強いものの、そっちで膠着している間に野生ポケモンを狩って経験値を貯めたりもう片方のレーンを崩したりするのも有効で、「自分らしいプレー」の余地があります。まあそれをやろうとして地雷化してるやつがいたり私が地雷化したりするわけですが。そこを言語化してもらえたおかげでデザイン時のチェックリストにまで落とし込めたのはありがたいですね。

余談ですが、「塗れる」壁や床を"inkable"と表現しているのに笑いました。


『シャニマス』の魅力である「実在感」はどのように生み出されるのか?生配信企画「283プロ見守りカメラ」の裏側【前編】

事務所の様子をほぼ音だけで6時間生配信する「283プロ見守りカメラ」をはじめとする、アイドルマスターシャイニーカラーズがアイドルの実在感を生むために重視している点についてのインタビュー記事です。

「中途半端に説明するよりも、輪郭だけ描いて見てくださる方の想像力に任せるほうが、リアルに伝わる」という判断ができるところがすごいと思いますし、それで伝わるだけの空気感や事前情報を与えているからこその成功だと思います。そういう世界観の上手い伝え方は勉強が足りない部分なので、今後も注視していきたいところです。

生配信企画も長時間すぎて敬遠していましたが、ながら聞きででも視聴してみようと思わされてしまいましたね。


今週は「ヒトはなぜ笑うのか」を読み切れたのが大きかったですね。その分他のインプット量は少ないですが、「2回やる」という新たな手法も学べたので、振り返ってみるといい週だった気もします。

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