符亀の「喰べたもの」 20210103~20210109

今週インプットしたものをまとめるnote、第十六回です。


漫画

チェンソーマン」(10巻) 藤本タツキ

当連載第七回以来。最悪(褒め言葉)すぎて1行で終わった9巻を超えるな。

ストーリーが面白いのは当然として、捨てゴマによる間の作り方が無茶苦茶上手いですね。34~35ページの見開きも36ページの大ゴマも事実上捨てゴマで、37~39ページも半分弱が捨てゴマで、最後の2ページにもセリフのあるコマは一つだけ。普通に描いたら50ページのアレを81話のオチにすると思うんですが、81話の情報量をあえて減らし、冒頭のシーンと最悪な結末な2テーマしか描いていない。ページをめくったら絶対最悪なことになるのに、一瞬で読めてしまうから手は止まらず、むしろ加速していく。そして、自分の手であの見開きを開いてしまう。漫画という受動的なメディアでここまでの絶望感を味わされるとは思いませんでした。さすが『このマンガがすごい!2021』オトコ編第1位。おめでとうございます。


マッシュル-MASHLE-」(4巻) 甲本一

当連載第二回以来。作品詳細は上か左のリンクからどうぞ。

3巻では「普通に面白い」枠になることへの危機感について書きましたが、その懸念を見事にふっとばしてくれました。面白かったです。単純に主人公の出番が多かったのでテーマの筋肉部分が前面に出ていたのが大きい気もしますが、それにしても面白かった。

で分析してみたんですが、この漫画「面白くはないけど入れといた方がいいでしょ的な描写」を意識的に省いていると思います。これは捨てゴマという意味ではなく、読者の「そんな展開聞いてないんすけど?」というクレームを封じるためだけに挟まれるコマが無いという意味です。ネタバレですが、つまりはあのキャラが捕まるとかあのキャラが入れ替わるとかしてるシーンが一切描かれていないということです。普通こういうのは2コマ分ぐらい何か挟むものだと思いますが、でもそれによって敵の小物感が増したりメインの話がボケたりして、面白さが下がるんですよね。

マッシュルでは、そういう悪意のある言い方をすると筆者の言い訳のために挟まれるような描写を削り、その分画力を活かした見せ場とギャグを詰め込んでくれるので面白さの密度が高い。「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」などのようにひたすら情報量を詰め込まなくとも、余計な描写を削ぐだけで面白さに充実感が与えられるというのは勉強になりました。


カラオケ行こ!」 和山やま

夢中さ、きみに。」の和山やま氏の、1巻完結の短編。合唱部の部長と彼を歌の先生にしようとするヤクザの男とがカラオケに行く話です。

面白い。そして「夢中さ、きみに。」のとき同様、氏の作品は面白さが言語化しにくい。

なのでこの考察にあまり自信はないのですが、たぶん前半の情報を出すペースが上手いのかなと思います。タイトルが出てからヤクザが歌いだすまで、ほぼ全てのページに新情報が一つと次のページへのヒキが込められている。ページをめくれば話が進むので引き延ばされている感じはないですし、そこからどうなるのか気になるので手が止まることもない。それを繰り返した後に本作品のテーマであるヤクザのカラオケシーンを2ページのフリで溜めて溜めて放つ。その頃にはメインキャラ2人のキャラも関係性もつかめてくるので、後はキャラや設定を求めて読み進められます。直後ダメ押しのように部長の方にも悩みがあるのを提示するのも上手く、2人の関係やそれぞれの課題がどうなっていくのかが知りたいと読者を前のめりにさせることに成功しています。という分析でいいんでしょうか。


結局、今週もあまり数が読めませんでした。Web漫画はいくつか読んでボツにしたのですが、単行本はこの3冊しか読んでいないのでこのnoteの存在意義が問われる感じになっています。積読も増えています。がんばります。



一般書籍

日本人とリズム感 -『拍』をめぐる日本文化論-」 樋口桂子

大当たり。今年読んだ本(計2冊)の中で最高の1冊。価格もガチガチの評論300ページで2200円+税は特価と言わざるを得ません。

リズム感とタイトルにありますが、この本で論じられているのはそれだけにとどまりません。第1章からいきなり日本人の「ものの聞き方」論が展開され、その後五感、稲作文化、カリグラフィ、ダンス、言語論、絵画論、こそあど、「なつかし」という語、と多用なテーマが絡み合いながら様々な観点から論じられます。一部疑似相関的な偶然の一致にすぎないのではと思うところもありますが、しかしこれだけ様々なテーマを先行研究を踏まえて論理的に一つの論にまとめあげているだけで脱帽です。

絶賛しすぎたので一つ難点を挙げておくと、一部構成が不親切なところがあります。そもそもリズム感をタイトルにしながら第1章のタイトルから「ものおとの気配」とリズム関係ない話だったり、第4章の1(1)が読解に「もの」論「こと」論への前提知識を要するのにその後の(2)で後出し的にそれらの通説がまとめられていたりと、読んでいる間はどういう気持ちで読めばいいのかわからない部分がややあったのは正直辛かったです。

とはいえ内容は非常に面白く、また個人的な話ですが、先週挙げた風姿花伝とリンクする部分があったのも楽しめました。「なつかし」についての論で世阿弥作の幽玄能が出てきた際、風姿花伝でその構成を知っていたおかげでそりゃ今引用されるわなという気持ちになり、この2冊を同時に読んだ甲斐があったのはうれしかったですね。

かなり歯ごたえがあるため時間泥棒ではありますが、興味がございましたら是非ご一読をオススメします。その際は、「第2章→第3章→第4章1(2)→第4章1(1)→第1章→その他を順番に」という順で読まれる方が構成としてわかりやすいかもしれません。


Web記事

数個読んだしここにまとめたいやつはあるのですが、「日本人とリズム感」の読解と漫画の分析と新作のテストプレイで疲れたので今週は勘弁してください。というか週末ならいつでもいいと言っていただいたのに、何故テストプレイを今日にしたのか。

ちなみに、オンラインでのテストプレイや拙作の試遊は現在大絶賛募集中ですので、ご興味がある方は私どもの広報twitterへとDMをお送りください。


それでは、お声がけお待ちしております。

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