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狩りは一途に恋の矢の如く

「鳥」は光を遮り、灰を落とした。街に死を振り撒いた。だから嫌われた。
街の人間は誰も「鳥」を見ようとしなかった。でも私は見ていた。ずっと見ていた。何故だか飽きなかった。
だからだろうか。その人が現れたとき、私ははじめ彼を鳥だと思ったのは。
「『鳥』が好きかい」
彼は私にそう声をかけた。だから人間だとわかった。
見てて飽きないの。
私はそう答えて彼を見た。彼が纏った長い襤褸は鳥の尾羽のように長く、その背中には翼のようなものが見えた。
「そうか、やっと見つけた」
言うが早いか彼は背中の翼に手をやった。翼に見えたものはあまりに巨大な弓だった。
彼は弓に矢をつがえ、目にも留まらぬ早さで私を打ち抜いた。
目を閉じた。何も感じない。
ゆっくり目を開けると、私の胸に奇妙な矢が刺さっていた。不思議と苦痛は無い。
直後、矢は溶けるように私の身体に吸い込まれた。
彼は言った。
「どうやら両思いだ」
私は驚いて彼に尋ねた。
あなたは誰で、何がしたいの。
「私は狩人だ。奴を狩る為に来た。その為に君の恋が必要だ」
狩るってことはあれを殺すの。それは…その。嫌よ。
「大丈夫だ…狩りとはそういうものではない」
私は不思議と少し安心した。
突如、私は浮遊感を覚えた。空に、「鳥」に…引っ張られている?
「…恋は引力。君の恋を少し分けてくれ」
彼が私の手を取った瞬間、私と彼とはふわりと宙に浮いた。私は直感的に理解した。あの「鳥」のもとへ二人で飛んでいくのだ。不思議と胸が高鳴った。
「共に君の恋を叶えよう。私と共に奴を狩ってくれるか」
私は何故か彼を信じて、頷いた。
「そうか、ありがとう」
次の瞬間、私達を迎えるように何かが「鳥」から向かってきた。その影は狩人に似ていた。
「そうだ、言い忘れていた」
彼は飛びながら再度弓に矢をつがえ…放った。
その影に矢は当たった。それと同時に、何かの弾が彼の頬を掠めた。
「『恋敵』には注意しなくてはね。奴を狩れるのは、たった一人だけさ」

【続く】

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