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音と色の世界

 そこは歩いても歩いても緑色の世界だった。大夢(ひろむ)は立ち止まった。ここまで来れば余計な音も聞こえてこないだろう。ケースを置き、中にあるバイオリンを取り出した。大夢はゆっくりとバイオリンを構えて奏で始めた。

 ドは赤。レは黄色。音に色がつけられていく。色はつながり混ざって夕やけを描いていく。しかし、混ざった音はだんだんと黒くなり始めた。大夢は色を取り戻そうと弓をゆっくり動かすが、黒はどんどんと濃くなって緑色の世界までもが変わっていきそうだった。その時。
「ピューイピューイ」
どこからか音が聞こえた。その音はまだ何も加えられていない純白だった。音は混ざり合い、白は広がる全て色を穏やかに、優しい色に戻していった。

 大夢はバイオリンを弾く手を止めた。緑色の世界が戻ってきた。視線を感じ、ふり向くと、黄緑色の小さな鳥がこちらを見ていた。
「ピューイピューイ」
小鳥はうれしそうに首をコクコクさせながら鳴いた。
その口からは、白い音符が跳ねて出てくる。
「君はキレイな色を出すんだね」
大夢は静かに小鳥を見つめて言った。小鳥は不思議そうに目をパチクリさせた。
「期待に答えないといけないのに……音がキレイに見えないんだ」
大夢は暗い顔をしてつぶやく。
「もっと楽しもうよ」
「ピューイ」という小鳥の鳴き声がそう言っているように聞こえた。大夢はハッとした。楽しむということを忘れていたのだった。大夢はうなずき、再びバイオリンを奏で始めた。

 ソは空色。ラは紫。日がしずんでいく空をキレイに描いていく。それぞれの色は跳ねながら楽しげに混ざり合っていた。

 大夢は笑顔だった。そしてまた、緑色の世界の中を歩き出した。歩いても歩いても変わらなかったその景色から、新たな希望の色の世界が開き始めていた。

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