符亀の「喰べたもの」 20210606~20210612

今週インプットしたものをまとめるnote、第三十八回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

miroirs」 白井カイウ(原作)、出水ぽすか(作画)

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シャネル創業者のガブリエル・シャネル氏をテーマに、「約束のネバーランド」のコンビが描いた3篇の短編集です。

ココ・シャネル本人を描いたかに見える1本目、「シャネル」というテーマの扱いが作中で変化する2本目、男性が主人公の3本目と、この3本をこの順番で配置するのがまずすごいです。「シャネルとのコラボで短編描いて」って言われて3本目は描けないでしょう普通。そしてそれ描く人が1本目をちゃんと普通っぽい入口にできないでしょう普通。

作画も素晴らしく、仕様を使ったギミックもさることながらシンプルに漫画が上手いです。その辺りを解説したインタビューが巻末に載っているのもありがたいですね。

個人的に、3本目ラストの2人の格好が好きです。詳細は是非ご自分の目でお確かめください。


さよならじゃねーよ、ばか。」 あきやまえんま

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姉がゾンビになった少年、愛犬を亡くしたOLなど、「おいてけぼりな愛」(帯文より引用)を集めた短編集です。

「おいてけぼりな愛」というテーマが最高です。色々な切り口で多様な作品が描け、しかし一つの方向性としてまとまっている。読者が展開の予想を立てやすく、しかしバッドエンドだけでなくビターにもトゥルーにもできて、その説得力ももたせやすい。上手いテーマです。

その上で、本作は感情の表現が非常に上手いです。マンガ的な描き方も、絵だけで見せる方法も、どちらも上手いです。もう上手いしか言っていない。

今後キャラの感情表現に迷ったときのお手本にしたいぐらいです。というか多分します。


RAIDEN-18」 荒川弘

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各パーツ最高級の死体で作られたフランケンシュタイン的怪物ライデン18号が主人公の、アクションコメディです。

鋼の錬金術師」の作者が描いていることもあり、ギャグの密度や火力、キャラ設定の濃さにわかりやすさと、漫画の上手さがひしひしと伝わってくる作品です。まあ第一話が2005年掲載なので、やや古い印象はありますが。

その上で、主人公に目標のような動機がなく、各話が終わっても一件落着以上のものが得られないのは気になります。通常こういうキャラはキャラ造形的にアウトなのですが、それでも面白く読めるのが氏の上手さなのか、とはいえ1巻通してだとやはり違和感が出てしまうとみるべきなのか。ボードゲーム的にも、キャラは設定を練るだけで動機はプレイヤーが持つはずだからいいのか、それともキャラに動機を与えたうえでそれをプレイヤーのものと一致させるべきなのか。考えるべき内容が一つ増えた、という印象です。


ダイロクセンス」(1巻) 長門知大

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五感を通じ、死者が死の瞬間に感じたことの追体験ができる特殊能力を持つマジシャンの少年。たまたま事件に居合わせたことで彼の力を知った女性刑事に連れられ、彼の力は不可思議な事件を解決していく。

「五感のどれかが感じられる」という設定が上手く、物語的に都合のいい感覚を「見た」ことにできるので作話の幅が広がっています。バディ役の女性刑事も、怪力というシンプルにわかりやすい個性を持っているのがいいですね。その分他の同僚たちのキャラが薄く感じますが、それは今後連載が進むにつれ深堀りされていくのでしょう。楽しみです。


相続探偵」(1巻) 西荻弓絵(原作)、幾田羊(作画)

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相続案件専門の探偵が、遺産相続に関する謎と死者の声を解き明かすミステリーです。

ミステリーものなので詳しく書けないのですが、1エピソード目の予想の裏切り方が非常に見事でした。さすが「SPEC」シリーズの脚本家さんが原作やってるだけあります。


磁力で想う君の事」 村越達

男女の間に発生する奇病「磁力病」により、近づくとくっついてしまうようになった幼馴染を描いた読み切りです。

読み切りで重要なのは起承転結の転だと思うのですが、この作品はそこで新要素を加えず、「磁力」というテーマをそのまま転に使っているのがいいですね。おかげで作品が完全に一本の筋で貫かれていて、何の話だったのかがわかりやすいです。


ゆけ!日果さん」 井戸畑机

ひたすら決められた日課をこなす日果さんが、それを心配する母親の勧めによって南極で働くことになり…という読み切りです。

これについても上手い点や語りたい点はあるのですが、この方の一連のツイートがあまりに高い洞察力を発揮しており、かつそれらの8割に気づけなかったので今日は閉店です。もうここ書いてる時点で3時半ですし。


今週は、なぜか短編集とミステリー系ばかり読んだ週でした。むしろこういう1本どんっとお出しされるタイプの短い作品の方がボードゲームのような他メディアに応用できるポイントを探しやすいような気もするのですが、そういう観点でちゃんと食べられた作品は少なかったですね。こんな週もあるということで、許してください。


一般書籍

花鳥風月の科学」 松岡正剛

花鳥風月をはじめとする、日本文化で重要な十のテーマに触れながら、その中のいくつかのイメージの起源と変遷をさぐる本です。第三十四回で挙げた「あの人が好きって言うから…有名人の愛読書50冊読んでみた」で登場し、気になって拝読した一冊です。

まずこの本、非常に読みにくいです。確かに記載されている内容は面白いですし、筆者の博覧強記っぷりは否応なく伝わってきます。しかしあくまで個人の感想ではありますが、書物としては☆0(評価不可)を付けたいぐらいにダメだと思います。そのダメさは、まとまりの無さに起因するものです。

この本は、各章のテーマに対する事例を列挙しつつ時折筆者の考察が入る、そういう構成で進行します。しかしそのほとんどが、論旨や構成における役割が不透明で、何が言いたくてそれが挿入されたのかがわからないまま進行するのです。一応最終章の冒頭でそれまでの流れはまとめられていますが、そこまで381ページ(文庫版)の間、ただただ事例の列挙に耐え続けないといけません。はっきり言って苦痛です。

これについて、この本はあくまでテーマごとに様々な角度から事例を集めた考察の種のようなものであり、それに役割を与えるのは読者自身であるという意見もあると思います。しかし残念ながら、この本はそういったリファレンスとしての性能も高くありません。それを語るために、少し本書のタイトルについて脱線します。

本書のタイトルに「科学」とありますが、これは表題詐欺、いやミスリードだというべきでしょう。この本では確かに自然科学に関連したエピソードや理論が取り上げられていますが、9割方は人文科学、というよりも歴史学に属するものが挙げられています。確かに人文科学も「科学」ではありますが、「この手の本にはめずらしく科学をめぐる話を」取り上げたという記述から、この科学は自然科学を指すと思われます。そして最大の問題が、この本の書き方は科学的態度、少なくとも自然科学的態度に反しているのです。

自然科学で最も基本な考え方とは、「仮説を立てて検証する」ことです。しかし本書では、仮説を立てた後検証する、つまりその仮説に合った事例が挙げられることが一度もありません。これは少し語弊があり、例えば「『山』というものを見るときの概念の母型というか、(中略)イメージの母型のようなものもあるはずだと考えたい。」と述べた後に須弥山の話をもってくるなど、それに準じた構成もあります。ですが、では須弥山が「概念の母型」になったと考えられる例、例えば須弥山の模倣が作られるようになった時期以降に山に関する歌にそれ由来と思われるキーワードが出た、などは挙げられていません。これでは、「須弥山が山のイメージの母型の一つである」というのも仮説にすぎず、結果科学的には何も示せていません。

もちろん、この評論は流石に厳しすぎると思いますし、これを各テーマにやっていたら全十冊以上は必要になるでしょう。しかし、表題のせいで科学的な論理構造を期待し、「主題」を取り違える可能性は十分あると思います。

そして、このように十分な検証がなされていない仮説が随所にみられるのが、本書をレファレンスとして使いにくくさせています。そこらじゅうに「ただの仮説」が転がっているため、事典として使うには信頼性が欠けるのです。特に、本書では「Aの語源がBであることより…」といった記述が頻出しますが、それが本当に史料からそう考えられるのか筆者が音の類似からそうだろうと思っているだけなのかが不明で、毎回リテラシーが問われます。歌や伝承以外は出典があまり明記されていないのも、自分で調べようとする際のハードルを上げていますし科学的に問題です。なお自然科学的内容には一部専門外の人間にもわかる誤りがあり、これも事典的使い方がしにくい一因ではあります。ですが、これは本書の初版が2004年、文庫化前に至っては1994年に出版されたものであることを考えると、当時はそれが正しいとされていたのだとと思われるので仕方ないでしょう。

ここまでくると愚痴に近くなりますが、おそらく書いた後に読み返していないと思われる部分がいくつかあるのも腹立たしいです。ですます調とである調が入り混じっているのはかわいいもので、最悪の場合「スサノオの話のところで『スサビからスキへ』という展開の系譜をざっと説明した」とあるのに該当部分では「『荒れるスサビ』から『遊ぶスサビ』へ」までしか書かれていないという事実上の嘘まであります。これらで地味に信頼感が失われていくことで、上記の検証されていない仮説がますます怪しくなり、本書の論旨そのものも疑わしくなっていきます。あと単純にストレスが溜まります。

ボコボコに書いたのでフォローを入れます。挙げられている内容には面白いものが多く、筆者の知識量におののく程です。一部明らかに思い出したからや気に入っているから入れただけのエピソードもありますが、多面的に日本文化を考えるという意味ではとにかく事例を挙げるというのも一つの正解なのでしょう。時間や労力に見合ってはいないと思いますが、お金的には十分得で読む価値があったと思っています。フォロー部分にも愚痴が入っているぞヤバいヤバい。

最後に。本書の前書きには順番に読んでほしいとの旨が書かれていますし、後書きにすら同様の内容が載っています。ですが、巻末のいとうせいこう氏による解説だけは先に読むことをオススメします。本文中では明確に語られなかった本書を通してのテーマが簡潔にまとめられており、それを元に読めば各章の役割や立ち位置を見つけやすいと思います。まあ、これだけで2400字書けるぐらいには濃くて惜しい本でしたよ。


Web記事

NKODICEが軽く炎上した件(前篇)

NKODICEの配信を事務所に止められたVtuberが作った二次創作ゲームの配信を見た原作者さんの感情と、それを吐露した結果炎上した経緯とをまとめたnoteです。

「本質の一部が欠けてしまった」部分について、これは言ってしまえば、その「本質」が高クオリティな二次創作をするレベルの人にすら伝わっていなかったことが原因であると思います。ですがそれをもっとわかりやすく前面に押し出したり、説明文にちょろっと書いておいたりするのは違うと思うんですよね。この「本質」をどう伝えるべきかは難しい問題で、私ももっと向き合うべき問題なのかと思います。


カルタマリナという斬新じゃないゲームをつくった理由。

今後「斬新さ」が求め続けられることがないよう、あえて斬新でないゲームを作ったという内容のデザイナーズノートです。

この「求められるもの」についての問題は私も考えており、そういうゲームしかもう作る気がほぼないのに今も「新システムを開発するサークル」とか名乗っていないのも、これが理由です。その上で私は別の理由からブランディングも避けているのですが、ではそうした「求められるもの」を前面に押し出さず、かつ作者が前面に出て作者のファンになってもらったりブランドのファンになってもらう以外に、ゲーム制作と販売の継続性を生む方法はないのか。それが現在の課題の一つで、まとまったらなんかいい感じに共有したいと思っています。逆になんかあったら教えてください。


今更『アークナイツ』というゲームに恐怖した話

今週のウマ娘枠。ではなく今回は「アークナイツ」について。

こういう期待感というか、作り込まれていそう感をどうお客様方に持っていただくか。これも、今考えている課題です。

見ていると、「いろんな商品で、売れるために俺の見たい部分が切り捨てられている」「でもこの作品はそこに力を入れている!」という2点が重要な気がしているのですが、たぶんあと2つぐらいピースが足りないと思うんですよね。もう少しインプットを重ねたいところです。


最初に「花鳥風月の科学」のクソ長書評を書いたせいで、時間配分を間違えてこんな時間(午前4時)になりました。順番に書いてればあれ600字ぐらいでさっと流したと思うんですけどねー。ミスりましたねー。ムカついてましたからねー。いや時間と体力が無限にあるならいい本だと思うんですけどね。ねー。

ですがそのおかげで今週は、地に足をつかせる大事さというか、今どこにいるのかを消費者側に理解しながら進んでもらう重要性を学べました。ボードゲームでも、ただ漠然とゴールが見えていないといけないとか自分のアクションが有効かわからないといけないとか言われるだけで、もっとそれを広い視点から見て重要性を説いているのはあまりない気がしています。そこがより基礎的な理論から掴めたのは収穫かなと思います。

あとは、ちょうど昨日配信されたFGOの6章が面白くてですね。今までの積み重ねがあるからとは思いますが、期待感の煽られっぷりが半端じゃないんですよ。ではそれを受けて、一体どうすれば、積み重ね無しな状態からでもそれに近い体験をしてもらえるだろうか。それを考えるためにも、さっさと切り上げて布団入って明日の朝続きやろうと思います。おやすみなさい。


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