日銀が国債を買うと政府の借金はなくなるか

なくなるという意見が結構あって、だから政府がどんどん財政支出をすればいいという人がけっこう多い印象です。今回の新コロナウイルス危機で一律の数十万円の給付や休業補償を主張する人などにもいますね。

政府が民間銀行に国債を売って資金調達し、財政支出をした場合には、以下のような債権債務関係が発生します。(矢印は貸し手の権利の向きです。)

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日銀が民間銀行から国債を買った場合は、次のようになります。

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どちらの場合も、政府が支出したお金を最終的に受け取った人が政府への実質的な貸し手になります。なので、日銀が国債を買っても買わなくても、政府の借金は消えません。日銀が国債を買うことの効果は、民間銀行が、満期が将来の一定の期日にくる国債の代わりに、満期が最短(要求払い)の当座預金を保有するというだけです。(通常時の日銀は、民間銀行が国債の購入を渋って金利が上がった場合、日銀は金利をコントロールするために国債を買います。)

もし図の右にある最終的な政府への貸し手がずっと貯蓄をしてくれればよいですが、貯蓄は将来支出するために行われるので、政府が経済の成長スピードを超えて財政支出を増やし続けると結局インフレが起こります。この場合、資産を海外に逃がすことができない普通の人達の資産の価値(購買力)が大きく目減りすることになります。歴史をみると、このタイプのインフレは政府の意図を超えて高くなることが多く、しばしばハイパーインフレとなって経済を破壊します。

MMT(Modern Monetary Theory)が以前流行したときに言われた通り、日本では政府の財政支出が1990年代以降増えつづけてもインフレは起きませんでしたが、だから問題はないかというと二つ問題があって、一つは政府の財政支出には無駄が多くて、その国の経済を非効率的にする点と、もう一つは、国債残高が増えると、民間投資を増やさなくても、若い人が銀行を通じて国債を持てば、ライフサイクルで必要な貯蓄ができるので、民間の投融資先を開拓するインセンティブが弱くなることです。その結果、日本が1990年代以降に経験した通り、経済の活力が失われます。

なので、政府の財政支出については、

・将来への投資で政府支出が必要なもの(教育・科学技術への投資など)には、国債の残高に関わらずしっかりと支出する。
・将来への投資でないもの(今回の休業補償や医療・介護への支出など)は、各世代の中できちんとリスク分担し、余裕のある人が税金を払って政府支出の原資とすることで、国債残高が積み上がるのを避ける。

とよいと思います。だれが財源を負担するのかの議論をせずに「給付」、「補償」、「財務省が悪い」と叫ぶのは、悪を成敗するようで気持ちがいいですが、国債の基本的な仕組みを誤解しており、日本経済が衰退につながる道だと思います。

追記:アメリカも膨大な国債残高を持つにかかわらず、それなりに高い経済成長を実現してきたので、日本の経験とは反対のようにみえますが、アメリカのドルは国際基軸通貨なので、米国債は世界中から安全資産として需要される点が違います。よって、すくなくともここまでのアメリカでは、米国債残高の積み上がりが米国内での民間投融資を停滞させはせず、逆に、ドル資産への海外からの需要により、海外資金の流入が米国での投融資を支えてきました。