符亀の「喰べたもの」 20201227~20210102

今週インプットしたものをまとめるnote、第十五回です。
本年もよろしくお願いいたします。


漫画

君のことが大大大大大好きな100人の彼女」(4巻) 中村力斗(原作)、野澤ゆき子(作画)

当連載第一回でも紹介した作品。「次にくるマンガ大賞2020」コミックス部門第2位おめでとうございます。

これだけ密度のある芸風で消耗も激しいでしょうに馬力が落ちないのが本当にすごいです。新キャラも濃いですし。あとこの巻収録の第30話をたまたま見つけて読んで購入を決めたので、個人的にもこの巻には思い入れがあります。

各ヒロインのキャラ造形も上手く、基本的にラブコメや美少女ゲームに出てくるヒロインのテンプレ属性から作られているため、新キャラが出るたびに「新ヒロインの属性×今までのヒロイン」で数話描けるのが強いですね。キャラが属性で覚えられるのでヒロインが増えてもごっちゃにはなりにくいですし、各話の中で納得感のある立ち回りもさせやすい。そしてテンプレの枠に収まりきらない濃いキャラばかりなので、そういう話の作り方をしても旧キャラも新キャラも個性が潰されない。

そこまでやっても原作も作画もしんどそうなこと以外、本当によくできた漫画だと思います。


葬送のフリーレン」(3巻) 山田鐘人(原作)、アベツカサ(作画)

同じく当連載第一回で紹介した作品。『このマンガがすごい!2021』オトコ編第2位おめでとうございます。

2巻までが勇者パーティーの他メンバーとそれを継ぐ者たちに焦点を当てていたのに対し、この巻ではフリーレンメインの話が多めです。最初は他のメンバーの話を中心にしてこの漫画のテーマを読者に叩き込み、そろそろフリーレン本人にも愛着がわいてきたところでそのエピソードを放り込む。やり口が上手いですね。

ただ1点、アクションの見せ場に動きが欠けているのは気になります。テーマ的に熱いアクションよりも決着後の余韻の方が決めゴマに向いているという判断かとは思いますし、今まではその通りだと感じていたのですが、戦士キャラが増えて近接戦も行うようになるとカタルシス不足な印象の方が強いかなという気もしました。ただこれは直前に「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」を読んだせいで劇物用の脳になってしまっていただけなのかもしれません。


MURCIÉLAGO -ムルシエラゴ-」(18巻) よしむらかな

大量殺人者ながら、凶悪犯罪者を殺すために”公的”殺人者として日本政府に雇われた紅守黒湖(レズ)。仲間と愛人を増やしながら、イカれた犯罪者たちと戦うバイオレンスアクションストーリー。

サイコパス、アクション、エロ、グロ、レズ、サスペンス、レズ、SF、レズセックスと、とにかく要素が多すぎる作品。故にエピソードによって(好みに合うかどうかという意味での)当たりはずれが大きいのですが、本巻後半の展開は私好みだったのでここにてご紹介。なお犯罪者の狂気とアクションを楽しみたい私的には、1、3、5、12~14巻あたりが好みです。

しかし軸が多すぎて求める要素が数巻出てこないのもザラな点、エログロが強く勧めにくい点、そして魅力的な犯罪者だろうとエピソードの主題を描ききったら雑に処理することがある点から、諸手を挙げて推しにくいのも事実です。この巻でも冒頭のアイツがメインキャラのかませ犬で終わったの正直不満ですし。1話のアイツの最期とかスゲエよかったじゃないすかアレ路線でやってくださいよ。

まあ18巻分も買って読んでる時点でやっぱり面白いんですけどね結局。とはいえ19巻が発売されたのにここで触れなかったらそういうことだと思ってください。


年末年始には結構時間が取れたのですが、一般書籍や仕事の勉強に時間を割いた分積読は崩せませんでした。一応大掃除で積読の把握と集約はできたので、じわじわと崩せればと思います。


一般書籍

NHK『100分de名著』ブックス 世阿弥 風姿花伝」 土屋惠一郎

第九回以来の100分de名著シリーズ。室町時代に能を大成させた世阿弥が、子孫にその奥義を伝えるために書いた書「風姿花伝」についての巻です。

この本ではその内容が現代の我々の生き方にも通じるとして紹介されていますが、その一般化は少々危険かと思う点、およびそういう読み方をすべきなのは私より上の年齢の方(何かを成した、または成すべき年を過ぎようとしている方)かと思ったため、私はそういう読み方では読みませんでした。原著を当たればまた意見も変わるかもしれませんが、一旦は距離をとっていいものなのかと思っています。

ですが誤解されている世阿弥の言葉への再解釈については、現時点でも腹に落ちるところが多かったです。三つの初心(若さだけでは戦えなくなってきた際の是非初心、全盛期になり後は落ちるだけとなった際の時々初心、衰えた際の老後初心)という新たな壁にぶつかったときの心構えこそが、「初心忘るべからず」の初心であること。奥義をここぞというところまでは隠しつつも死蔵はせず、むしろ次の秘策を用意してこその「秘すれば花」であること。そもそも世阿弥の言葉であるということすら知りませんでしたが、これらの訓戒は若造の間に頭にたたき込めてよかったと感じました。

またゲーム製作者的には、第3章で述べられている呼吸についても感じるところがありました。近年コロナ禍によって試遊が制限され、オンライン上で対多式のアプローチを一応は模索していたところではありますが、その過程でお客様、もっと言えば他プレイヤーとの呼吸を合わせてゲームメイクをすることを忘れかけていたのかもしれないと思ったからです。まだ具体的にどう変わるべきかは見えていませんが、このコロナ禍という新たな壁に対して「初心忘るべからず」でいきたいと思います。


現在もう1冊読んでおり、テーマ的に「風姿花伝」と合わせて紹介したかったのですが、ガチの学術的内容な上にボリュームもなかなかなために半分しか読めませんでした。来週までに読み切ります。


Web記事

[翻訳] BioNTech/Pfizer の新型コロナワクチンを〈リバースエンジニアリング〉する

新型コロナワクチンがどういうデザインなのかをコンピューターエンジニアリングに例えつつ解説した記事、その邦訳です。

コンピューターに関する部分は読み飛ばしても問題なく、「mRNAワクチンをデザインすること」がどういうことなのかがわかりやすいうえに読みものとしても面白いのでオススメです。ちなみに私の本職はDNAも扱う錬金術師なのですが、その観点から見て明らかな誤りはないと思います。まあ原文は見てないんですけど、正直なんかミスがあったとしても我々に関係ある有害なデマにはなりえないはずなので気楽に紹介させてください。


というわけで、家にこもっているとWeb記事読むより本を読むせいで今週紹介するWeb記事は1本だけです。というか全体的に冊数が少ないですね。やっぱしっかりした本を読むのはブログ書く目的だけだとコスパ悪いです。

と言いつつ、実は新作の準備を進めていてそっちに時間を割いているというのも思ったより冊数が減っている理由ではありますので、是非そちらも楽しみにしておいていただければと思います。結構面白くなりそうですよ。

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