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延命治霊

「ですので、貴方にはこれより違う人生を歩んで頂きます」
目の前の怪しげな男…霊能者の説明は妙に的を射ない。そもそもおかしい。何故いかにもな霊能者野郎の隣に白衣のオッサンがいるんだ。不自然すぎる。それも俺は寝起きだ。ただの寝起きじゃない。「永遠の眠り」から覚めたところなんだ。
「あなたが寒い中外で寝ていて凍死した浮浪者な事は分かっています」
悪うございました。私この度クソ社長のせいでクビになりまして貧困で家を無くし、厳冬の野外で一夜を明かそうとしたらそのまま目覚めなかったんでございます。とにかく人を起こしておいて何の用だ。
「ですから!この度私達はあなたに栄誉ある職を与えて差し上げようというわけです…柏原さん、説明を」
白衣の男が前に進み出る。
「えー…貴方にはこれから新たな身体で新たな人生を歩んで頂きます」
だからどういうこったよ。事情を説明しろ。
「この度我らが大学病院は大スポンサーたる大企業の大社長の大手術を行い…大失敗しました。患者は死亡」
何てこった。藪医者じゃねぇか。
「70の御高齢とはいえ大企業の社長でスポンサー、医療ミスで殺したと知れれば死体の数が何倍にもなるかも知れません、そこで」
…まさか。俺がそいつの死体に取り憑いて、そいつの代わりをしろっていうのか。
「話が早い。社長は先月引退済みです。財産も豊富。貴方は目一杯贅沢を楽しんで、満足したら成仏すれば宜しい」
「生前貧しい浮浪者だったのでしょう貴方は、手に入らなかった老後が贅沢な形で得られるのだから悪くないのでは」
そう言われるとそうだ。あのクソ社長のせいで人生の全てを奪われたのだから、少し位幸運があっても構わないだろう。
よし引き受けた。で、そいつはなんて奴なんだ。
「神宮寺敏彦…神宮寺株式会社の社長です」
名前を聞いた途端俺は嫌なエクトプラズムが吹き出た。野郎、俺をクビにしやがったクソ社長だ。

【続く】

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