高校の数分間
わたしの通った高校は総合学科だった。
一年は皆同じ教育を受けて、2年生から自分の選ぶ学科に分かれることができた。
私は生活福祉科と言うのにした。
勉強は好きではなかったし、進学する理由もなく、卒業後は働くと決めていたからだった。
何をするか深くは知らなかったけれど、生活に役立ちそう、と思いその学科にした。
実際役立つことも多く、この学科で学べて良かったと思う。
学科によって必須科目は多少異なっていて、たくさんの選択科目の中から自分がより学びたいものを厳選して残りの2年間はそれに取り組むことができた。
皆が共通で、音楽・美術・書道からひとつ選ぶことになっていた。
私の学科は選択科目の中に数学、古典、地理、倫理、地学、英語などがあったと思う。
選ばなかったので、高校では殆ど数学をやっていない。
倫理や地学や英語を選び、変わった先生に教わったため楽しく授業を受ける事ができた。わたしは勉強が嫌いではなくなり、3年生になる頃にはクラスでも上位の成績だった。
4クラスあって殆ど接点のない同級生も多かったけれど、選択した科目のクラスだけ一緒になる同級生もいた。
私はその中でもよく思い出す同級生が一人だけいる。
本当にその地学のクラスでしか接点がなかった野球部の小柄な青年。
慎ましいと言うか本当に喋らないひとだった。これは偏見だが、野球部なのに?といつも思っていた。
地学の先生は席替えをしない人で、彼はずっと隣の席だった。
「犬飼ってるの?」
覚えている限りだと彼の方から話しかけられたのはその一度だけだっと思う。
他の会話は周囲の同級生を含めた討議だったり、一言あって返事、と言うようなものばかりだった。
わたしは話すのが嫌なのだと思い、話しかけないようにしていたので、そう言われた時は本当に面食らってしまった。
そして卒業して5年経った今でも、可愛い動物に触れるたびにその時のことを思い出している。
彼はリスザルに似ていた。
容姿や体つきが似ている。
そんなに小さいわけではないのに、静かさのせいか私にはとても小さく見えたし、顔がどことなくリスザルだった。
性格は穏やかで、優しく落ち着いていたイメージがある。
そんな彼から急に
「犬飼ってるの?」
と話しかけられた。
なんで知っているんだろう、などとは考える余裕もなく平静を装って
「飼ってるよっトイプードル」
と返した。
「かわいい?」
「かわいいよ〜犬派?猫派?」
当たり障りのない質問をしたつもりだった。
「動物苦手なんだ」
「えっ、」
それはそうか、と思った。
そう思いつつ心から驚いていた。
あれだけ可愛くても、みんなが好きと決めつけるのは違うのだ、と学んだ。
けれど、わたしは小さな時から犬やウサギを飼っていたし、野良猫に名前をつけてご飯をあげていたし、雛鳥が落ちていたら拾って世話するような家庭で育っていたので、苦手、の意味がよく分からなかった。
「苦手…??!」
あからさまに驚いてしまったかも知れない。
「可愛いっていうのは僕でも分かるんだけどね、動画とか写真とかで見ると凄く可愛いって思うんだけど、」
可愛いのは分かる、ここら辺からわたしはこういう話が好きだなと思いながら話を聞いていた。
「なんか分かるかな、怖い、可愛いから?潰れてしまいそうって言うか、、触るってなると全然違くて、苦手っていうか怖いっていうか、」
命を預かることへの意識がとても高いのだと思った。
彼は一人っ子で動物を飼ったことがないと言っていた。
お祭りで取ってきた金魚は飼った事があるけど、世話をしてすぐに死んでしまってからは、もう金魚掬いもしていないし飼いたいとも思わなくなったと話した。
虫もその対象ではあるらしいけれど、ふわふわした生き物は特にダメらしい。
これを聴きながら、多分わたしの目はかなり輝いていたと思う。
人間の感覚の違いの面白さに触れたのはこの時が最初だったかも知れない。
これからもまた思い出すと思う。
記憶に残るのは、意外と思いもよらない場面だったりする。たくさん話して、もっとこういう事を発見しておけば良かった、と思う事がよくある。
また数年後全く同じことを言わないようにしようと、わたしは最近積極的に話す事にしている。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?