父性に触れる
その日も何となく売春して、何となく遊ぼうと思っていた。
たまたま繋がったおじさん。自分の家でもいいかと聞いてきたので、ゴミ屋敷じゃなければいいよと答えた。
東京タワーのすぐそばのマンション。
おじさんは離婚したらしい。ベッドが2つある。
やることやったら泊まっていい?と聞いたら快諾してくれた。
その日は不思議なくらい眠れて、おじさんに起こされた。
おじさんは何やら真面目な顔で、このままじゃ良くない、身元引受人になるから実家に電話しなさいと提案してきた。
さっさと実家に寄って警察署で捜索願いを取り下げて貰い、在籍だけあった高校を辞めてきた。
おじさんは戻ってきた私に銀行の口座を作ること、アルバイトをすること、と約束させて合鍵をくれた。
銀行の口座は作ったもののアルバイトなんてやってられるか!とすぐやめた。有名大学の近くでミテコがジロジロ見られながら働くのは惨めでしかなかった。
なので携帯というアイテムを手に入れた私は、それまでの定期を回しながらおじさんの家に帰る。
おじさんは全部わかっていても、私の下着まで洗ってくれる。最初の一度だけで、あとは手を出されなかった。
休みの日には手料理をしてくれたり、たまにピザの出前も頼んでくれた。
やった事がなかったゲームに夢中で、朝までやっていたら叱られた。
だけど出て行きなさいとか仕事しなさいとかは一度も言われなかったし、日用品も揃えてくれた。トニックシャンプーでいいよ!と言うと、せっかく髪の毛綺麗なんだから伸ばしなさい、と教えてくれた。
何でヤらないの?と聞いたら、最初の日に私を起こそうとしたら、私が、お母さん?と言ったらしい。
その話をしてから口を聞かなくなった。荷物を纏めていたら察知されたのか、鍵は置いていかなくてもいいからね。と、2万円渡された。
鍵は置いていった。
他人にも父性は生まれるらしい。
ただ、当時の私にそれは重過ぎた。
罪から逃れたかった。
もしあなたの目に触れていたら。
あの時拾ってくれてありがとう。
そして、ごめんなさい。
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