サイバーセキュリティスタートアップに入社して手放した3つのこと
概要
今回の話は、WRAP 24 : Spectrum Tokyo End-of-Year Meetupで話そうと思っていた内容を日本語に訳し、加筆したものです。
当日は急遽コーヒーの話をしたくなり、お蔵入りとなったてしまったので、当日話そうと思っていた内容をブログとして公開しています。
コーヒーの話はこちらで公開しています。
はじめに
こんにちは、Flatt SecurityでプロダクトデザイナーをしているHalです。今年の10月に8年間勤めていたフリー株式会社を退職しFlatt Securityへと転職しました。Flatt Securityに入社した経緯は下記のインタビュー記事をご覧ください。
Flatt Securityでは前職と比べて社員数の少ないサイバーセキュリティのスタートアップです。私が入社するまではプロダクトチームにデザイナーが不在で、プロダクトマネージャーもいないチームに飛び込みました。
入社して取り組んでいることは、プロダクトをデザインするだけでなく、この環境でどのようにしてデザインが最大限価値を発揮できるのかを自ら定義し、実践することです。
入社当時、サイバーセキュリティに関する知識はほぼゼロ。加えて英語でセキュリティの専門用語を交わすエンジニアたちの中に飛び込み「何が分からないのかすら分からない」状態でした。それでも商談に参加し、事業成長に必要な箇所をデザインしていくなど、素早くアクションを起こしていく必要がありました。
実際入社して2ヶ月でやったことを書き出してみると、
商談に15件以上参加
ユーザビリティテストを社外で5件実施、社内で4件実施
全社の認識を揃えるため、営業と開発メンバー、CTO、CEO、COOを巻き込んだペルソナ作り
幕張メッセでの展示会に参加し2日間で30人近くの顧客にデモを実施
上記の顧客理解を通して得た気付きを元に機能3つをリニューアル
自分自身でUIの改善を5件実装
です。
最初の2ヶ月で、「そんなに色々できたの?」と思われるかもしれませんが、実は全部自分1人でやったわけではなく、同時に「いろいろ手放す」ことを意識しました。
サイバーセキュリティスタートアップに入社して手放した3つのこと
今回の記事では、私がFlatt Securityにジョインして手放した3つのことを紹介します。
すべてをデザインしようとしない
一人でデザインしようとしない
ちゃんとしたユーザーリサーチの仕組みを作らない
1. すべてをデザインしようとせず、本質的な部分に絞る
初めてのプロダクトデザイナーとして入社すれば、周囲の期待は大きく、改善すべき箇所も山ほど見えます。その結果、数週間もしないうちに「やることリスト」がとんでもなく増えることもあります。
しかし、その全てのリストを消化していくことはやめるべきです。本当に重要な部分に絞ることが大事だと思います。ただ、何が重要か?と迷う方もいるかもしれません。私の場合は、次の2つの問いに答えることを意識しました。
事業における最大のボトルネックは何か?
そのボトルネックに対して、私が貢献できそうなことは何か?
もしその答えがわからなければ、事業における主要なステークホルダーに話を聞いてみることをおすすめします。私の場合、多くの商談に参加し、幕張メッセでの展示会でデモを行い、購買責任者とたくさん話す機会を設けつつ、CTOやBiz Devメンバーと議論を繰り返しました。
そして、事業成長に重要と思われるいくつかのプロジェクトに絞って機能改善に取り組み、その中のいくつかの機能が商談の場で高く評価される機能の1つになっています。
2. 一人でデザインしようとせず、みんなでデザインする
デザインはデザイナーだけのものではありません。特にFlatt Securityでは、セキュリティの専門家達がエンジニア向けにプロダクトを作っており、サイバーセキュリティのベストプラクティスを知っている集団です。
だからこそ会社全体を巻き込んで、一緒にデザインすることが重要だと思っています。デザイナーとして、ドメインを理解するためにエンジニアリングの学習は続けていますし、自分のポートフォリオ(hrtnde.com)をNext.jsやp5.jsを使って作り直すことができるくらいには知識が増えました。
ただ、サイバーセキュリティはエンジニアリングのプロにとっても難しい領域です。その領域に私が開発チームのメンバーと同じくらい詳しくなれるなら、エンジニアを名乗っても良いかもしれません。
ただ、私はこの環境でどのようにしてデザインが最大限価値を発揮できるのかを定義し、実践することを使命の一つとしています。そして、サイバーセキュリティという領域でデザインが最大限価値を発揮するためには、開発しているエンジニア達と一緒にデザインが機能する体制を作ることが大事だと思っています。
N1シートをエンジニアと一緒に作成
そのための取り組みの1つを紹介します。
プロジェクト立ち上げ時に「N1シート」を書いてもらうようにしました。これにより開発チームのメンバーはユーザーのニーズやペイン、提供できる価値について整理することができます。このシートはエンジニアが普段触れるコードベースに置いています。また、このアイデアはSmartBankさんの記事から得たものです。
https://blog.smartbank.co.jp/entry/thnink-n1
N1シートを書いてもらった後、記入者に質問を繰り返していくことで、一緒に顧客理解を深めていく活動をしています。一方、ただ書いてもらうだけでは「なぜN1シートを書くことがプロダクト開発で大事なのか?」が伝わりづらく、書くことが形骸化してしまう恐れがありました。
そこで、N1シートを書いてもらった後には下記のことを実践しています。
質疑応答しながら我々が提供したい機能の価値の言語化を一緒に行う
実際にインタビューを実施したファクトがあるのか、書いたエンジニアの主観によるものなのかを明らかにしていく
主観且つ確信がない部分はインタビューや顧客フィードバックを元にアップデートしていくことにする
言語化した提供価値を元に、エンジニアの前で私がユーザーシナリオを整理する
後日、そのユーザーシナリオを元にUIデザインしている様子を動画で撮影し、その録画をエンジニアに共有する
上記の3つを実施してみました。これを始めた時はやりすぎかも?と思っていましたが、デザイナーがプロダクトチームにいなかった組織にとって「デザイナーが何をするか分かりづらい」といった不安もあると思いましたし、一緒に働くエンジニアもこれまでデザイナーと働いたことがなかったという方が多かったので、積極的に関与していくことにしています。
全社を巻き込んだペルソナ作り
N1シートを書いてもらう以外にも、会社全体を巻き込んでペルソナ作りを行いました。しかし、私がこの取り組みを始めた時、入社して2週間しか経っておらず、ユーザーについて何も知りませんでした。そのため、ペルソナ作成を私が主導するのではなく、顧客と多く接点を持つメンバーを信頼し、アイデアを引き出してもらう役割で動くことにしました。
結果的にCEO、CTO、CCO、Bizメンバー4人、プロダクトチームのエンジニア3人、セキュリティエンジニア5人を巻き込みペルソナを作成し、我々が作っているプロダクトを今、誰に届けたいのかの目線を揃えることができました。
こうして会社全体をデザインプロセスに組み込むことで、一人でやるよりも早く進めることができたと思います。
3. 正式なユーザーリサーチの仕組みをつくらず、顧客と会える機会に潜り込む
入社した直後の私は、前職のフリー株式会社でのリサーチ文化が素晴らしかったため、新しい会社でも同様の文化を築きたいと思っていました。しかしリソースは限られ、予算もない中でゼロからリサーチ運用を構築するのは困難でした。そこで、私は入社後1ヶ月間可能な限り多くの商談に同席することにしました。これによって顧客の購買意思決定プロセスや、営業担当者が顧客に提供するガイダンスを理解するのに役立ちました。
また、Japan IT Weekという幕張メッセで行われた展示会にも参加し、2日間で30名以上の参加者にデモを行いました。計画的なユーザーリサーチを行う余裕はなかったものの、多くの顧客と直接会えたことで、事業状況を把握し、最も重要な課題にフォーカスする助けになりました。
もし、あなたが1人目デザイナーとして十分なリサーチ機会がない場合で苦戦していたら、商談やイベントなど、顧客に「潜り込める」場を探してみてください!
最後に
最後に、私がサイバーセキュリティ領域でデザイナーとして果たしたいミッションをお伝えします。昨今、情報漏洩やデータ改ざんなど事業継続を脅かすようなセキュリティインシデントのニュースを耳にすることもあり、サイバーセキュリティの重要性を感じている方も多くいらっしゃると思います。
一方、私が入社して多くのエンジニアと話す中で、技術のスペシャリストであっても、セキュリティは難しい分野だということを痛感しました。複雑な判断が求められ、些細なミスが大きなリスクにつながる可能性があります。だからこそ、サイバーセキュリティにはデザインが必要だと考えています。そして、私1人でデザインするのではなく、サイバーセキュリティのスペシャリストが集まるFlatt Securityで、組織の全メンバーが「デザイン」していける環境を作っていきたいと思います。
この記事でも一部紹介したとおり、サイバーセキュリティという領域はその専門性ゆえサービス提供者と利用者の情報格差が非常に大きくなっています。だからこそ、コミュニケーションの最適化を追求するデザインの力が比類なき価値を生むことができます。そんな環境で私と一緒にデザインしたい方は下記のカジュアル面談のフォームに応募するか、私にXまたはLinkedinでご連絡ください!