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YCCを続けるべきか、止めるべきか

2016年1月に日銀は、日銀の政策金利である無担保オーバーナイトコールレートの誘導目標値をマイナスに設定した(いわゆる「マイナス金利」の導入)。

その後、長期金利(10年物国債金利)の値が大きくマイナスになり、長期金利が短期金利を下回る逆イールドが発生した(図参照)。

日本の政策金利と長期金利(2022年3月まで)

この現象を金利の期間構造の観点から解釈すると以下の通りになる。(ちなみに金利の期間構造とは、債券市場における裁定行動により、長期金利と、現在から長期金利の年限までの将来の短期金利の期待値の平均が等しくなるという理論。)

マイナス金利導入以前にすでに導入されていたフォワードガイダンス(解除条件付きでの将来の政策金利の値へのコミットメント)では、政策金利の下限が0%であることを前提に債券市場参加者の将来の金利水準の期待値が形成されていたが、マイナス金利の導入で政策金利の下限が外れ、将来の金利水準の期待値が下振れすることが可能になった結果、長期金利もマイナス領域へ大きく下振れした。

このように考えると、2016年1月のマイナス金利導入後、同年9月に導入されたYCCは、マイナス金利の下限を明示的に設定する代わりに、長期金利の水準そのものの目標値を設定して、マイナス金利下での逆イールドを防止する試みと解釈できる。

現在のように海外の長期金利が上昇し、金利の先高観の発生から国内の長期金利にも上昇圧力がかかる局面では上記のYCCの効果はなくなるので、理想的には、YCCをマイナス金利とセットで考え、長期金利の下限値のみを設定するものとして定義したほうが、運用は容易になる。

現在の米国の政策金利上昇に伴うドル高の状況では、日本の長期金利が海外市況と連動してショックを吸収してくれた方が、円の為替レートの変動幅が減少し、より安定的なマクロ環境で、国際的な原材料価格高騰に伴う国内での物価上昇及び賃上げを誘導しやすくなる。

とはいえ、日銀の立場を想像してみると、YCCを解除してしまうと金融引き締めと捉えられて、過去に発生したような過度な円高や、国内の値上げ・賃上げの動きの縮小につながる恐れを拭いきれないのが悩ましい。この点は、YCCの対象金利の年限を10年から短くしても解決しない。

もし金利の先高観が出る中で、長期金利のショックアブソーバーとしての機能を復活させたい場合には、現状のYCCのような長期金利値への明示的な(ハードな)コミットメントから、「過度な長期金利の上振れについては機動的に対応する」というような質的な(ソフトな)コミットメントへの転換とともに国債購入額の量的なレンジへのコミットメントを再導入するようなYCCのハイブリッド化を行うと、市場参加者から金融引き締めと捉えられずにYCCのソフトランディングを行うことが可能になるのではないかと思った。