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【どんぶりに詰まった熱い想い】本格讃岐うどん けんたろう

八代市を通る県道、通称「臨港線」。沿線には八代インターチェンジや新八代駅、八代港などがある。その臨港線から一本入ったところに「本格讃岐うどん けんたろう」はある。

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2020年3月現在、世の中は外出を控えるムードに包まれ、飲食店にも大きな影響を及ぼしている。そんな状況下でも「けんたろう」には連日行列ができており、お店の前にある広い駐車場は今日も車がひしめき合っている。

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待ってでも食べたいと思わせる魅力、そして不穏な状況を乗り越える逞しさ、その源には一体なにがあるのだろうか。

私はWebライターの活動を始める前に、短期間こちらでアルバイトで働かせて頂いていた。そのご縁をきっかけに今回の取材をお願いする運びとなった。

八代で人気のお店として話しを聞かせて欲しいことを伝えると、「うちそんなに人気なの?」と、大将から思わぬ反応が返ってきた。私が大将に「連日行列ができる人気店です!」と念押しをしつつ、取材をして記事にしたいとお願いすると、快く応じてくださった。

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大将と奥さん

また、今回は初めての取材ということで、Webライター養成講座の講師である花野先生に同行して頂いた。


取材のまえに、まずは実際にうどんを頂くことに。メニューには気になるうどんがたくさん並んでいる。

メニュー

この日私が食べたのはこちら。

人気メニューの「とり天梅とろぶっかけうどん 」(750円)
サクサク衣のとり天をほおばりつつ、出汁のかかったとろろを麺にしっかりと絡めてすすると、旨みのお祭り状態。食べ終えるころには、梅の酸味と大葉の爽やかさが口に広がって、味の変化が楽しめる。
(2020年3月7日時点の情報)

とり天梅とろ1

花野さんが食べたのはこちら。

「海老もち うどん 大盛」(760円)
海老天 と もち天ののったかけうどん。
花野さんいわく「うどんが風呂に入っとる」極楽状態。
海老天 と もち天の組み合わせが魅力的。
(2020年3月7日時点の情報)

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店内では大将が麺を打つ姿を見ることができる。

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天井が高く、明るい解放感のある空間。

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カウンター席もあるので、一人でも来店しやすい。

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■ 行列の絶えない人気店の始まりは苦労の日々だった。

ーー 最近の世情的に人が少なかったりするのかと思ったのですが、全然影響はないようですね。

大将「はい、おかげさまで。」
奥さん「学校が休みになって家族連れの方が多くなってるので、むしろお客さんが増えてる感じもありますね。」

2010年3月に開店した「けんたろう」は、この3月でちょうど10年目の節目を迎えた。この日も3時前には麺が売り切れている繁盛っぷり。

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連日多くのお客さんで賑わっているが、開店当初は大変な苦労の日々が続いた。

大将「恥ずかしい話ですが、月末に集金の方が店に来ると電気消して居留守つかったこともありました。」

奥さん「来月こそは来月こそは…の繰り返しでなんとかやってました。」
 
”11時~完売するまで” という営業時間は開店当初から変わらない。限られた時間の中ではお店の回転率が重要だ。効率よく商品を提供する流れを構築しても、それがスタッフに定着するまで売り上げはなかなか伸びなかった。

大将「開店して3年目ぐらいになると、お客さんも増えてきて『繁盛してるね』と声をかけられることもあったんですが、実際のところ売り上げはまだまだでしたね。」

奥さん「お客様を早く案内して商品提供をするという流れがスタッフに定着してくると、ようやく軌道に乗り始めましたね。」

ーー今の状況からは想像もつかない苦労があったんですね…。差し迫った状況での危機感が、その苦労を乗り越える原動力になったのでしょうか?

大将「危機感という感じではなくて、ここを踏ん張れば絶対やれるという”自信”がありました。提供しているものの良さをわかってくれる人が絶対いるから、あとは自分たちがどうやっていくかだと思っていました。」

■ 苦労時代を支えたゆるぎない自信。

大将は香川で4年間の修行時代を過ごしている。そのまえには一人旅もしていて、お店を持つ前にもタフな状況に身を置く経験をしている。

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大将「自分が積み重ねてきた経験、費やしてきた時間、そういった要素が組み合わさって自信になったんだと思います。スポーツでも厳しいトレーニングをしていたり、乗り越えてきたものがあればあるほど、なかなか折れにくくなったりしますよね。」

苦労しながらもお店を続けていくうちに、お客さんの反応にある変化があらわれる。その変化はお店としての自信をさらに確信的なものにした。

奥さん「お客さんが『ごちそうさまでした』だけじゃなくて『ありがとう』や『おつかれさま』と言ってくださる回数が増えてくるんですよ。
一生懸命やってることに素直に反応してくださる人がすごく多くて、それを見ながら絶対大丈夫だと思ってました。」

■ 徐々に出来てきた行列。成長のカギは課題と研究にあり。

奥さん「最初のころは待つぐらいなら帰るという方がほとんどで、あまり行列もできませんでした。それが徐々に列が出来てくるようになって、気が付いた時には待ってでも食べてくれるようになってましたね。」

ーー店先に並んで待っている人は「今から食える」っていう良い顔してましたね。(花野)

奥さん「それでも、やはりお待たせする中で不満の声が耳に届くこともあります。」

大将「不満やお叱りの言葉は、お客さんから与えられた課題であって、それを研究して成長するものだと思んですよね。」
 
「けんたろう」のうどんの出汁は、化学調味料を使わずに作られており、その混じり気のなさが「薄い」と感じられることもあるという。

大将「出汁が薄いと言われた場合に、単純に濃くしてみようというのも違うし、かと言って『うちはこの味でやってますので』と聞き入れないのも違う。どうやったらその『薄い』感じをなくして満足してもらえるか、そうやって課題をクリアすることで成長につなげています。」

奥さん「化学調味料を使わず、純粋に『お出汁』の元となる素材と、決まったメーカーの『お醤油』を使っているんですね。その中でどう味を改善するかを研究しています。」

ーー海老天も美味しかったです。あんなに筋肉質なえび天は初めて食べました。(花野)

大将
「天ぷらは当たり前に作れば美味しいんですよ。でも家で揚げたてを食べれることってあまりなくて、料理してるお母さんがちょっとつまみぐいする時がいちばん美味しいんですよ。なので、うちの店では揚げたてを食べれるというところを目指してやってます。」

素材選びでは、質と価格のバランスがしっかり考えられている。美味しさだけではなく親近感も大切な要素だ。

大将「海老自体はめずらしいものではないんですが、素材はちゃんと選んでます。車海老なんか使ったらうどん一杯1000円とかになるので…みんなが手を出しやすい価格で提供できるように素材選びをしています。」

奥さん「総合的な部分でも目指すところがありますね。『菜種油の香り』と『出汁の風味』と『天ぷらの食感』が三位一体なるみたいな…うまいこといったら、どんぶりの中でマリアージュしてるみたいな。そういったところも目指してます。」

どんぶりの中でマリアージュ

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ーーメニューではとり天が人気ですよね。うどんと別で注文が入ることもよくありますし。

大将
「やってることは普通のことなんですよ。ちゃんと仕込みに気を使って、揚げたてで出す、という基本的なことをやってます。」

基本的なことほどないがしろにされがちだ。そこをあえて拾い上げていくセンスが「けんたろう」の旨みになっているのだろう。

大将「鶏天って高い値段で出すわけじゃないんで、その1個1個に気を使って労力注ぐってなかなか大変だと思います。揚げたてでも、そうでなくても値段は一緒ですからね。 でも、『さぁ揚げたてをどうぞ!』と出したとり天と、30分前に揚げたとり天とを比べたら、それはもう天と地ぐらいの差があるんですよ。」

さあ揚げたてをどうぞ!
とり天盛り(290円)

とり天盛り2

ーー基本に忠実に、今までやってきたことをちゃんと継続して、さらに研究を重ねるということですね。(花野)

奥さん「やってることはすごく地味なんですよ。営業時間はあっという間に過ぎるんですけどね。そこまでの過程は地味なことを毎日毎日繰り返してます。」

地味なことの繰り返しが、「行列」という眩しい結果を生んでいる。努力の賜物とはこういうことなのだと痛感した。

■食事だけじゃない、満足の美味しさへのこだわり。

ーー お店のみなさん明るいですよね。行列ができる店って、ギスギスしてたりするところもあるんですけど。(花野)

奥さん「お客さんは何に対してお金を払ってるかというと、料理だけじゃなくて、お店の雰囲気とか、従業員さんの態度とかもですよね。」

美味しい料理ほど、ちょっとしたことで台無しなってしまいがちだ。お客さんの視点に立った細やかな対応には、接客へのプロ意識を感じられる。

奥さん「笑顔はもちろん、ミスがあれば真摯に謝り訂正する。忙しくてもその大変さをお客さんには向けない。お客さんには納得して払って頂きたい、よろこんで欲しいという想いがあります。」

出来たてのうどんを、一番美味しい状態でお客さんに提供するには、スタッフとの連携も大切だ。大将と奥さんとスタッフが一つのチームとなって、よりレベルの高いサービスを提供する。

大将「美味しいうどんや良いお店っていうのは、『こだわりの○○』とかそういう一言で出来上がるものではなくて、色んなものが組み合わさって、積み重なって出来上がっていくのだと思います。」

■進化。人生の基盤と夢が道しるべ。

ーー忙しい日々の中で、食事の研究からお店づくりのことまで取り組みつづけるのは簡単なことではないと思います。そこには信念というか基盤になるようなものがあるのでしょうか。

奥さん「人生の基盤が何かと言うと、『人の役に立つこと』ですね。」

大将「すべての人を喜ばせるのは難しいかもしれないけど、うちに食べに来てくれた人がちょっと幸せになる、例えば『あー美味しかった』と笑顔になる、それなら我々にでもできるし、それしかないと思ってます。」

奥さん「あとはプラスアルファ、夢があるからですね。現状が苦しくても、きらりと光る夢があったら乗り越えられるんですよ。」

ーーちなみにその夢というのは?

奥さん「もっとたくさんのお客さんに来てもらうこと。ちょっとしたパニック!? になるぐらいまで来てもらえるようにしたいですね。」

大将が修行をした香川県では、うどん屋に行列ができるのは珍しいことではないらしい。観光客が訪れる店では2時間待ちの列ができることもあるそうだ。

奥さん「私は香川出身なんですけど、主人も香川で修行してて一緒に仕事もしてたから、今の行列とか見てもそんなに驚くことではないんですよ。」

大将「普通はこころ折れちゃいますね。注文が一斉に大量に通ったりすると、呆然とすると思いますよ。」

お店に連日行列ができてもなお、成長をつづけている理由がわかった。
現状に満足するどころか、どんどん進化していく勢いだ。

■八代という土地での可能性。

ーー香川で修行されて店を出すとなったとき、それが八代だったのは、やっぱり地元だったからですか?

大将「やっぱり単純にそうですね。良い店が足りないのは八代だな、絶対ここに必要だなと思っていました。」

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ーー大きな志を持ったお店があることを知っただけで、同じ八代市民として勇気をもらえます。今日聞いた話を講演会などで発信して欲しいぐらいです。

大将「発信という点でいうと、八代でも自分たちが行ってなかったり、知らなかったりする店があって、その中にはものすごい技術を持った料理人の方もいると思うんですよ。まだ発信されてなくて、行けていないお店とかがあったら知りたいですね。」

ーーこれがいいきっかけだと思います。発信することで、いままで知らなかったお店の方と出会うこともあると思います。ここのお店行ったことないけど、気になるとかあれば是非言ってください。(花野)

ーー是非、そこに取材に行きます!

■取材後まとめ

落ち着いた貫禄ある大将と、明るく人を惹きつける奥さん。
お二人が交わされる言葉から、同じ想いを大切にされていることが伝わってきた。

「美味しいもの」を「たくさんの人に」

その両方を実直に追及される姿勢からは学ぶことがたくさんあった。

最初に取材の申し出をした時に、大将が『うちそんなに人気なの?』と言ったのは思いがけない反応だったが、取材を終えた今では納得ができる。目指すところは今よりもっと高いところにあったのだ。

10年目を迎えた「本格讃岐 けんたろう」が、これからどう進化していくかが楽しみだ。

記事を書きながらすっかり胃袋が 「けんたろう」うどんモードになってしまった。さて、今日は何うどんを食べようか…。

こうして「本格讃岐うどん けんたろう」の行列は今日も伸び続けていく。

■ お店の情報

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(2020年3月13日 現在)

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