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『うたうおばけ』 くどうれいん

2024/01/18
『うたうおばけ』 くどうれいん

人生はドラマではないが、シーンは急にくる。
わたしたちはそれぞれに様々な人と、その人生ごとすれ違う。
だから、花やうさぎや冷蔵庫やサメやスーパーボールの泳ぐ水族館のように毎日はおもしろい―― 。
短歌、小説、絵本と幅広く活躍する著者が描く、「ともだち」との嘘みたいな本当の日々。

講談社

倒れた日から丁度一年が経った。一年経っても私は寝たきりの状態から解消されていない。病気は全然治らないし、なんなら悪化しているんじゃないか。苛々も底を尽きて、私の中には無力感が生まれつつある。

最近は本を読むパワーも無く、寝転んで脳を使わない単純なゲームをしたり、ぼうっとSNSを見ることで時間が過ぎ去るのをただ待つ生活をしていた。

憂鬱と卑屈を抑えられなかった私が、積読の中からふと手に取ったのは『うたうおばけ』だった。

小説のような複雑性のないエッセイなら、字に疲れてしまう今の私でも読めるのでは、と思って。結果的に内容の面白さも後押ししてすぐに読み終えてしまった。

例えばここに「駄目な貴方でも大丈夫」「ありのままの貴方を愛してあげてね」みたいな、つまらないことが書かれていたら本を投げ捨てていたかもしれない。私が『うたうおばけ』から受け取ったのは使い古された直接的なエールではなく、日々の可笑しみを愛す姿勢だった。

私が嘆いていた日常は自分自身がつまらないものに仕立て上げていたのだと思う。毎日「私なんかダメ人間だ」と卑屈になっていたから周りにあるものまでつまらなく感じていただけで。

くどうさんの紡ぐ言葉は温かい。じめじめした中でも包んでくれる温かさに安心感まで覚えてしまった。励ましの言葉なんか書いていないのに、エピソードに笑っていたら元気になっていた。上辺な言葉ではないからそうさせたのだろう。

また、元気がなくなったらただ笑いに『うたうおばけ』に会いに行こう。そしたらきっと自分を取り戻せる。

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