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[log]ひとりぼっちで泣かないで


「はぁ・・・」


部屋にたどり着き、ベッドに身体を投げ出して大きなため息を吐く。

これ以上ないくらいに重大なミスをして、これでもかってくらいに怒られて、挽回するチャンスすら与えられないまま、半ば強制的に帰宅させられた。


悔しいのと情けないのと疲れたので、本当に頭も心もいっぱいいっぱいだった。

カバンの中でスマホが鳴る。
重い身体を起こして画面を見ると、表示されているのは彼の名前。


「・・・っ・・・タイミング・・・」


出るのを躊躇っていると、切れた。

・・・そして、また鳴りだした。

彼にしては珍しい。
何か急用かな。


「・・・もしもし?」
「彩音?今大丈夫?」
「うん、どうかした?」


一生懸命いつもの調子で言葉を発する。

そうやって頑張っていないと、全部彼に見抜かれてしまう気がした。

落ち込んでいるところなんか見せたくない。


「いや、なんか急に会いたくなってさ。」


胸がギュッと締め付けられるのがわかった。

どうしてこんな絶妙のタイミングでそんなこと言うの?

甘く優しい声色が身体中を巡る。


・・・ダメだ、泣きそう、


「・・・彩音?」
「・・・ご、ごめっ・・・」


"ごめん"と明るく言おうと思ったのに、必死になって出したその声は涙声以外の何でもなくて。

あぁ、何やってんだ私。


「今、家?」
「・・・」


これ以上何か言ったら止められなくなりそうだ。

沈黙をYesと判断したらしい彼は"待ってて"とだけ言い残し、電話が切れた。







玄関チャイムが鳴って我に返り立ち上がる。

電話が切れてからの時間が、長かったのか短かったのかもわからない。


ドアを開けると、一番会いたかったけど、会いたくなかった、大好きな人。

その優しい笑顔を見た瞬間、堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出した。

彼の前では笑顔でいるってずっと決めてたのに。
私が彼に元気を与えられる存在でありたい、って思ってたのに。


大きくて逞しい腕に抱かれて、気づいた時には子供みたいに泣きじゃくっていた。






「落ち着いた?」
「・・・」


その問いかけに無言で頷く。

どれくらいの間、彼の胸で泣いていたのだろう。

時々背中をさすってくれたり、頭を撫でてくれたり・・・。
そうやって触れる彼の体温は、ぐちゃぐちゃになった私の心を徐々に落ち着かせてくれた。

散々泣いたら、少しすっきりした気がする。


「ごめんね・・・」
「全然。」


そう言ってまた優しく笑う。

・・・その顔、ずるいよ。

再び力強く抱きしめられた。


「たまには甘えていいんだから。」
「・・・ごめん、」
「謝んないでよ、俺ってそんな頼りなかった?」


彼がそう言って笑う。

あ、そんな風に思わせちゃってたんだ、って初めて気が付いた。

そんなわけないのに。貴方ほど頼りになる人なんかいないのに。


「そうじゃ、なくて、」


泣きすぎてしゃっくりが止まらない。

彼が私の言葉を待ってくれているのがわかる。


「心配、かけたくなくて、・・・すごく忙しいの知ってるから、私が、負担に―――」


その瞬間、ふっと視界が暗くなる。

それ以上は言うな、と言わんばかりのキス。


「俺は彩音が大好きだから、大事だから、辛いことははんぶんこしてあげたいし、楽しいことは2倍にしてあげたい、」


優しい口調で、柔らかい声でそう言う彼の瞳は、まっすぐに私を捉えて離さない。


「どんなに忙しくても、だよ。」
「・・・」
「だから、ひとりで泣いちゃだめ。」
「・・・はい。」
「ん、よくできました。」


頭をくしゃくしゃされて、また少し視界が滲んだ。






(あっ・・・メイク・・・)
(心配しなくてもちゃーんと崩れてるよ)
(うぅ・・・見ないで・・・)
(ふふっ、恥ずかしがってんのも可愛い、)

2014.04.28