「以上。」
「以上。」
と言って彼は再びテレビの方に体を向け、ゲームの続きを始める。
私は考える。
彼の言葉。
私は思い出す。
楽しかったこと。
嬉しかったこと。
寂しかったこと。
悲しかったこと。
楽しくなかったこと。
嬉しくなかったこと。
振り回されっぱなしだったってこと。
今も振り回されっぱなしだってこと。
テレビでは鎧を身に着けた青年が、大きな剣を振り回している。
テレビでもか。
青年の隣には、ステッキ的なものを一生懸命振りかざしている女性がいる。
彼の話によれば、彼女は体力を回復させる魔法が使えるらしい。
彼女がステッキ的なものを振りかざすたびに、
青年の体がキラキラするのがそうなのだろうか。
私はゲームに興味がないからよくは分からないが。
青年たちは世界に蔓延る悪を倒すために立ち上がったらしい。
確かに凛々しい正義たる顔だちをしている。
彼女も?
青年をキラキラさせることが自分の役割だって?
自分の命を賭してまで?
彼が小さく舌打ちをした。
どうやら彼女のステッキ的なものを振りかざすタイミングが悪く
青年がピンチを迎えているらしい。
私はイライラしてきた。
彼の座るクッションの横に置いてある
ゲーム機とつながっているもう一つのコントローラーを手に持つ。
「これ二人で一緒にはできないよ。」と彼が言った。
違う。
私は彼女を解放してあげるのだ。
このコントローラーを使って。
青年をキラキラさせることが彼女の幸せではないはずだと。
なんてことを心の中で呟いていると、彼。
「あ、でもいいねそれ。持っててよ。なんか強くなった気がする。」
いつもこうだ。
青年が大きな剣を振り回すと、ドラゴンが悲鳴を上げながら倒れた。
どうやら戦いに勝利したらしい。
青年たちの旅は続く。
「以上。」以上の言葉を発していない彼の真意は分からない。
結局
いつもこうなんだ。
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