「円のデジタル化」とはなにか

ここでいう「円のデジタル化」とは、要は、日銀(もしくはデジタル通貨を発行する新しい公的機関)が、インターネット上で、誰でもアクセス可能な電子台帳をつくり、送金可能な預金サービスを提供することだと思います。

そのためには、電子台帳が改変されないようなセキュリティの確保と、マネロン対策として利用者の本人確認を誰がおこなうのかが、とりあえずの課題になります。

前者は技術的な課題なので、日本単体で考えられる話ですが、後者は、利用者の居住国の金融規制に服する必要があります。そのため、「円のデジタル化」は、各国利用者に日銀が直接提供するリテールサービスではなく、各国の決済サービス事業者が日銀のオンラインデータベースにアクセスするようなホールセールサービスになると思います。

いまの邦銀がインターネットバンキングなどのシステムの構築先として、米系企業のクラウドサービスであるAWSを使っているのにちょっと似ています。発展途上国としては、海外の中央銀行が安価で信頼性の高い決済システムを提供してくれれば、システムコストを節約できるので、自国通貨建ての台帳を、日銀が提供する「デジタル円」のデータベースの上に作れれば、利用するかもしれないですね。それぞれの国に国家主権へのこだわりがあると思うので、円建ての台帳を利用することまではしないと思います。

そういうサービスを日本が海外に提供するメリットとデメリットはなにか、というのは整理が必要です。

また、海外の中銀と共同でインターネット上の電子台帳をつくろうとする場合、信頼性や各国金融規制との親和性の面でメリットはありますが、複数の国が関わると意思決定に官僚的な手続きがどうしても必要になるので、運営面での効率性は落ちる問題があります。現在の国際銀行送金手数料より安く国際送金を行えるかどうかは、本人確認に係るコストをどれだけ下げることができるかが重要だと思います。